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21 絶体絶命


ヒロインたちが暴力を受けます




 前に夜会で聞いていた宝石を盗まれた話、犯人はロルフさんだったんだろうな。


「どうしても、これが欲しくてチャンスがないかな?って調べてたら、近々誰かを誘拐するって知ったんだ。お近付きになって仲間のふりして、いくつかある屋敷に出入りしてたら、エマちゃんが誘拐されてきて驚いたよ」

「それは、驚いたでしょうね……」

「ほんとに。誰が拐われてきても助けようとは思ったけど、エマちゃんなら絶対助けないといけないよね」

「ありがとうございます」

「そうだ、バート、今朝王都に来てたよ。血相変えてエマちゃんのこと探し回ってた」

「バート様、やっぱり私のこと探してくださってるんですね。それでロルフさんはバート様のこと見てただけですか? 伝えないって言ってましたよね」


 思わず冷たい目で見てしまう。気が気でないバートさんを見学してきただけとか、ロルフさん酷すぎる。


「ヒント出してきたから。ほら、俺が直接言う訳にもいかないし、人を挟んでバートの耳に入るようにしてきたよ。エマちゃんたちが外に出たくらいには来るんじゃないかな」

「わかりました。とても不本意ですが、ありがとうございます」

「どういたしまして」


 ロルフさんはめげないな。しかし、宝石泥棒ということが私にバレたし、今後どうするんだろう?


「さあ、そろそろ本当に行かないと」

「ロルフさん」


 ロルフさんが私を急かす。なんだか、これでお別れな予感がした。悪い人だけど、憎めない気持ちもある。そんなことを考えていると、ロルフさんが切なそうな表情で私を見つめた。


「俺はね、キラキラした物が好きなの。エマちゃんもキラキラしてるから好きだよ。でもエマちゃんを連れて行ったら、きっとキラキラじゃなくなる」


 そして、ロルフさんの手が私の頬を撫でた。


「さよなら。俺が出てったら、エマちゃんも早く逃げなよ」


 彼が部屋から出ていった。私は深呼吸して気持ちを切り替えて扉を開ける。ロルフさんの姿はもう無かった。


「行きましょう」


 二人に声をかけて廊下に出る。廊下には誰もいない。私たちはなるべく音を立てないように、それでも急いで隠し通路に向かった。



 色の違う石を見つけて押すと、壁が開いた。どんな仕組みなのか気になるが、今は気にしていられない。狭い通路を通って外に向かう。通路はそこまで長くなく、思ったより早く外に出られた。


 そこは屋敷の裏だったみたいで、裏門に向かう。もう少し、あと少しでここから出られる!


「誰だ! どこから入った!」


 もう少しと思った瞬間にドーレ侯爵の声が聞こえた。驚いて振り向く。


「ヘンリエッテ嬢か? どうやってここに?」


 侯爵は何人かの護衛っぽい男性と一緒に立っていた。


「くそっ! 誰がヘンリエッテ嬢を逃がそうと……。まあ、犯人探しは後だ」


 侯爵が苛立っている。ロルフさんは捕まっていないみたいだけど、心配になる。


「……侯爵は何故ここに?」

「たまたまだよ。本当に偶然。犬がね、骨を咥えてきたんだ。掘り返されたのか不安になってね。来て良かったよ」


 骨……。何の骨か知りたくない。本当にタイミングが悪かった。ロルフさんもこうなるとは思っていなかっただろう。


「さあ、ヘンリエッテ嬢、部屋に戻ろうか。そんな変装で私を誤魔化せるとは思っていないだろう? 今夜は二人の記念になる夜だからね。大切な夜にしないと」


 鳥肌が立つ。気持ち悪い。そんな夜絶対に過ごしたくない。私はバートさんのものだ。他の人のものになんかならない。あと少し、なんとか逃げ出したい。


「戻りません。絶対に、私はあなたのものになんかなりません」

「それなら、どうするの? 逃げられないでしょう? 無理やり捕まえるしかないのかな」


 私は目で合図してハンスたちと三人で走りだす。裏門にたどり着いて開けようとしたが、重くてなかなか開かない。手こずっている間に追いつかれた。


 ハンスとエリックが私の前に立つ。二人は震えながらも私を守ろうとしてくれる。


「お嬢様に触るな!」

「俺たちは絶対に動かないぞ!」


 侯爵は呆れたように二人を見ると、顎を動かして護衛に合図した。


 目の前で二人が殴られた。なんてことするの。酷い、嫌だ。思わず私は倒れ込んだ二人を庇おうとした。

 ちょうど男が手を振り上げたところで、目を瞑って腕で顔を庇った途端に殴られた。


「きゃあ!」


 勢いで地面に倒れる。腕が痛い。暴力なんて振るわれたことがないから怖い。体が震える。


「何をしている! ヘンリエッテ嬢を傷つけるな!」


 侯爵が男に怒鳴っている。怖くて涙が出てくる。バートさん、怖いよ。助けて。もうここにいたくない。


 侯爵に腕を掴まれて、無理やり立たされる。


「顔は大丈夫か? この綺麗な顔に傷がついたらどうする気だ! 私が飽きたときに、売値が下がるだろう!」


 こんな時までお金の話。女性のことなんて本当に物としか思っていないのか。


「触らないで! 手を離して!」


 暴れる私を侯爵が押さえつけようとする。


「暴れるな! じっとしてろ!」


 それでも暴れる私に怒りが爆発したのか、手のひらで頬を叩かれた。痛い。悔しい。怖い。助けて。ハンスとエリックが殴られているのが見える。どうしよう。どうしたらいいの?


「やめて!」

「大人しくしてたら、優しくしてやる。暴れなければ、大事にしてやる。黙って大人しくついて来い」


 侯爵が腕を引っ張る。行きたくない。でも。


「……わかりました。大人しくついて行きます。ですから、あの二人のことは助けてください。お願いします。どうか、お願いします」

「最初からそう言えばいいんだ。おい、お前たち、殴るのをやめろ、そいつらも連れて来い」


 自分の無力さが悔しい。涙が止まらない。バートさん、ごめんなさい。今度こそ本当に婚約解消になるだろう。


 もう二度と会えないのかな。長い間会えてなかったから、最後に会いたかったな。


 侯爵に手を引かれ歩き出す。ハンスとエリックも男たちに引き摺られるように連れて行かれる。泣きながら歩いていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。



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