死闘
開戦の合図は、【人魔の黄昏】のアジトの中に響き渡った。多くの者が動揺するなか、ガーネットは一人高揚していた。
「来たな…あの赤髪。」
そして、ネリウムもまた静かに戦地に赴くことを決めた。
─────初撃の挨拶を決めたケイスケは思案する。自身の質量魔法を防いだ障壁についてだ。あれは相当な火力であったはず。並みの障壁なら紙同然の耐久しかなさない。
「すごいやり手が要るみたいですね。」
「ま、私はあの赤髪を狙うかな。」
「そうして下さい。あれはフレアさんにしか任せれません。」
「応!そんじゃ、来るぞ!」
フレアが指差した先、魔族陣営の攻撃と思われる火球が迫っていた。あわてふためいているアルフを余所目に2人は歩みを進める。
「ちょ、お二方!?」
「離れんなよ。私らの近くが一番安全だ。」
フレアがそれだけ言う。おどおどとアルフはそれに従う他なかった。
火の雨が降り注ぐ。だが、3人には当たらない。集団戦では効果的だが、相手はまさかの単騎特攻。この弾幕量ではあまり意味がない。暫くすると火の雨は止んだ。
「…来ますね。」
「あぁ…。」
2人はその気配を感じとる。高速でこちらに向かってくる存在。数は2。どちらも覚えのある気配だ。
「ネリウムのバカはお前がやんな。」
「…はい。」
突如、紅い閃光はフレアを襲った。長身のガーネットであった。その一撃は重たく、アルフは吹き飛ばされそうになる。
「危ねぇから離れろ!」
声を上げたのはフレアだった。さっきとは言ってることが真逆である。
「アルフさん!!」
ケイスケが手を伸ばす。なんとかアルフはその手を掴むも次の瞬間にはディファム王国の街中に居た。何が起きたか見当がつかなかった。
ケイスケの土壇場の魔法である。すぐそこにあるかのように、アルフの位置を変えた。あの日、リオンが連れ去られた日以降、研究していた魔法でもあった。
「よし…。」
アルフの帰還を確認した後、ケイスケは来るであろう初撃に備えた。
変幻自在。仮面をつけた彼女は予測不能な攻撃を繰り出す。亜人の中でも異質。呪いの子と呼ばれる存在。ネリウムがそこには立っていた。
「ケイスケ…。」
静かに、ネリウムは呟く。ケイスケの背後ではフレアとガーネットが激しく打ち合いをしていた。
「ネリウムさん。僕のあのときの言葉、信じれなかったですか?」
「いいや、信じている。」
「なら、どうして…。」
「言っただろう。これは警告だと。あの男には近づくな…。」
「あの男…。」
「わかったら帰ってくれ。」
「できません。こんな状況のまま帰るなんて。」
「そうか、ケイスケ。お前の言葉は嬉しかった。過ごした時間も、今までにない経験だったよ。」
「…どうしてもですか?」
「ああ…死会おうか。」
神速ともとれる、ネリウムの絶技。対応する体術こそ無いが、ケイスケは最小限の障壁で対処していく。
「ケイスケ。お前は近接に弱すぎる。」
突如として、ネリウムはその間合いを積める。あまりにも速く、ケイスケはその接近を許してしまう。
防御こそできるが、視界は随分と狭まった。魔力の槍を構築する。その一撃さえいれれば、勝てる。そう思っていた。
ネリウムに向け、放たれた槍はケイスケと同じような障壁で弾かれた。
隙が生じた。
居たのだ。ケイスケと同じように、魔法を扱える存在が。その技量は、ケイスケの遥か上。アジトの最奥から、そのピンポイントに障壁を張った存在が。
僅かな魔力の痕跡をたどり、ケイスケはそれを知覚した。そうして、その産まれた隙に杭は撃ち込まれた。
ネリウムの触手は背後からケイスケを貫いた。
「…ッ!?」
声が出ない。まともに受けた、死に直結するようなダメージ。何よりも比べ物にならない苦痛。
ネリウムの触手は引き抜かれる。静かに、その場に倒れ込むケイスケ。
「ケイスケ!?」
「余所見してんじゃねぇよ!!」
脳天を穿つようなガーネットの一撃、それを往なすフレア。
前戦ったときよりも、目の前の敵は強くなっている。直感で理解したのは、その敵は身体強化を受けていると言うことだった。状況は俄然不利となった。
ケイスケは頼れない。どう切り抜ける?どう倒す?それだけがフレアの脳内を駆け巡った。次の瞬間である。
【爆発…】
脳内に詠唱が響いた。ケイスケの声だ。竜人化したリオンと対峙したとき程ではない。それでも、フレアの四肢はあのときの様に燃えていた。
「…バカがよォ…。」
フレアが剣を握りしめる。踏み込み、目の前の赤髪に剣を振るう。受け止めたガーネットの剣をへし折り、そのまま山へと叩きつける。そうしてフレアの足はネリウムへ向く。死を悟ったネリウムはなにもできなかった。頸が跳ね飛ぶと覚悟した次の瞬間、フレアとケイスケの姿は消えていた。
「撤退…か…。」
そう言ってネリウムは露となったアジトを見つめるのだった。
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