28 カテリーナさんの気持ち
バートさんとカテリーナさんのことを聞いたり、嫉妬したり、辺境に来て数日だと言うのに気持ちが忙しい。結婚式の用意もあるのに、心も体も忙しかった。
「ヘンリエッテ様、お忙しそうですが体調は大丈夫ですか?」
「あ、カテリーナさん」
廊下でカテリーナさんに出会う。気まずい。私が一方的に微妙な気持ちになっているのは理解しているが、カテリーナさんは悪くないが、気まずい。
「体調は大丈夫です。それで、あの、バート様にカテリーナさんとのことを聞いたのですが……」
「ああ、結婚の件ですね」
カテリーナさんは普通に話し始める。全然大したことなさそうで、あれ? 私深刻に考えすぎた?
「アルバート様があまりにも結婚相手を見つけないので、周りから勧められただけですよ。お互いに幼なじみくらいの気持ちしかありません」
「そうですか……」
「ええ、心配なさらないでください。多分、ヘンリエッテ様と会われなくても結婚しなかったと思いますよ」
えっ? バートさんは将来を考えてたって言ってたのに? カテリーナさんは無いだろうと思ってたのか。
「アルバート様は王都では人気がないとお聞きしたことがありますが、こちらでは人気なんですよ」
「ええ、気付いてます」
「でも全然女性に興味を持ってないんです。誰かから好意を持たれてるのも、これっぽっちも気付いてません」
「やっぱり、そうですか」
「ええ。そして、昔、どこぞのご令嬢からの縁談が持ち込まれることがあったんです」
なんですって? それは聞き捨てならない。私が驚いているのを気にせずカテリーナさんは続ける。
「でも縁談の席で貴族らしくしないと、と力が入って相手に怖がられて。相手が可哀想だからとお断りされてました。そして、俺はモテないからな、とさっさと結婚を諦めていらっしゃいました。それからは周りが心配しても全然聞いてなくて」
「それは……」
駄目なんじゃないだろうか? 貴族として、血を残すためにも婚活頑張らないといけないのでは? いや、私としては今まで婚活されてなくて良かったけど。
「私との話が出たときも、何も思ってないような感じで。カテリーナが嫌じゃないなら、知り合いだし大丈夫だろ、くらいの感じでした。また嫁ぐなら知り合いのほうが良いとは言いましたが、さすがの私も、あそこまで興味を持ってもらえない人と結婚するのは……と思いました」
「そんなに、だったんですか?」
「そうですよ。夕飯肉でも食べるかくらいの軽い気持ちで、みんなが勧めるからカテリーナに聞いてみるかってなったんだと思います」
バートさん、なかなか酷いな。カテリーナさんのこと好きだったんじゃないの? 私は、嫌だけど聞いてみる。
「あの、バート様は幼いころカテリーナさんのことが好きだったとお聞きしたんですが……。カテリーナさんが嫁に行って失恋したと……」
「そんなの勘違いですよ」
バッサリ斬られた。でも、バートさんは初恋だったし、悲しかったし、失恋だったって……。
「私が嫁に行って寂しかったのは本当だと思います。でも、それは恋じゃなかったはずです。多分いつも遊んでた友達がいなくなって悲しいと思ってたときに、フランク辺りが『それは恋だったんですよ。アルバート様失恋したんですよ』とか言ってるはずです」
「そんな、まさか……」
「多分、賭けてもいいですよ? アルバート様は恋だと思い込んでるだけです。私と遊んでたときも、戻ってきたときも何も変わりません。昔から、男友達といるくらいの態度ですよ」
バートさん、そんなに単純なの? だって、過去に好きな女性が嫁いで行って離れてしまったみたいな、しんみりとした感じで話してたのに。勘違いだと言われるなんて。
「あっ! あそこにフランクがいますね。ちょっと聞いてみましょうか?」
カテリーナさんがフランクさんを呼ぶ。フランクさんは、何だろうと不思議そうにこちらへ向かってきた。
「あなた、昔私が嫁いだときに、アルバート様を慰めなかった?」
「ええ、慰めましたよ。悲しそうにカテリーナ様が嫁に行ってしまった、と言っていらしたので。カテリーナ様のことがお好きだったんですね、失恋されたんですね、と伝えたはずです」
「それでバート様は何と?」
「確か、この悲しいのは失恋だったのか、知らなかった、とおっしゃられていたような……。それからすぐに元気になられたので安心した覚えがあります」
「すぐにとは、どのくらいで?」
「そうですね。失恋だと納得して、次の日にはお元気そうでしたよ」
カテリーナさんが、言った通りでしょ?と言いたそうな表情をしている。フランクさんは、質問が終わったようなので失礼します、と去って行った。
「カテリーナさんの言った通りでしたね」
「そうでしょう? ヘンリエッテ様と知り合われて、こちらに戻ったときに私のところにすぐに来られました。『素晴らしい人に出会った。彼女と結婚するのでカテリーナすまない』と謝られました」
「まあ……」
「あんなに自分の恋愛に興味なさそうでしたのに。誰かに恋してるアルバート様は初めて見ました。嬉しそうで、幸せになって欲しいと思いましたよ」
カテリーナさんが優しい眼差しで私を見る。私にも幸せになって欲しいと思ってくれているようだ。
「アルバート様も、私のときの気持ちとヘンリエッテ様への気持ちは全然違うでしょうに。私への気持ちが恋心じゃなかったって気付いて欲しいですね」
「でも、周りがわからないだけで、バート様は本当にカテリーナさんのことが好きだったのかも……」
人の心は見えないから、その可能性もあると思う。
「ないですよ。絶対ないです」
「でも……」
「ヘンリエッテ様、大丈夫です。アルバート様に私への恋心なんて一切ありません。本人にお聞きしたら良いですよ。それ本当に恋心でしたか? 勘違いの可能性は?って。きっと、そうかもしれない、と言われますよ」
「そんなこと」
「あります、あります。ヘンリエッテ様への恋心と全然違うから、気付いてくれるはずです」
カテリーナさんが笑いながら言う。なんだか、まだ少しモヤモヤしていた気持ちが綺麗になくなっていくようだった。
「ありがとうございます、カテリーナさん」
お礼を伝えるとカテリーナさんは、幸せになってくださいね、と私に微笑みかけた。




