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意外と近くにあるもの

 結局、薬草を見つけることには成功した。だが、お互いの空気感は最悪であった。


「ちくしょう。のろまのせいで逃しちまったじゃねぇかよ。」


「あの人の目にはまだ意思がありました。話し合いの余地くらいあったでしょう。」


 焚き火を囲いながら、2人してそんなことをぼやく。日も暮れ、疲労もたまっている頃だった。山道付近でキャンプを張る。この辺りではそう珍しい光景ではなかった。


「バカじゃねぇの?あれで死人が出たらどうすんだって話だよ。」


「それは…そうですけど…。」


「甘いんだよな。おまえの考え。平和ボケしてるっつーかな。」


「知りませんよ。そんなの。」


「知らなきゃいけないことだ。いやでも知っとけ。」


「なら、あなたはもっと慎重になるってことを知ってください。」


「私はこの方法でうまくやってきたので知りませ~ん。てか、嫌なら一人で帰ってろよ。」


「そうも行かないでしょ。あなたが連れてきたんだから。」


「違う!おまえがついてきたんだ!!」


「あぁそうですか!出来損ないで悪かったですね!!」


 叫びに沈黙が走る。


「………別にそこまでは言ってねぇだろ。」


 静かに、フレアはそう言った。


「…すみません。」


「ああ、もう!気持ちわりぃな!なんなんだよ!謝ったり意地張ったりよ!!」


「そ、そんなこと言われたって、僕はそう言う人間なんですから!」


「ああ、もう知らねぇ!!先に寝る!!」


「ちょ、それ僕が見張りってことじゃ─────。」


「あー!あー!なにも聞こえてませんー!!」


「子供ですか!あなた!!」


 そんな喧騒もよそに夜は更けていく。結局、その日の夜最初の見張りはケイスケがすることとなった。数時間すればフレアと交代となる。どこか、フレアに対する疑念を持ちながらも辺りの状況を確認する。

 音や景色、匂いに集中しながらその情景を描き出す。それこそが今のケイスケの気配探知だ。魔力を回せばもっと広範囲も出来るがそれこそ、今はそこまでする程ではない。怪しいものはなにもなく、ただゆっくりと時間だけが過ぎていく。


『やっぱり…ちょっと言いすぎたかもしれない。』


 ケイスケの倫理と言うのは、やはりもとの世界の物であるからこの世界の常識とはずれが生じる。この事はケイスケも自覚していた。それでもやっぱり、体は人間。その上、あれの瞳には確実に意思が宿っていた。殺しなんて、まともに出来やしない。


「師匠…僕は…。」


 どうしていいかなんてわからない。それに、いま考えることではないのかもしれない。


『朝起きたら…フレアさんに謝ろう。』


 そんなことを考えながら見張りを続けるのだった。


 翌日。何事もなく、ケイスケは目が覚める。あのあと見張りの交代をしてからはぐっすりだった。ふと、フレアのいた場所を見る。


「あれ?」


 既にフレアの姿はなかった。


「まさか…。」


 嫌な予感がして周辺を探す。荷物はそのままだ。昨日のフレアの言葉が頭をよぎる。


『死人が出たらどうすんだって話だよ。』


 そんな考えを打ち消す為に気配をたどる。いない。何処にもない。


「うそ…。」


 気がつけば魔力を回していた。もっと、もっと知覚範囲を広げていく。そうしてその耳は、どこか聞きなれた少女の呼吸音を拾った。


「いた…戦闘中…少し遠い………。」


 見つけてからは早かった。何者にも追い付けないような速度で飛び立った。山道から外れ森の奥。思い返せばフレアとであったときのようだった。

 近づくに連れ鮮明に情景が浮かび上がる。1対1。人間対人間。


『僕の…僕のミスだ。』


 あのときに止めていなければ。自分の甘い考えがこの結末を招いたのだ。そんなどうしようもない後悔がケイスケを包み込む。森の中の木々を縫い、その場に到着する。


「なっ…来たのかよ…。」


 驚いたようにフレアはそう溢した。


「まだ、パーティですから。」


 ただそう返す。相手を視認する。昨日の爬虫類女であった。


「何しに来たんだよ。のろま。」


「助けにですよ。」


「私はあんたの助けなんか…。」


「そのわりにボロボロですよ。」


「呪いがなきゃこんな奴。」


「そうですか、なら…()()()()()ください。」


「な!助けに来たっておま…え………?」


「どうしたんです?()()()()()ください?」


 その言葉にフレアは疑問を抱いた。それもそのはずで、フレアの体の要所には身体強化の魔法陣が付与されていたからだ。


「………僕も少し言いすぎましたから…。」


「はは…()()()不器用だな。」


 そう言うと、フレアは剣を握り直す。その疾走はケイスケの目では到底追いきれなかった。彼女が鞘に剣を納めたときには全てが終わった後だった。


「…流石ですね。」


「んまあ、まだまだだけどな。」


「…あれ?殺さなかったんですか?」


 よく見てみればそれは峰打ちだった。


「ああ…流石に気が引けただけだ。ってか、殺すと思ったのか?」


「いや、昨日の発言、どう考えてもそうだったでしょう?」


「昨日は昨日。今日は今日だ。」


「そう…なんですね…。」


 それだけで、あとは気まずい空気が流れた。


「その、昨日は悪かったな。」


「え…?」


「いや…ちょっと私も冷静じゃなかったって言うか…。」


「それを言うなら僕だって…ちょっとあまりにも甘く見てました…ごめんなさい。」


「…はぁ、やっぱりお前と一緒だと調子狂うわぁ…。」


「な、何ですか!それ!!」


「でもまあ…悪くない。今までで一番…悪くない。」


 そう言うとフレアは照れ臭そうに続ける。


「その…なんだ…あれならもう少し続けてみねぇか?」


「え?」


「え?じゃねぇよ。パーティ…もう少し組んでみねぇか?私と。」


「ま、まあ…いいですよ。」


「おっし!決定な!!んじゃとりあえず…こいつをどうにかしなきゃな。」


 そう言ってフレアの視線は爬虫類女に向かう。


「どうにかって?」


「とりあえずはギルドに報告だろう。できれば持ち帰りたい。捕縛系の魔術って使えるか?」


「捕縛系ですか…。」


 そうして、ケイスケは少し考え1つの結論を出す。


「無いんで今から作っちゃいますね。」


「おう、わかった。はぁ!?なに言ってんのテメェ!?」


「い、いやこれでもちょっと魔法使いの元で修行してた頃があって…。」


「はあ…どおりで常識にも疎いと思ったわ。んじゃちゃっちゃとやってくれよ。」


「それはいいですけど、帰りこの人担いでくださいね?僕じゃ運ぶのは無理なんで。」


「あいよ。」


 と、そんな会話をするのだった。

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