表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

25 バートさんのお母様



 無事にバートさんのお屋敷に着く。王都の屋敷と違い、さすがに防衛に優れた堅牢な建物だ。

玄関前で馬車から降りると使用人たちが出迎えてくれた。


「アルバート様、お帰りなさいませ」

「ああ、フランク。こちらがヘンリエッテ嬢だ」

「ヘンリエッテ様、執事のフランクと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」

「ヘンリエッテ・フォーゲルです。これからお世話になります」


 挨拶が終わると、バートさんと一緒にフランクさんに屋敷を案内されながら、私に用意されている部屋に向かった。


「こちらが、ヘンリエッテ様のお部屋です」


 案内された部屋は落ち着いていて、少し可愛い部屋だった。家具はシンプルで、過ごしやすそうな感じだ。部屋にはもう一つ扉があって、そこは夫婦の寝室に繋がっているとのことだった。


 バートさんが少し顔を赤くして、結婚式までは鍵をかけておくからと安心させるように言ってくれた。気遣いが嬉しい。


「あー、その、夕食まで部屋でゆっくりしてくれ。俺は少し書類を片付けてくる」

「は、はい。ありがとうございます」


 バートさんは恥ずかしかったのか、仕事をすると言って部屋から出ていった。私も正直恥ずかしい。


 言われた通りに、部屋でゆっくりと過ごす。少し疲れていたのか眠ってしまった。そろそろ時間ですし用意しましょうか、とアニカに起こされる。服を着替え髪を整え終わったころ、バートさんが部屋に迎えに来てくれた。



夕食の席には見知らぬ女性がいた。バートさんの知り合いかな?と思っていると紹介される。


「俺の母上だ」

「初めまして、ヘンリエッテさん。アルバートの母のアマーリアよ。どうか気軽に接してね」


 突然のお母様登場に、心の準備が出来ていなかった私は驚いた。


「初めまして、アマーリア様。ヘンリエッテ・フォーゲルと申します。よろしくお願いいたします」

「そんなに畏まらないで。可愛い娘が出来るのを楽しみにしていたのよ」


 アマーリア様は優しそうで、穏やかそうな方だ。バートさんはお父様を何年も前に亡くしている。アマーリア様は近くのお屋敷で暮らしているらしい。


「さあ、夕食にしましょう。ヘンリエッテさん、お腹が空いたでしょう? たくさん召し上がってね」

「ありがとうございます」


 テーブルの上には色々な料理が並んでいる。初めて見るものもあるので、こちらの地方の料理なのかもしれない。どれも美味しそうで楽しみだ。


「それにしても、バートがこんなに素敵なお嬢さんを連れてくるとは思わなかったわ。ヘンリエッテさんは、バートでいいの?」

「母上!」

「バートさんが良いです。バートさんと結婚したいと思いました」


 アマーリア様の聞き方は、嫌な感じじゃなかった。なので私はバートさんが良いと自信をもって伝えた。それを聞いてバートさんの口元が嬉しそうに綻ぶ。


 食事をしながらアマーリア様と話していると、どんどんと質問が飛んでくる。私のことを知ろうとしてくれて嬉しい。


「ヘンリエッテさんは本当に可愛いわよね。たくさんの男性から可愛いと言われなかった?」

「そうですね。貴族の方たちは社交辞令がお上手ですから、可愛い綺麗だと誉めてくださいました。みなさん口がお上手ですよね」


 貴族の方たちは、みんな多少は裏表があるものだ。本心ではどう思っているのかわからないけど、私も社交辞令で可愛いと言われていた。


「社交辞令? ヘンリエッテはそう思っていたのか?」


 バートさんに聞かれる。あんなの社交辞令以外に何があるの?と不思議に思っていると、アマーリア様に聞かれた。


「ヘンリエッテさん、結婚の申し込みはたくさんあった?」

「どうでしょう? 色々とあったみたいですが、興味がなかったので、あまり知りません。釣書がまた届いたと父から聞かされたことはあります」

「興味がなかったの?」

「はい。あの頃は初恋もまだでしたし、男性を好きになる気持ちがよくわかりませんでした。社交界でお淑やかな令嬢だと噂になっていたので、多分そのような人物を嫁に貰いたい家から申し込みがあったのだと思います」


 思っていたことを言うと、アマーリア様は驚いた顔をしていた。辺境と王都とは、だいぶ事情が違うのかな? 辺境ではお淑やかな人は結婚の条件に入らないのかもしれない。


「ヘンリエッテ、君は自分のことを綺麗だとか思ったことはないのか?」

「えっ? ありませんよ。私は少し目がきつめですし、兄様に比べたら全然綺麗でもないですし」

「男性から誉められているだろう?」

「もう、バート様。社交辞令なんて間に受けては駄目ですよ。そんなのみんなに言ってることなんですから」


 女性関係がしっかりしているバートさんは、誰のことでも誉めるということがないんだろうな。王都の貴族の口の上手さに驚いているのだろうか。


「ヘンリエッテ、俺は君のことを美しいと思ってる。君は可愛いし可憐だ」


 突然バートさんが私を口説きはじめた! 何? 王都の男性に対抗したくなったの? お母様の前だと言うのに恥ずかしい。私は思わず俯いて照れた顔を隠してしまった。


「あ、あの、バート様。みんながいますし、そのようなことを人前で言われるのは恥ずかしいです」


 そういうのは二人きりのときにして欲しいな。


「そ、そうだ、食事の続きをしましょう。冷めたら勿体無いです。美味しくいただきましょう」


 話を変える。そう、今は口説かれて嬉しいとか思っている場合ではない。食事を楽しみつつ、バートさんのお母様と仲良くならなければいけないのだ!



 夕食はどれも美味しかった。少し食べすぎたかもしれない。アマーリア様は、またゆっくりお話ししましょうねと帰っていかれた。結構仲良くなれたんじゃないかと思う。


 バートさんが私を部屋まで送ってくれる。そして、扉の前で私を抱きしめた。


「バート様? 突然どうしたんですか?」

「ヘンリエッテが俺を選んでくれた奇跡を噛み締めてる」

「奇跡だと思っているのは私のほうですよ。バート様に会えて良かった」

「……本当に、間に合って良かった」


 間に合うの意味はわからないけど、バートさんが安心してるのなら良いことだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ