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欲しいときには無いもの

 その後、ケイスケはフレアに身体強化を施した。


「すげぇな。これ、ビックリするくらい体が軽い!こんなの初めてだ。これだったら今日中に目的地にたどり着くことだって出来るぞ!!」


 そう意気込むフレア。流石にそこまでな訳ないだろうと思っていたが、「そんじゃ行くぞ?」という言葉と共に彼女は信じられないくらいのスタートダッシュを切った。完全に置き去りにされたケイスケは、急いで魔力を回す。


「ま、待って下さいよ!!」


 そう言って彼女の後を飛んで追いかける。

 あまりにも彼女は速かった。あの状態の彼女に勝てるものなどいるのか?そんな疑問が出てくるくらいには。どれ程速度をあげても彼女の背が近くならない。かろうじて視認できてはいる。風さえも切り裂きながら走る彼女。敵わないというのを思い知らされたようだった。


 結果として、本当にその日のうちに目的の湿地帯へとたどり着いてしまった。


「いやぁ、便利なもんだねぇ魔術って。」


「こっちは大変だったんですから…。」


「おまえ飛んでただけだろ?」


「飛ぶのにも魔力がいるんです!」


「こっちは走ってたんだ。その方が体力がいるんだよ!」


「それは…そうかもしれませんけど…。」


「んじゃ帰りもよろしくな。さてと、とっとと見つけますか。」


「その薬草って特徴的なんです?」


「いいや、端から見たらただの草と何らかわりない。だけど、今だったら見つけやすいぞ?」


「今だったら?」


「呪いを持ってる奴が触ると、触れている間だけだけど呪いの効力が弱まるんだ。だから、それっぽいのをこれから採っていく。」


「…しらみつぶしってことですね。」


「んまあ、そうとも言うな。」


 そう言うわけで2人して地面に這いつくばってそれらしき草を手に取るというなんとも非効率的な作業。


「大体、どのくらいあったらいいんですか?その薬草。」


「うーん、私の呪い分だけなら一株でいい。」


 その言葉に安堵する。一株程度ならすぐ見つかるだろうなんてたかをくくっていた。


─────駄目だった。

 オレンジ色の空は夕暮れが近いことを表している。


「こんなに無いものなんです?」


「当たり前だろ?解呪の特効薬なんて大層なものなんだから。」


「それ先に言ってくださいよ…。」


「ゴタゴタ言ってないでとっとと探す!」


「はぁ…。」


 深くため息をついた。そもそも特徴に聞いていたそれらしき草さえもない。


「全然みつかんねぇな…しょうがないから今日は野宿であとは明日に………。」


「まあ仕方ないです─────。」


「シッ…静かに…。」


 ふと、振り返ったフレアの表情は真剣そのものだった。その指示に、何かしら脅威が近いことを悟る。


「なにか来るぞ…。」


「そうは言っても…なにも見えませんが。」


「見たままが全部じゃねぇだろ。私の勘がそう言ってんだ。」


 その言葉に、ケイスケも感覚を研ぎ澄ませる。

 居る。なにかが近くに居る。それだけは分かった。


「何かあったら頼むぞ。今の私は使い物になんないからな。」


「そんなこと言ったって僕だって…。」


「うるせぇ…もう目ェつけられちまってんだ。四の五の言ってる暇なんてねぇんだよ。」


 なにかがすぐ近くに居る。見通しはいいのに、その存在がなにかさえわからない。

 直後、それは激しい殺気を放った。それに対してフレアは的確に剣を振るう。なにかを弾く音がした。そこで初めて分かるそれの姿。

 初見の感想は人間の女性に近しいもの。


「に、人間!?」


「…亜人か…?いや、それも違うな…なんだ…こいつ。」


 よく見てみれば、要所に爬虫類のような鱗や爛れがある。が、どこか自然的ではなくアンバランスだ。その手にはナイフが逆手に握られている。


「ケイスケ、魔法でどうにか出来るか?」


「た、たぶん無理です!!」


「たぶんってなんだよ、ハッキリしやがれ!!」


「ご、ごめんなさい!!」


「とか言ってる間に来るぞ!備えろ!!」


 大きく振りかぶり、ナイフを突きつけるように飛びかかる謎の存在。2人はそれを躱すが、直後、またそれは姿を消す。


「あのやろう…また消えやがった…。」


 意識を集中させ、存在を感じとる。いつか、師匠と共に行った訓練を思い出す。


『もしかしたら…。』


 攻撃手段なら削ぐことが出来るかもしれない。そんな考えがよぎる。振りかざされたナイフ。風切り音でそれに捉える。


「っ!ケイスケ!!」


「取った…。」


 ふと、握られた手には先のナイフ。


「できた…!!」


「バカっ!!」


 喜んだのもつかの間、ケイスケの腹に重たい一撃がのし掛かる。


「がッ…!!」


 たかだかナイフを取っただけ。脅威が去ったわけではない。ケイスケの体は宙を舞う。地面に叩きつけられるその体。痛みが走る。しかし、奴も待ってはくれない。直感的に次の攻撃を知覚する。


「いつまでくたばってんだよ!!グズがッ!!」


 その攻撃を阻止したのはフレアの飛び膝蹴りだった。


「おまえには魔術があるんだから、消し飛ばせば一発だろ。」


 そんなことを言いながらケイスケを起こす。


「でもあれ、どう考えたって人間じゃないですか?」


「あれのどこが人間だよ。どう考えたって出来損ないだ。」


「出来損ない…。」


「おまえがやらないなら私が…いやそうだ、出来ねぇんだ。」


 ふらふらと立ち上がる、謎の存在。


「いやまてよ…おまえの身体強化!あれもっかいやってくれよ!呪いもねじ伏せれるかも知れねぇ。」


 そんな脳筋な案を出すフレア。だが実際そのくらいしかどうにか出来そうな手がない。


「わかりました…。」


 そうして、ケイスケはフレアに身体強化を施す。幾多の魔法陣がフレアに宿る。


「やっぱり体が軽い。いいな、これ。」


 剣を構え、踏み込む。疾風が巻き起こる。その速度を捉えきることはできなかった。一瞬にしてそれとの距離を詰めその勢いのまま、剣は振り下ろされようとしていた。


「ま、待って!!」


 寸前でその言葉が響いた。一瞬、フレアに隙が生まれた。それを見逃さなかったそいつはフレアを突き飛ばす。


「っつ…!なんなんだよ!もう!!」


 よろけ、フレアはその場に倒れ込む。同時に身体強化も解除されていた。その隙に奴はまた姿を消し、今度はどこかへ消えてしまったようだった。


「テメェ、どういうつもりだ!!」


「どう考えてもおかしいですよ!!あれ…完全に人でしょう!!」


「知るかよ!あっちにその気があったならこっちだって殺そうが構わねぇだろ!」


「暴論が過ぎます!そもそも、あれに対する情報が何もないじゃないですか!!」


「あぁうざったい。真面目君かよ。馬鹿馬鹿しい。そんな綺麗事で生きていけるほどこの世の中は甘くないんだよ。」


「それでも…それでも…。」


「あぁあ、せっかくいい相棒見つけたと思ったが。これじゃ解散だな。」


「あぁ、そうですか…勝手にしてください。」


「ったく………。」


 そう言って足元に目をやるフレア。


「あ、あった。」


 そんなことを呟くのだった。

 この作品を読んでいただきありがとうございます!

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