魔力を持つものならば
四肢が引きちぎれるほどの激痛。そんなものを経験したのははじめてだった。シウは内心、ケイスケのことを下に見ていた。背後から近づくその気配にすら、彼は気がつかなかったのだ。だが、実際に対面してわかったことがある。ケイスケは当てようと思えばシウに攻撃を与えるくらい造作の無いことだった。それなのに、ケイスケはあえて全て避けることができる程度にとどめていた。
『私が…手加減されていた…。』
今持てる実力では埋まることの無い差がそこにはあった。それはまるで、かつて対峙した最強の男のようだった。
「私は…君のことを下に見すぎていたのかもな…。」
「いやいや…買いかぶりすぎですよ!僕なんてまだまだで…師匠にはどんな魔法も通用しなかったですし…。」
「君の魔法が一切通用しない相手とは…凄まじいな。」
「だから…もっと強くなって認めてもらわなくちゃいけないんです。」
「…熱心だが…これ以上強くなられてもな…。」
冒険者の先輩としての立つ瀬がない。明らかに目の前の少年の強さは常軌を逸していた。それこそ、人類最強に手が届くほどに。
「まだまだです…気配の読みも集中してないとできないですし。」
「まあ…その辺はな…経験不足だけがネックか…師匠さんとはどんな修行をしてたんだ?」
「師匠にひたすら魔法を打ち込むだけです。」
「え…それ…大丈夫なのか?」
「まあ、全部軽く受け止められましたよ。直撃だってすることがなかった…。」
「…君の魔法がそんな簡単に…。」
「付与魔法も…思えばへたくそで安易にかけるもんじゃなかったです…すみません。」
「…まあ、あんまり誰かにかけるってのはおすすめしないよ…本当に死ぬかと思った…。」
「フレアさんには問題なくできたのに…。」
「フレアかぁ…そうね。フレアはフレアで規格外だからね。」
「そうなんですか?」
「そうよ。フレアが邪竜を倒したのは知ってるわよね。」
「はい。話には聞きました。」
「邪竜っていうのがどのくらい強いかっていうと…簡単にいえば一国くらいなら滅ぼせるくらい強い。」
「え…。」
「それをフレアは『倒しにいってくるね~』って感覚で行ってきて2日で帰ってきた。しかも単機で。」
「ば、バケモンじゃないですか…。」
「まあ君も人のことは言えないからそれとして、邪竜の呪いで弱体化しても常人くらい…いや、ヘルライガー3体とやりあってたしなんならそれでもまだ強い部類なのは完全におかしい部類ね。」
「そんなすごい人なんですね…僕ももっと…。」
そう呟くケイスケの瞳には闘志があった。この男は確実に己の目標を達成できる。それはシウから見ても明白だった。
「まあ、やり過ぎには注意よ。君もおかしい部類なんだから。」
「はい。わかりました…。」
そうして、2人は解散することとなった。シウがロビーに戻ると、エリファがシウのもとへと駆け寄る。
「その…すごい絶叫が聞こえたんですけど…大丈夫でしたか?」
「あぁ…彼に身体強化を付与されただけよ。死ぬかと思ったけど。」
「身体強化で…?ど、どういうことですか?」
「言葉の通りの意味だ…本当にただただ身体強化を付与された。だけど、私の体がケイスケの魔力に追い付かなくてな…四肢が引きちぎれるかと思ったよ。」
「そ、そんなことってあるんですか?」
「あるんだろうな…現に私がそれを食らったんだから。」
「危険すぎません?」
「まさかあそこまでとは思わなかった。1度戦闘態勢に入ってしまえばこのギルドで勝てそうなのは…それこそフレアくらいか。」
「そんなに…。」
「まあ、魔法を直に体験できたのはいい経験だったよ。完全に手加減されてたけどな。」
「シウさん…Bランクですよね?」
「まあ、ちょっと心は折れたが…むしろ清々しいよ。もっと上を目指さなきゃって思えた。それに、ケイスケ自身がもっと上を目指そうとしてるんだからな。私がこんなところで満足してちゃいけないだろ。」
「焚き付けられてますね。」
「当たり前だろ。魔力を扱うものなら…そりゃ目指したいさ。一番上を。」
「楽しそうで何よりです。」
─────次の日。
ギルドにはすでにフレアとケイスケの姿があった。
「お二人とも早いですね。」
「当たり前だろ。ようやくフルパワーに戻れるんだから。」
そんな会話を目を擦りながらケイスケは聞いている。どうやらフレアに無理矢理起こされたようでまだ眠いらしい。
「フレアさんのフルパワーって聞くととても頼もしいですね。はい、これが昨日の薬草から作った特効薬です。」
「よし、ありがとな。エリファ。これ、お代だ。」
その瓶をあけ、中の赤い液体を飲み干すフレア。
「解呪にはちょっと時間がかかりますけど、そのうち本調子に戻りますよ。」
「おう!」
そんな会話を交わし、ケイスケとフレアは掲示板に向かう。
「なんかいい感じの依頼は~。」
楽しそうなフレアをまだぱっとしない頭で眺めるケイスケ。昨日のシウとの1件を思い出す。
『ああ、身体強化は暫く控えるようにするんだったな…。』
なんて思いながらあくびをする。
「お!これ良さそうじゃん!!エリファー!これ頼めるかー!」
そう言ってフレアはそのビラをカウンターに持っていく。
「え、えぇ!?こ、これお二人で行くんですか!?」
「戦うのは私だけにするからよ!あいつはあくまでもサポーターだ。」
「で、でもこれ…行きだけでも相当大変だと思いますけど…。」
「ああ、ちょうどいい足を見つけたからな。」
「ちょうどいい足?ま、まあ、フレアさんが指揮してくれるのであれば構いませんが…。」
「よっし、決まり。んじゃ早速いってくるわ!!」
「あ、フレアさん決まったんですね。」
「おう!行くぞ!!」
「行くって、まず目的地は何処なんですか?」
「ああ、そうだったな。昨日行ったのとは逆の方角にある壁の山の頂上だ!そこの上に竜の影が見えたんだってさ!!」
「竜って…懲りないですね。」
「あれはちょっとしくっただけだ!今度はうまくやる!!お前もいるしな!」
「わかりましたよ!!」
「んじゃ、昨日の身体強化!頼むぞ!!」
「あ、無理です。」
「…は?」
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