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16 二人の答え合わせ



 まだまだ私たちの話は終わらない。


「あの時にバート様、泊まる場所を誤魔化したでしょう? だから王都に良い人がいるのかと不安になったんです」

「あれは辺境伯だと言いたくなくて、微妙な返事になった。心配かけてすまなかったな」

「いえ。大丈夫ですよ」

「その後にエマから誘われて驚いたよ。正直懐かれて嬉しいとも思った。俺みたいな男と本当に出かけたいのかと疑問だった」

「だって初恋だったんです。少しでも一緒に過ごしたいと思うでしょう?」

「こうやって聞くと嬉しいな。でもエマは俺に懐いてくるのに、最後は一線引いてただろ? 俺あの時は下心じゃなく、本当に可愛らしい妹相手みたいな気持ちで接してたんだ」

「私も手紙のやり取りしたかったんです。でもバートさんは平民だと思っていたし、きっと将来一緒にはなれないでしょう? だから私の恋はあれで終わりだったんです」


 バートさんと目を合わせると、バートさんは寂しそうな顔をした。あれで終わり。その後に夜会で出会わなければ、二度と会えなかったかもしれない。


「夜会に行って良かった……」


 バートさんは私のことを愛おしそうに見つめる。


「あの夜会、辺境伯様が結婚相手を探しに来たと聞いたんです」

「結婚相手? 誰がそんなデマを」

「えっ? 違ったんですか?」

「結婚相手なんて探してないな。どうしてもと頼まれて付き合いで参加しただけだ。いつも通り居心地が悪いからさっさと帰ろうと思ってたんだよ」

「そういえば、どうしてバート様は夜会であんなに無表情なんですか? みんなに冷たい人だと勘違いされてましたよ」

「俺、ああいった場所は苦手なんだ。でも一応貴族らしくきちんとしようと思うと、どうしても力が入って怖そうな顔になってしまって」

「猛獣を素手で倒せそうとか言われてました」

「……無理だろ」


 バートさんが呆れたように言うので、思わず吹き出してしまった。バートさんもつられて笑っている。


「結婚相手を探してるって聞いたので話しかけるきっかけを探してたんです。そうしたらバート様のそばにボタンが落ちていたので、多分違う人のだろうとわかってましたが声をかけました」

「あの時は驚いたよ。可憐な令嬢が俺のところに近付いてきて、恥ずかしそうに声をかけるんだからな。しかも二人で話そうと誘っても嫌がらないし、俺のこと素敵な人だと言ってくれるし。俺は簡単に君に落とされたよ」

「そうだったんですね」


 あの時声をかけて良かった。もし私みたいな人間がもう一人いたら、バートさんはその人のことを好きになってたかもしれないと思うと恐ろしい。


「デートに誘ったら喜んでくれて、本当に嬉しかった。コンサートとか俺はあまり行かないけど、ヘンリエッテは好きかと思ったんだが、今思うとそんなことないんだろうな」

「そうなんです。ごめんなさい。頑張ったんですけど、眠くて眠くて」


 本当にあの時は申し訳なかった。せっかく誘ってくれたのに寝てしまった。


「いや、あの時の君は俺に寄りかかって寝ていて、本当に可愛くて愛らしかった。ずっと寝ていてくれて良かったし、終わった後に起こしたくなかったくらいだ」

「迷惑かけたと、子供っぽいことしてしまったと、焦っていたんですよ。バート様は子供っぽい人興味ないだろうと思いましたし」

「レストランで美味しそうに食事をして、辺境に帰るときも見送ると言ってくれて、もう絶対ヘンリエッテと結婚したいと思った」


 真剣な顔で言われると恥ずかしい。でもそんな最初から私との将来を考えてくれてたんだと思うと嬉しくもある。


「それでエマに会って悩み相談にのってもらって。あの時は悪かったな。年齢が離れ過ぎてるとか色々考えて不安になってた」

「そうですよ! 私のこと諦めるのかと焦りました。なんとしてでもヘンリエッテのこと落としてもらわないと!と思いましたもん」

「そうだったのか? でも、そのおかげで君と婚約出来た。俺がいない間に君が誰かと婚約してたらと思うと耐えられなかったからな」

「私だってバート様が辺境に帰っているときに運命の人と出会ったらどうしよう、と不安になりましたよ」


 そういうところ俺たち似てたんだな、と嬉しそうにバートさんが笑う。その笑顔も大好き。私のものだと思うと愛おしい。


「……俺が領地に帰って用事を片付けて、急いで王都に戻ってきて、舞踏会のあれがあって……」


 ああ、またバートさんが暗くなってる。ニコラスとのことは、何度思い出しても嫉妬してしまうのかもしれない。


「私にはバート様だけですよ。でも、バート様。そろそろ私も怒ります」

「お、怒るのか?」

「ええ、怒ります。同じことを何度も思い出して嫉妬するのはバート様もつらいでしょう?」

「……そうだな。何度も本当に申し訳ない」


 バートさんが肩を落として反省している。彼は本当に私のことが好きなんだなと思えた。バートさんを諦めないといけないと思っていたから、こうやって話せる今が幸せだ。


「ロルフさんの店に行ったでしょう? あれは驚きました」

「君も綺麗なものは好きかと思って紹介したんだが、エマは常連だったな」

「そうなんですよ。そしてロルフさんは私のこと一目見てエマだって気付きましたよ」

「本当か? 俺は全然気付いてなかったのに……」

「だからお守りの話をわざわざしたんですよ。ロルフさん意地悪でしたね」


 フフッと笑って、二人でバートさんを揶揄ったことを思い出す。バートさんは揶揄われたことに気付いたみたいで、ロルフめ、と怒っていた。ロルフさん、今度バートさんに会ったら大変な目にあいそうだ。


「その後またエマとしてバートさんに会ったら、またバートさんは落ち込んでました」

「俺は何度ヘンリエッテに迷惑をかけてるんだろうな……」

「放っておくと、私の前から消えそうで不安でしたし、ヘンリエッテの為に頑張って!と思いましたよ」

「ありがとう。本当にエマがいてくれて良かった」


 エマがいなかったら、私たち途中で駄目になってたかもしれない。反省もしているけど、いなかったらと思うと怖いし、なかなか複雑な心境だった。



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