失敗作
迂闊だった。敵は魔族と亜人の混合。ムスカスのように魔術に長けている存在がいると、何故予想しなかったのか。己のように魔法を扱える存在がいると、何故予想しなかったのか。後悔ばかりが積もる。
また己は死ぬのか。なにも成せず、啖呵を切ったそれだけで死んでしまうのか。己はどこまで役立たずなのだ。
出来損ないなのだ。
余った魔力は、フレアに託した。
ケイスケを抱え、フレアは走った。このままではケイスケは死んでしまう。治癒魔術師でさえ、この傷の治療は難しいはずだ。使えない頭を回した。せめて、自分の回復にリソースを割けばよかったものの、ケイスケはそれをしなかった。無駄だと悟ったのだろう。自分があの一瞬でできることはこれだったと。
ただ、ディファムに向けて走った。久方ぶりの敵前逃亡。フレアもまた舐めていた。いや、ケイスケほどの魔法を扱える人間が他にいると思ってもみなかった。
フレアが誰かに頼ると言うのは、久しぶりの事だったのだ。頼れる安心感を思い出してしまった。今や、孤高として生き続けることなど選択肢にはなかった。温かったのは己だ。
誰なら治せる?思考しても、たった2人しか思い浮かぶ顔は無い。1人はケイスケ。もう1人は、フレアの師匠だ。名前も知らない。かれこれ数年も会ってない。奇跡を祈るには、あまりにも都合がよすぎる話だった。
己に魔術の才能があれば、それだけが頭の中を駆け巡った。ただ、彼女は走るしかなかった。
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襲撃を受けた人魔の黄昏。露となった根城の最奥に座する1人の男は考えた。
単騎で突っ込んできたあの2人。あれは間違いなく驚異であると。相手が若くて助かったと言ったところだ。尤も、だからといってなにもしないわけには行かなくなった。この場所が公に晒された。いずれ、ムスカスの失敗も露呈することだろう。あの若い魔法使いが死んだとも限らない。何よりまずいのは、現在世界最強の男、ゼル・ヴァイスの存在だ。あれがもし、あちら側についたのなら。いや、人間の彼なら間違いなくリュークの敵となるだろう。
「ここは…ギルナに任せるのも良さそうだな。」
そう呟くリューク。立ち上がり、向かったのは最下層の牢獄である。ここに奴は。ギルナは眠っている。自分と同じような器。そんな存在であることは理解していた。だが、まだ足りない。彼は幼い。
最下層の牢獄に封印されているのは、ムスカスが実験で使った人族やモンスターの残骸である。そんな中、まだ生きている存在がいる。
「よぉ…また実験か?」
不適に大男は笑った。継ぎ接ぎだらけのムスカスの失敗作。その姿は鬼のようであった。
「いいや、違うぞ。君に、暴れて欲しくてね。」
「暴れる…ねぇ…俺をここまでしておいて、言うこと聞くとでも思うのか?」
「聞くことしかできないだろ?それがあの時の条件だ。」
「ハッ…クソやろうが。」
「そんなに怒るなよ。きちんとお前の姉は生きてるんだから。」
「…そうかよ。」
「すぐにでも戦力が必要だ。君も感じただろう?さっきの揺れを。」
「ああ。」
「この場所が露になった。我々は奇襲と言う名の宣戦布告を喰らったのだ。」
「…ほう。数は?」
「2。」
「…は?」
「たった2人だ。」
「は…はは…バカな人間も居たもんだな。」
「勘違いするな。あいつ等の実力は私と、そしてお前と同等だ。」
「なるほどな…。」
「やられっぱなしも癪だろう?それに何より…君の姉だ。唯一の家族は元気にしているようだし。これ以上は…ね?」
「…わかったよ。やればいいんだろ。」
その大男は腰を上げる。ただの腕の一振で牢屋を壊した。
「おいおい…あまり暴れないでくれ?この拠点の維持も魔力を食ってるんだから。」
「知ったことかよ。」
そうして、その男。ギルナ・ベウスは外へと向かう。
その姿に1人、リュークは感心した。ムスカスはあれを失敗作だと言った。だが、リュークはそうは思わない。ムスカスの洗脳は非常に強力だった。それに対抗しているギルナの精神性が凄まじいのだ。しかし、今回話して理解する。ギルナの抵抗力は弱まっている。
「さてと…姫を回収しに行くとするか。」
そうして、リュークもまたその場を後にするのだった。
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