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29 隣国との争い



 カテリーナさんとの件が落ち着いて、私は安心しながら結婚式の準備などを進めていた。そして、結婚式まであと少しとなった日に事件が起きた。


 以前から度々小競り合いがあったらしいのだが、今回ついに辺境伯領内の国境沿いの森で、領民が隣国リベライアの兵士に襲われたという。幸い命に別状はなかったが、これは大問題だった。


 この国とリベライアとは、昔は戦争をしていたり仲が良いとは言えなかった。今の王妃様はリベライアから嫁がれた方で、両国は落ち着いた関係を構築している。それなのに兵士に襲われるなんて。


 バートさんも事態の把握に動いていて、朝から姿を見かけない。ようやく帰ってきた時には、夜も遅くなっていた。


「バート様、お帰りなさい」

「ああ、起きていたのか」


 バートさんは疲れているようだし、表情は厳しい。


「食事はとられましたか?」

「いや、まだだ。すまない、またすぐに出かける」

「無理しないでくださいね」


 無理しない訳にはいかないだろうけど、心配くらいしてもいいだろう。バートさんは頷いて私の髪を撫でた。


「ありがとう」


 そして簡単な食事をとり、バートさんはまた出かけていった。



 朝になって、まだ帰っていないバートさんが心配だった。私が行っても邪魔になるし、屋敷にいるのが一番だけど。それでもバートさんの側で何か出来ないかと考えてしまう。


 ちょっとだけ見に行ってみようかな? でも絶対邪魔になるよね……。とりあえずカテリーナさんに相談することにした。


「今は無理でしょうね」

「そうですよね……」

「ええ、申し訳ありません。何人か捕まえてはいるのですが、まだ逃げている仲間がいるようで。この屋敷から出られるのは危険です」


 私が余計なことをしてバートさんに迷惑をかける訳にはいかないよね。我慢して屋敷で出来ることをしよう。そう思って部屋に帰ることにした。



 夜になってもバートさんが帰ってこない。何かあったら連絡があるはずだから、無事だとは思うけど心配だ。バルコニーに出て外を見るが、暗くて屋敷の庭くらいしか見えない。バートさん、どこにいるのかな? ここから見えたらいいのに。


 そんなことを考えていたら、視界の片隅で何かが動くのが見えた。庭に何かがいる。何だろう? 暗くてよく見えない。危険だと思わないといけないのに、そんなことを考えずに一人で庭に出てしまった。


 この辺だったと思うんだけど……。キョロキョロと辺りを見まわすと、木の影に隠れるように男性が座り込んでいる。私より年上に見えるその男性は、目を閉じ息が荒く、私が近付くのにも気付いていない。


 黒い髪が汗に濡れ、顔色が悪い。よく見ると、肩や足から出血している。放っておけなくて声をかけることにした。


「あの、大丈夫ですか?」


 ビクリと震えて、男性が目を開けてこちらを見た。助けを求めるように彼の青の瞳が揺らぐが、それは一瞬で、男性は逃げようと足に力を入れる。そして力が入らないようで動けずにいた。


「み、見逃してくれ……。逃げてきたんだ。奴らに見つかったら殺される」


 かなりの怪我で見過ごせないし、命を狙われているようだし、不審者を放っておくことも出来ない。


 多分彼はここから動けないだろうと考えて、私は急いで屋敷に人を呼びに行った。



 屋敷の人たちの手を借りて、男性を空いている部屋に寝かせた。そして傷の手当てをする。鎮痛剤を与えると、痛みが和らいだのか彼は寝てしまった。


「ヘンリエッテ様、夜に一人で庭に出てはいけません。不審者に近付くのも駄目です」

「ごめんなさい」


 カテリーナさんに怒られるのは当たり前だろう。何も考えずに出てしまったが、申し訳ないと反省している。


「ところで、彼はどこの誰なんでしょうね」


 カテリーナさんが疑問を口にする。私も気になっている。彼が起きたら聞くことにして、騎士の方に見張りを頼んで私たちは部屋に戻った。



 朝起きたときには、バートさんが帰ってきていた。ぐっすり眠っていて気付かなかった。バートさんのことをあんなに心配していたのに、熟睡してしまうなんて一生の不覚だ。


 着替えて支度が出来たころに、部屋をノックされた。


「ヘンリエッテ、少しいいか?」


 バートさんの声が聞こえる。私は扉を開けて挨拶をし部屋に招きいれた。バートさんもお風呂に入り仮眠がとれたようで、少しスッキリしたような表情だ。椅子を勧めると、アニカがお茶を用意してくれた。


「男性を保護したと聞いたが、一人で行動したのは危なかったな。君は自分のことを、もっと大切にして欲しい」

「ごめんなさい、バート様」


 迷惑かけないように屋敷にいたのに、やっぱり迷惑をかけてしまった。俯いて反省していると、バートさんは私の頭を撫でる。


「怪我人を放っておけなかったヘンリエッテの優しさは、素晴らしいと思っている」


 誉めてくれた。反省中だと言うのに、思わずニヤニヤしてしまいそうだった。


「それで、バート様、あの男性はもう目覚めていましたか?」

「いや、まだだ。熱が出ているみたいで魘されている」

「そうですか」


 起きていたら話が聞きたかったけれど、まだ無理そうだ。


「彼は私に、見逃してくれ、見つかったら殺されると言いました。何かから逃げていたのでしょうか?」

「……多分、彼は俺たちが探していたリベライアの人間じゃないかと思っている」

「それは……」


 昨日カテリーナさんが言っていた、逃げた仲間がいるってやつかも。何か内輪揉めで怪我をして逃げてきていたんだろうか。


「バート様、彼から話を聞くときに、ご一緒しても良いですか?」

「いや、ヘンリエッテに何かあっても困るし、あとは任せて欲しい」

「お願いです。少しだけでも話しをさせてください」


 昨夜の、彼の助けを求めるような視線が気になった。話を聞きたいと思った。


 バートさんは諦めたように、少しだけならと許可してくれた。



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