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ケース3 穴があったら入りたい ②


「撫で……? おおぅ!? 撫でておる、ぞっぷり撫でておるぞ! これはこれは、凄まじいまでの撫でっぷりぞ」



 生まれながら才能に恵まれ、向けられる期待に立ち向かい、彼女自身それに応えようと必死で生きてきた。完全男性優位主義であるこの異世界の流れに抗いながら、彼女は文字通り熾烈な覚悟の中で生き抜いてきた。しかしときに、ヒトというものは脆いものだ。それは彼女とては例外ではない。15になった彼女を襲ったものは、どうにもならない焦燥と苛立ち、そして無力感だった。



「確かにこの社会は女に一際厳しい。しかしそれとこれとは話が別であろう!?」



 そんな折、彼女が出会ったものが、ヒトの間で飼われる愛玩動物、ヌーイ(※犬のような小動物)である。ストレスの捌け口をヌーイに求めた彼女は、それはそれは子飼いにしていたヌーイを愛でたという。その頭数もすぐに限度を超えたものとなり、一時は100頭を超えていたんだとか。


 しかしヌーイに囲まれ生きる中で、彼女は一つの(いただき)に到達してしまう。それはヒトとして成すべきことの限界だったという。



「残念ですが、一般的にヌーイの寿命は5年ほどとされています。どれだけ彼女がヌーイを愛そうとも、代わる代わるヌーイたちは死んでいく。どれだけ彼女が魔力を尽くそうとも、それだけは変えられませんでした」


「魔術の中に生き、その中で見つけた生き甲斐も、また魔術の限界とともに果てていった、と。しかしそれもこれも話が別じゃ」


「ただ彼女はこうも思ったそうです。確かにヌーイの寿命は変えられない。しかしより健やかな一生を手助けすることはできると。そうして彼女はタンガンプラクトの世界の扉を叩いたのです」


「そこはいい。問題は尻じゃ、尻。さっさと尻を処理せぬか」


「では一部省略して説明を。中間、色々ございまして、彼女は自分の本質へと行き着きます。全身を圧迫されながら、脈動する命の根源に触れること。今にも押し潰されそうな自らに襲い来る危機感と、それとは別の自らが握った他者の根源と触れ合うことで、宇宙(せかい)と一体になるエクスタシーを感じ取ることができる。それが彼女の想像した最高到達点、なのだと私は推察しています」


「なるほど、それは興味深い。モーウイの内臓に押し潰されながら、弱ったモーウイの根幹を握り、生かし生かされているという生の輪廻を体感することで、この上ないエクスタシーを得ておると。ふむ、それにしても此度(こたび)は随分とわかりやすいテーマだの」


「確かにそうではございますが、それだけではありません。続いてこちらの拡大部に注目ください」



 手、足、胸、口で根幹を撫で回すのは当然であるため、彼女の本質をそこにみることは難しい。生と性の対象は紙一重であるというが、彼女は自分の()()に魔力根を押し込み、ひとしきり腰を前後させる。誰に見られるでもない最良の空間で、彼女は文字通り、モーウイと一体化するのだ。



「これは趣深いのう。実態として存在しない魔力根という存在を具現化し、さらに外圧という物体の中で内部からかかる圧力も同時に得ようとは、やはり考えることが常人のそれとかけ離れておる!」


「しかし裏を返せば、ただ自己の欲のため他者を弄んでいるとも言えます。これがモーウイの治療になっているかといえば、決してそうではないでしょう」


「しかしモーウイは安堵したように眠っておるぞ。これも彼女なりの生への手助けなのかもしれぬ」


「さて、私にはわからぬ領域です。真実は彼女と、このモーウイの中にしかございません。双方が共に望んだ形なのであれば、そこに一つの問題もないかと存じます」



 愛の形は多種多彩と聞いたことがある。

 それはどうやら、この世界でも、新たな別の世界でも変わりないらしい。



「しかし唯一残念なことがあるとすれば、彼女の表情が見られぬことかの」


「でしたらご覧になりますか。魔力に陰影をもたせることで、確認することは可能かと存じます」



 彼女を取り巻く魔力と、その周囲を流れるモーウイの魔力に光の装飾を施してみる。するとそこには、まるで母に抱かれるように安堵して眠る、天女のような女の姿が浮かび上がったのだった。



 画して穏やかな宴を終えて家路についた私は、この世界にやってきてから、あれほど安堵して眠りについたことがあるか想像した。ストレスから解放され、心の底から安堵し眠る彼女の安らかな姿は、現代社会に疲れた私のような者には羨ましさだけを際立たせた。


 ただ一点、あの尻の(にお)いだけはどうにもならないだろうが――


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