Eランクの魔法使い
「ま、魔法だなんてそんな…。」
そんな声をあげたのはルイであった。
「私も驚いたが…師匠に教わったことが正しいのならあれは魔法だ。さっきのがまともに落下していたら…この辺りは消し炭だっただろうな。」
「で、でも魔法なんてBランクにはおろかAランクの冒険者だって使えるのはごく僅かなのに…。」
「ああ、今まともに魔法を使っているのはSランクのゼルくらいなもんだ。だけどあの威力…思うにまだ伸び代がある。」
「じゃああのゼルさんさえも…。」
「凌ぐかもな。だけどあんなもの連発されちゃこの辺が持たんだろう。彼のランクについては慎重に決めた方がいい。」
「ま、まあ、見栄をはって魔法を使ったと言う可能性もありますし…。」
「そ、そうですね。」
「その線だが、私はかなり薄いと思う。力加減が分かっていれば、あれを落としたらどうなるかくらい分かったはずだ。だが、彼は真剣にあの槍を落とそうとした。確実に自分の実力を分かってないと見る…それと、信じたくはないがあれが彼の通常攻撃かもしれないと言うのも念頭にな。」
「「あれが…通常攻撃…。」」
彼が本気を出したらどうなるのか。そんなおぞましい考えが頭をよぎった。
議論は数分で終わり、結果的に付けられたランクは初心者と言うこと、力加減を理解していないことを含め魔物、魔獣討伐にソロで向かうことの出来ない最低ランク、Eランクということになった。
ロビーではケイスケが落胆しながら結果を待っていた。
「どうしたよ、そんな顔して。」
そう声をかけたのはフレアであった。
「その…試験止められちゃって。」
「あぁ…まあまあ、そんな気を落とさなくてもいいだろ。」
「でも…。」
なんて話していたとき、奥からルイと受付の女の子が戻ってきた。
「そ、その、ケイスケさんのランクですが…こちらで色々と協議した結果Eランクとさせていただくことになりました。」
「はあ!?」
真っ先に食って掛かったのはフレアである。
「こいつがEランクってどうなってんだよ!!」
受付の女の子の胸ぐらをつかみガシガシ揺すっている。
「え、えと色々分けがありまして~!!」
「簡単に言うと…実力と実戦経験の解離だよ。」
ルイが口を挟んだ。
「…あぁそう。」
そう言って胸ぐらをつかんでいた手を離す。
「ぁぁ~。」
情けない声をあげるその子を置きながら話しは進む。
「だからまあ、すぐに上には上がれるだろう。」
「そう言うことかよ。」
「え、えと…つまりは…。」
「ああ、おまえは自分の実力をわかってないってことだよ。」
「そう言われると…。」
そうかもしれない。ただ確実なのは、まだまだこの程度では弱いと言うこと。このままではあの魔女に触れることさえ怪しいだろう。
「ま、おまえなら大丈夫だろう。」
「そうですかね…。」
「Eランクなのであれば、とりあえずは薬草集めるなり雑用くらいしかすることねぇけどな。ともかく、そこの信頼さえ勝ち取りゃ昇進は早いと思うぜ。」
「な、なる程です。」
「てなわけでだ、ひとつ付き合ってもらおうか。新人冒険者さん。」
「?」
「依頼だよ依頼。私は今訳あって呪いにかかっちまっててなぁ。」
「の、呪い?」
彼女はそう言っているものの、とてもそう言う風には見えない。
「ああ、邪竜の呪いだ。ちょっとヘマっちまってな。まあそこまで大したものじゃないんだが…どうにも戦いになると思うように力が出せなくてな。今じゃ私の戦闘能力は皆無に等しい。」
そんな言葉を聞いて、あの魔物を3体相手取っていた時のことを思い出す。
『あれで戦闘能力皆無…?』
「それで呪いを治す特効薬は存在するが、ちょうどそれに使う薬草が切れてるみたいでよ。取りに行くの手伝ってくれるか?」
「え、ええ。もちろん。僕なんかで良ければ。」
「んてことでだ、私も一緒だ。あの薬草、こいつと取りに行ってもいいか?」
受付の子にそう聞くフレア。
「ええ!?でも今邪竜退治から帰ってきたばっかりじゃ…!」
「からだがうずいてしゃあないんだよ。」
「ま、まあそこまで言うなら。」
「よし、決まりだ。さっそく行くぞ!」
そう言うとフレアはとっととその場所を後にする。
「ちょ、ちょっとフレアさん!!」
ケイスケはその後を必死に追うのだった。
フレアは既に外門付近でケイスケの到着を待っていた。ようやくその姿が見えたかと思えば異常にへばっている。
「なんだよ。体力無しか?」
「ゼェ…ゼェ…もともと…運動が出来ない体なんです…。」
「虚弱な奴だな。そんなんじゃ、すぐに力尽きるぞ?」
「ふ、フレアさんが化物なんじゃないんですか…?」
「あ?どの口が言ってんだ?」
「いっ…ごめんなさい…。」
「チッ…調子狂うな…ほらとっとと行くぞ。」
そうして肩で息をするケイスケをお構い無しにフレアは歩みを進める。
竜の呪いを解くのに必要な薬草があるのはここから山を2つ越えた先にある湿原だ。普通に行けばたどり着くのでさえかなりの時間がかかる。
普通に行けば。
「ここから山を越える。」
「や、山ですか!?」
「ああ、まあそんなにきつくはないが急ぎたいんで近道をするぞ。」
道中そんな話を聞かされていた。だが、近道とは聞いていたもののつれてこられた場所は断崖絶壁であった。
「え…。」
「こっから行くのが一番早い。」
そう言うと、フレアは軽々しく足場を蹴って登っていく。早々と頂上までつくと「おまえも早く来いよ!」などと急かしてくる。
「化物じゃないですか…。」
普通に登るのは無理。早々に思い立ち、空を飛ぶ。
「なっ…おまえ…飛べるなら早く言ってくれよ。」
「…言っときますけど乗っけて飛ぶとか嫌ですからね…。」
「楽できると思ったのに。ケチな奴だよな。」
「僕もまだそこまでなれてないんですから。」
「あっそ。急ぐぞ。」
そんな風に軽くあしらい先を急ぐフレア。そんなフレアのことがなんと無く苦手になっていった。
それから、お昼を過ぎた辺りの頃。ようやく山頂にたどり着く。
「おまえが飛んでくれれば一瞬なのにな。」
「だから、危ないですって。」
「その空飛ぶやつ。私にも出来ないの?」
「…他のものに付与するのは点で駄目で。」
「なんだよ。使えねぇな。」
「…身体強化くらいなら出来ると思うんですけどね。」
「…それ、私が走っておまえが飛んで追い付くってこと?」
「…そう言うことです。」
「ふーん…面白そうじゃん。」
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