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ケース1 食人鬼 ①

※※ 注意 ※※


本作は現代のコンプライアンス、常識的行動、社会的道徳から外れた表現、行動、性描写 等がなされる場合がございます。苦手な方はあらかじめご遠慮いただくか、ご注意いただきますようお願いいたします。


尚、本作は1~4話完結のオムニバス形式となります。

不快な項目は読み飛ばしいただければ幸いです。



     クッチャ クッチャ


          クッチャ クッチャ


  クッチャ クッチャ





 気味の悪い男の咀嚼音(そしゃくおん)が狭い室内に響いている。


 今、あの男が汚らしく口を鳴らして食べているのはヒトの肉だ。しかも口にするのは妙齢を少し行き過ぎた女性の二の腕の、脂肪がダブついた部分だけ。しかも鮮度が良い状態を厳選して選び、生で食す。それが男の絶対的なこだわりで、時間が経過してしまったものについては見向きもしないという徹底ぶりだ。


 男の名はリスボン・トリスタン。

 歳の頃は31で、中肉中背。髪色は茶毛で、血色も良く、見た目も悪くはない、いわゆるごく普通のヒューマン。カイドラッド王国第一首都、ルスカートの町に住む商人である。


 昼間は婦人向けの宝飾品や衣類、その他日常品を売る商店、『ティム商店』を営む店主であり、10人前後の従業員を抱えた経営者でもある。また店の運営は(おおむ)ね順調であり、経営状況も悪くない。


 また男には結婚十年目を迎える二歳年下のマーリンという奥方がおり、子供については、八歳の娘と四歳の息子がいる。共にすくすく成長しており、毎日笑顔のたえない日々を送っている。奥方との関係も良好で、日常的に問題は見られない。



「…………と、まぁここまでが一般的な表の顔で、以下がトリスタンの裏の顔となります」



 リスボン・トリスタン。


 リスボン家の長男として何不自由なく成長し、絶対的強者として君臨した父親によって、折れ曲がった正義と常識を叩き込まれ育った異常者である。


 もとより奴隷商を営んだ父親の曲がった性癖を幼少期に目撃したことに端を発し、13の歳で父親付きの使用人の女性を襲い、初めての犯行に及んだ。結果、彼女は非業の死を迎えたわけだが、その事実については彼の父親が全てを握りつぶした。時の権力者と結託し、当時絶対的な力を誇示していた彼の父親の手にかかれば、それも容易いことだっただろう。しかしその一つの成功体験が、彼の行動をますますエスカレートさせた。さらに一人、もう一人と、彼は最初の犠牲者と同じ大年増頃の女性を襲い、最終的に五名を殺害している。彼が異常なほどこの歳頃の女性にこだわるのは、恐らくこの時代の経験が大きく関わっているのだろうと推測する。


 その後、父親が国の機関に締め上げられ、最終的に商会は廃業。過去の事件が明るみに出たことで、父親は死罪となった。母親も同じくして他国へ流れるも、本人だけは責任無しと判断され国に残った。

 成人した彼は貴族であった元関係者を過去の蛮行に結びつけて取り込み、自らの味方に引き込むことに成功。何食わぬ顔でカイドラッド公国のルスカートにて、新たな商会を立ち上げた。そして過去の自身に関する情報を抹消し、ティムという新たな名前で別の人物になりすまして生きてきた。


 ただ、それで彼の異常行動が修まったわけではなかった。しばし我慢ならず、異常性癖を隠しきれなくなった男は、過去に父親と繋がりがあった奴隷商を通じて奴隷の女性を買い、そのたび蛮行に及んだ。当然ながら彼の買った奴隷の行末を知る者はおらず、全ては闇に葬られている。



「しかし最近になって、闇のマーケットに流れてくる女性の質では満足できなくなったのか、ついに先日、町の商会にやってきた御婦人に手をかけています。どうやらこの婦人は失踪人として処理されたようですが、既にこの男がやったという裏付けは取れています」


「ふむ、それは少々難儀じゃの。それで、肝心の情報をまだ聞けておらんのじゃが?」


「そう慌てなさるな姫様よ。お楽しみは最後に取っておくのが我らの性分というものです」



 彼が狙う人物は、いつも決まった類似性を持っている。相手の歳の頃は40~45の、ややふくよかで、自分より背丈が僅かに高い女性に偏っており、どこか影がある暗い雰囲気のある者を好む、らしい。また身につける宝飾品や衣服の趣味についてもうるさく、彼の奥方の趣味とは正反対な、より黒に近いものを身につけたがる傾向がある。また近眼で、かつ一人の時にのみ眼鏡を使用している人物でなければならないという調べである。



「そしてすぐそこで目を開けたまま亡くなっている婦人は、彼にとってど真ん中の性的な対象だったのだろうと思われます。ほら見てください、その証拠に彼のアソコはビンビンです」


「うむ、見事に怒張しておるの。しかしわからぬ。裏で買ったおなごを殺めている分には、罪に問われることもあるまい。なぜこやつは、自らそのようなリスクを負うのじゃ?」


「それを私に聞かれましても……。むしろ姫様の方がおわかりになるのでは?」


「ふむ、では予の見解を述べさせていただこうか。その前にまず確認だが、こやつの母親はどのような人物だったのじゃ?」


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