27 バートさんとの仲直り
「バート様、おられますか?」
執務室の扉をノックすると、中からバートさんが飛び出してくる。
「ヘンリエッテ! 説明を聞いてくれるか?」
「はい」
私の肩を掴んでバートさんが焦ったように言った。フランクさんが、アルバート様お話しなら中で、と声をかけてくれる。バートさんが私を部屋に入れソファを勧めてくれた。
「私は席を外しますね」
フランクさんが出て行ったので、二人きりになる。バートさんは私の隣に座って、私の手を握っている。
「あの、バート様、先程は申し訳ありません。落ち着いて話せなくて逃げてしまいました」
「いや、あんな話を聞いたら落ち着けない気持ちもわかる」
「バート様がカテリーナさんのことを好きだったのかと思って取り乱してしまって……」
「ちゃんと説明するよ」
バートさんが私の手を握りながら話し始めた。
「俺とカテリーナは幼いころは、いつも一緒に遊んでいてな。剣の稽古も一緒にしていて、ずっと仲の良い友達だったんだ。それは成長しても続いていた」
懐かしい目をしてバートさんは話している。幼いころの良い思い出だったんだろうな。
「それで、俺が十六の時にカテリーナが婚約したんだ。そして彼女は結婚して去って行った。多分、俺の初恋はカテリーナだったんだろう。悲しかったから失恋だったんだろうな」
「……そうなんですね」
「それからは特に女性との縁もなく過ごしていたんだが、三年程前にカテリーナの夫が亡くなり彼女が戻ってきたんだ」
そこで話を止めて、バートさんは私の目を覗き込む。バートさんの初恋の話なんて聞きたくなかった。他の人を想っていた時があるのが悲しい。過去だとわかっていてもつらい。泣きそうになっている私を見て、バートさんが悲しそうな顔をした。
「カテリーナが戻ってきても恋心は再燃しなかった。カテリーナも俺のことなんて何とも思ってない。普通の昔からの友人として接していたよ」
「……はい」
「でも、周りは心配してくれた。俺の跡継ぎのことを考えて、戻ってきたカテリーナのことを勧められた。お互いに恋という気持ちはないけど、政略結婚するなら昔からよく知ってる彼女が良いかと思ったんだ」
涙が溢れてしまった。バートさんがハンカチを取り出し、目を拭ってくれる。
「それで、相手が見つからなかったら彼女との将来を考えてたんだ。カテリーナもまた嫁がないといけないなら、昔から知ってる俺でいいと言っていた」
「そうだったんですね」
「でも、俺はヘンリエッテに出会ったから。こんなにも人に惹かれることがあるのかって思った。ヘンリエッテ以外目に入らなかった。だから、カテリーナにもそれを伝えた」
「バート様……」
「カテリーナは喜んでくれたよ。俺に大切な人が出来て良かった、幸せになってくれ、と言われた」
バートさんは何も隠さずに、私に全てを伝えてくれている。
「だから、ヘンリエッテ。今の俺には君だけだ。君以外いらないし、君以外と結婚したいと思わない」
バートさんが私を抱きしめる。私も抱きしめ返した。彼は少し体を離して、私の額にキスをした。
「俺の配慮が足りなかった。傷つけてすまない。ヘンリエッテ、泣かないでくれ。俺は君を愛している」
「バート様、私も愛しています」
涙が止まらない。バートさんは困った顔をした後、私の頬に口付けた。
「ヘンリエッテ、俺を許してくれるか?」
私が頷くと、バートさんが安堵の息を吐いた。
「私はバート様が初恋でしたから、バート様の初恋がカテリーナさんだと聞いて嫉妬しています。小さいころから仲が良いと聞いて、結婚を考えていたって聞いて嫉妬しています」
「ああ、すまない」
「こちらの街の女性たちもバート様に熱い視線を送ってました。バート様、自分でモテないと思っているだけで、とてもモテてますよね」
「うん? なんのことだ?」
「街に出たとき、バート様すごく女性から注目浴びてたんですよ! なんで自分はモテないとか言ってるんですか? 絶対に今まで気付いてないだけでアプローチされてると思います」
「そんな訳ないだろう……」
「いえ! 絶対あります。だって、こんなに素敵なバート様なんですよ?」
何を言っているんだ、と呆れた顔をしているが、バートさんは自分をわかっていない。
「俺は全然モテてなかっただろ? 王都の夜会や舞踏会でも遠巻きにされてたし。碌でもない噂されてたの知ってるだろ?」
「王都の貴族女性は細い感じの男性が好きだからですよ! バート様が王都でモテないのは私にはありがたかったです。でも、こちらではバート様は男らしくて人気じゃないですか! 嫉妬ばかりです」
呆れた顔だったバートさんが、今度は嬉しそうにしている。
「何をニコニコしてるんですか! 私はつらい思いをしてるんですよ」
「す、すまない。いや、ヘンリエッテの嫉妬が嬉しくて顔が自然に……」
バートさんはキリッとしようとしたが、すぐに目尻が下がる。もう! なんで笑うの!
「もう、知りません! バート様なんて口聞いてあげません!」
「いや! すまない、ヘンリエッテ! 笑って悪かった! だから、そんなこと言わないでくれ」
バートさんが、ぎゅうぎゅうと私を抱きしめる。
「それなら俺も言わせてもらうが、ヘンリエッテもモテてるよな?」
「何のことですか?」
「夜会や舞踏会でも男性に見つめられて誉められてたよな。縁談の話もたくさん来てたんだって? こっちでも男たちから注目されてたし。ニコラスの初恋相手で。俺も嫉妬してばかりだ」
「それは社交辞令だって言ったじゃないですか。それにニコラスも昔の一瞬の話ですし、こちらで男性に注目されてるってのも意味わかりません」
「いや、ヘンリエッテは気付いてないだけでモテてる。俺は君が他の男に取られないか不安で仕方ないって言ってるだろ。もっと自分が狙われてることを自覚してくれ」
バートさんは心配しすぎだと思う。私がモテると勘違いして、嫉妬して、心配して。それだけ私のことが好きなのだろうなって自惚れたくなる。
私はギュッと抱きしめられながら、そんなことを考えていた。




