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13 バートさんの浮気?



「ボルグハルト様が庶民の女と噂になっているが、お前は知っているのか?」

「えっ?」

「まさか、二股男だったとはな」


 兄様がとても怒っている。どうやら世間では、バートさんが二股をかけていて、私は悲劇の婚約者となっているらしい。バートさんが庶民の女性と二股か。


 それ絶対エマだ。


 自分だとは言えない。しかも噂は相当広がっているようで、ヘンリエッテ嬢を婚約者にしておきながら、ボルグハルト様はなんなんだ!とバートさんの評判がどんどん下がっているようだ。


 バートさんは王都で街に出る時には辺境伯だと言っていなかったが、どうも顔を知っている人にエマと一緒にいるところを見られていたらしい。


 元々社交界での評判はあまり良くなかったが、平民の間では頼りがいのある辺境伯様の噂は有名らしくて、顔は知られていなくてもそこそこ人気だった。それが二股の噂で、辺境伯様もその辺の碌でもない男と一緒か、と人気が下がっているらしい。



「ヘンリエッテ、君、大丈夫? 浮気されてるの?」


 用事があって兄様に会いに来たついでのニコラスにまで心配された。ニコラスは他人の恋愛の噂話なんて、たいして興味をもっていない。よほど貴族社会に影響のある話じゃなければ、聞いてすぐに記憶から消している。


 そんなニコラスが、まあ私のことなのもあるけれど、噂を覚えていて心配してくれるなんて。


「あの、浮気というか、大丈夫なの。そんなに心配しないで」

「でも、君が大人しくしてるから相手が調子に乗ってるらしいと聞いたよ」

「いえ、本当に大丈夫なの……」


 詳しく言えないので言葉を濁すと、ニコラスは疑いの目でジッと私を見た。


「ヘンリエッテ、隠してることがあるんだね。言って」

「いや、ないよ?」

「僕に隠し通せる訳ないでしょ。早く全部白状して」

「……はい」


 私はニコラスに全てを話した。エマのこと、エマとバートさんのこと。話を聞き終わって、呆れたようにニコラスが溜息を吐く。


「君、何してるの?」

「……はい」

「伯爵令嬢が変装して街に行くって馬鹿なの? 貴族の令嬢が一人で街に出てるなんて知られたら、どんな酷い噂をされるか知ってる?」

「言葉もありません」

「何かあったらどうするの? 最近盗難やら誘拐やらで治安が悪いと言われてるのに。君は本当に一度みんなに怒られたほうが良いんじゃない?」

「申し訳ありません」


 謝るしかない。そして出来れば家族には内緒にしておいて欲しい。


「もう二度とエマとして街に出るのは禁止だよ。わかってるよね?」

「……はい」

「その、嫌だけど仕方ないって感じの返事やめてくれる? 僕だって君のこと心配してるんだよ」

「わかってます」

「僕たちの大切なヘンリエッテだって自覚して。クラウスがどれだけボルグハルト様に怒ってるかわかってる? あれ、ほっとくと婚約解消を企むよ」

「えっ!」

「クラウスにも早くエマのこと伝えたほうがいいと思うよ」


 じゃあね、とニコラスは帰っていく。兄様が婚約解消に動くって、考えてなかったけどあり得る。嫌だけど伝えないといけないのか……。こうなったら、エマの件はスッキリさせよう。


「みなさま、大切なお話があります」


 私が真剣な顔で切り出すと、両親と兄様は私のことを痛ましそうな目で見る。バートさんに二股をかけられて可哀想な子だと思われているのが、ひしひしと伝わってきた。


「無理をしなくてもいいんだよ、ヘンリエッテ」

「そうよ。つらかったら泣いていいのよ」

「安心しろ。どうにか婚約を解消出来ないか考えているところだ」


 ニコラスの話を聞いといて良かった。兄様本当に婚約解消を考えてたわ。知らない間にバートさんとの結婚が消えていたらと思うと怖い。と言うか知らない間に色々起こっているのやめてほしい。


「あの、今回のアルバート様の二股の件ですが、私が悪いのです」

「何を言ってるんだ! 二股してるほうが悪いだろう。ヘンリエッテが自分のせいだなんて思う必要がないんだよ」

「自分に魅力がないから、自分が令嬢らしくないから、お転婆だからとか考えなくていいのよ?」

「いえ、そうではなくて」


 自分に魅力がないからとか思ってない。母様意外と酷いな。母様は私が令嬢らしくないと、実は今でも思っていたのか……。私が至らないからバートさんが浮気したとは思っていないことを伝えないと。


「みんなには黙っていましたが、私は時折平民の格好をして、エマと名乗って王都を散策していました」

「……はっ?」

「そこでアルバート様とエマとして知り合い、仲良くなりました。今では妹のように思っていただいてます。噂の相手は多分エマです」

「……」

「アルバート様を初めて見かけたのも街にいたエマです。夜会で一目惚れするより前でした。そしてアルバート様は今でも私がエマだとは気付いていません」


 三人が黙る。少しして理解が追いついたのか両親の目に涙が浮かんできた。


「ようやく、ようやく令嬢らしくなったと思っていたのに……」

「あなた、私の育て方が悪かったんですわ」

「父上、母上、俺たちは頑張りましたよ。こんなに予想外に育つなんて誰も考えません」

「そうだな。まさか、こんなことになるとは考えなかったな」

「ええ、ヘンリエッテを更生させようなんて無理だったんですわ」

「そうです。俺たちは努力しました。ヘンリエッテがとんでもなかっただけです」

「クラウス、すまんな。お前にまで苦労をかけて」


 酷い言い草だ。娘を目の前にして悪口言いまくりである。しかし、これは私の自業自得だろう。甘んじて受け止めることにした。


「それでヘンリエッテ、どうする気だ?」

「はい。こうなったらアルバート様にもエマのことを伝えて、判断を仰ぎたいと思います」


 バートさんの評判を落としてしまったし、ヘンリエッテの嘘を知ってバートさんの目が覚める可能性もある。婚約解消されるんだろうか。


「そうと決まれば、早めに伝えたほうがいいだろう」

「すぐにボルグハルト様に連絡をとります」

「ああ」

「ヘンリエッテは部屋で謹慎だ。クラウス、抜け出せないように、みなに伝えておけ」

「わかりました」

「話し合いの結果によっては、ヘンリエッテのことを世間に伝えてボルグハルト様の名誉を回復しなければいけないな」


 頭が痛い、と父様が頭を抱えていた。



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