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1 フォーゲル伯爵令嬢について



 フォーゲル伯爵家のヘンリエッテ嬢はお淑やかで慎ましい。夜会に参加する時も兄の後ろにそっと隠れるように佇んでいる。


 男性に話しかけられると恥ずかしそうに俯いて、小さな声で返事をする。あまりに内気なので声をかけるのも憚られる。


 ハニーブロンドの柔らかな髪を結い上げていて、エメラルドの瞳は優しげだ。可憐な外見が見る者の目を奪い、穏やかな為人が好ましい。


 庇護欲を掻き立てられ、どうにかして近付きたいと思っている男性も多い。しかし不用意に近付くとヘンリエッテの兄クラウスにそれとなく遠ざけられる。


 ヘンリエッテ嬢を射止めるのは誰かと社交界では密かな話題になっている。


 趣味は刺繍と読書。詩を書いたりもしているらしい……って、そんな内気なヘンリエッテ嬢なんていませんよ!



 大体誰がそんなことを言い出したんだろう。刺繍や読書していますなんて言ったことがない。大人しくしてるからって勝手なイメージがどんどん作られていて困る。



 私は小さいころから元気いっぱい活発だった。猿のように木に登り、庭を駆けまわり、池で泳ごうとして両親に怒られていた。どうしてもっと令嬢らしく出来ないんだと泣かれたくらいだ。


 そんなこと言われても、外で遊びまわるのが好きなんだから仕方ない。兄様は剣の稽古をしたり乗馬をしたり楽しそうなのに、何故私は家で大人しくしろと言われないといけないのか疑問だった。


 確かに成長するにつれ、これは駄目かなとは思った。普通のご令嬢は走りまわらない。少し反省したので、我慢して貴族令嬢としてのマナーをしっかりと勉強した。ダンスは楽しかったが座学は本当に苦痛だった。


 そうして年頃になり無事、社交界デビュー出来た。ボロが出ないように話しかけられたら恥ずかしそうに俯いて小さい声で話す。聞き取りにくいのか会話が続かなくて良い。内向的な人なんだなと勝手に納得してくれた。しつこい人は兄様に任せてなんとかしてもらう。


 数少ない友人の令嬢たちと少し話しをするくらいで、積極的に行動しなかった。その友人も私が走りまわっていた時期を知らない。外面だけは大人しいヘンリエッテ嬢になってからの知り合いだ。


 そうして今、私はお淑やかで慎ましい令嬢として人気がある。噂が盛られすぎていて、それは私の話なの?と思うことも多々あるが。


 内気すぎるがお嫁さんにしたいと言われ釣書も結構届いているようだ。全然興味がない。これっぽっちもない。それに内気じゃないし。興味がない人から求婚されても困る。


 友人たちは恋の話で盛り上がっているが、全然ついていけない。どこそこの令息が素敵だと言われても『へーそうですか』くらいの返事しか出来ない。実際はそんなこと言えないので、微笑んで話しを聞くくらいだけど。


 そんな日々を過ごすうちに、私は我慢が限界に達した。少しだけ自由が欲しい。そして私は変装して度々家を抜け出すようになった。



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