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24 新たな出会い



 バートさんの顔が離れていく。赤い顔が見えるけれど、私だってきっと真っ赤な顔をしているだろう。恥ずかしくて顔が見れない。


「ヘンリエッテ。その……、嫌じゃなかったか?」

「嫌じゃないです! 嬉しかったです!」


なんでそんなこと聞くのよ。恥ずかしくてバートさんに心の中で文句を言ってしまう。そして、私。何故そんなに元気に答えてしまったのか。もっと恥じらいながら言えたら良かったのに。


「バート様、あの、えっと、自信つきましたか?」


 自信が欲しいと言ってたし、これで愛されてるって自信がついたかな?


「まだついてないな」

「えっ?」

「だから、もう一度」


 そう言いながら、またバートさんの顔が近付いてきた。軽く唇が触れて、離れたと思ったらもう一度触れる。一度じゃなかった! 二度だった!


「あ、あの、バート様?」

「うん?」

「もう、無理です」


 恥ずかしくて無理だ。私はバートさんから離れて両手で顔を隠す。無理。顔見れない。見られるのも恥ずかしい。


「ヘンリエッテ」

「駄目です。顔が見れません」

「見せてくれないのか?」

「いくらバート様の頼みでも無理です! 少し私を隠れさせてください」


 バートさんの笑い声が聞こえる。これで自信ついてなかったら怒るよ。



 旅の間、バートさんは甘かった。いや、宿泊の部屋はもちろん別だし、キスも最初のあの時だけだ。それ以外に馬車で隣に座るようになったり、食事のときに、時々あーんしてくれたりする。最初は恥ずかしかったけど、段々慣れてきている。


「ほら、ヘンリエッテ。これも美味しいぞ」


 フォークを差し出して食べさせようとする。私も自然と口を開けている。


「あ、美味しいですね。これ好きです」

「そうか? なら、もっと食べるか?」

「ありがとうございます」


 私がモグモグと食べている姿を見て、バートさんはとても嬉しそうだ。子ども扱いしている訳ではなく、私に食べさせることが幸せらしい。


 あまり調子に乗って食べると太りそうで怖い。今、体型が大きく変わったら、結婚式のドレスが入らなくなりそうで怖い。


「もう、お腹いっぱいです」

「そうか。ヘンリエッテは少食だな」


 いや、結構食べてるよ? 多分バートさんの食事量が多すぎなんだと思う。



「じゃあ、そろそろ部屋に戻るか」


 食事が終わって、少し話しをしたら寝る時間だ。バートさんはおやすみと言って、私が部屋に戻るのを見守ってくれる。昼間はずっと一緒にいられるから、夜に別々の部屋になるのが寂しかった。



 旅も今日で九日目。明日にはバートさんの屋敷に着く。長いようで短かったなと思いながら宿を出た。天気も良いし、景色を楽しめそうだ。


 そうして、馬車に揺られてトコトコと道を進んでいると、外から話し声が聞こえた。馬車が止まり御者がバートさんに声をかける。馬車の扉が開いてバートさんが降りた。外を見ると馬を連れた女性がいる。


「アルバート様お帰りなさい。迎えに来ましたよ」

「ああ、カテリーナか」


 バートさんが女性と話しているのが気になって、そっと覗く。カテリーナと呼ばれた女性は、バートさんと同じダークブラウンの髪色で目は綺麗な青だ。長い髪を後ろで縛り、乗馬用の動きやすそうな服を着ている。とてもスタイルが良い。大人の女性といった感じだ。


 私は彼女を見た後に、自分の体に視線を落とす。……まあ、気にしないでおこう。


「俺はヘンリエッテと馬車で戻る。カテリーナはどうする? 先に戻って迎えの準備をしてくれるか?」

「いえ、準備は皆がしてくれています。私はアルバート様たちと一緒に戻りますよ。護衛も兼ねていると思ってください」

「そうか。なら頼む」

「ええ、任せてください」


 彼女はバートさんと親しそうだ。それにカテリーナと呼び捨てにしている。面白くない。バートさんが嫉妬してくれたときは少し嬉しかったけど、自分が嫉妬する立場だと苦しい。我儘だなと思う。


「アルバート様、婚約者様にご挨拶してもよろしいですか?」

「ああ。ヘンリエッテ」


 降りた方がいいのかな。バートさんの部下っぽい感じではあるけど、どうなんだろ? とりあえず、私が辺境伯領の方に受け入れてもらうためにも、降りて挨拶しておこう。


 私はバートさんの手を借りて馬車から降りる。私の姿を見て、カテリーナさんは少しだけ驚いた表情を見せた。けれど、それは一瞬ですぐに笑顔に変わる。


「ヘンリエッテ・フォーゲルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「カテリーナ・シュルツと申します。こちらこそ、長い付き合いになると思いますので、よろしくお願いいたします」


 カテリーナさんは感じの良い笑顔で挨拶してくれた。私も無難に挨拶できて良かった。安心していると、バートさんがカテリーナさんのことを教えてくれた。


 カテリーナさんは男爵家の方らしく、小さいころから剣を学んでいて下手な男性より強いと言っていた。私がこちらに住むことで、カテリーナさんは外出の時などに私の護衛についてくれることになったらしい。


 こちらでは貴族のご令嬢も剣を学べる。王都でお淑やかな振る舞いを求められることは窮屈だった。私も小さな頃から辺境で過ごしたかったな。


「私の護衛だったのですね。ありがとうございます。これからよろしくお願いいたします、カテリーナさん」

「任せてください。必ずお守りしますよ」

「お願いします」


 挨拶が済み、また馬車に乗る。カテリーナさんは隣を馬に乗ってついて来ていた。


「とても良い方ですね」

「ああ、カテリーナなら君の護衛にピッタリだと思う」

「そうですね。バート様、ありがとうございます」

「俺にとって、ヘンリエッテの無事が一番大切だからな」


 バートさんは、私が拐われたことを後悔している。助けてもらったけれど、暴力を振るわれる前にどうにか出来なかったのかと、悔やんでいる。バートさんは何も悪くないのに。


「私、バート様にとても大切にされてますよ。私だってバート様が危ない目にあって欲しくないです」

「ありがとう。俺はヘンリエッテとエマの二人からお守りを貰ってるからな。大丈夫だ」


 バートさんが懐に手を入れる。二つのお守りが出てきた。大切にしてくれてると思うと胸が温かくなる。


「バート様、落ち着いたら街に行きたいです。私もバート様からお守りいただきたいです」

「いい考えだな。是非俺からも贈らせてくれ」


 早く一緒に街を歩きたいな。これからの生活が楽しみだ。



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