開戦
少し時は遡り、レイスのギルドにて。
─────ベオルは驚愕した。戦意を喪失していたはずの2人の魔族が獄中から逃げ出したのだ。よりにもよって最高戦力は出払っている。
『一体何があの魔族らを…。』
考えても仕方がない。起こってしまったことなのだから対処するのがギルドマスターの務めだ。すでに、魔族達の捜索は開始させている。
「シウ…。」
そんな独り言を書斎にて述べるのだった。
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さて、死屍累々かと思えたディファムのギルド。しかし、その全員は生きていた。
「全員…生きている。」
「どう見るよ、ケイスケ。」
「あの感じ…ネリウムさんは忠告だって言ってました。何か考えがあるのか或いは…。」
「単純な裏切りか…。」
「嫌ですね。」
「まあ、考えればアイツもしいたげられてきた側だった。当然なのかもな。」
最強の傭兵ネリウムの裏切り。その出来事は2人の戦意を大きく削いだ。いずれ、ネリウムとは戦わなければならない。その覚悟だけはする。
それからは息をつく暇もないほど慌ただしかった。兵士への報告を通し、事情聴取を受け、事を説明。途中、アルフが目覚めたことによりその証言は真実として扱われた。
ようやく宿に腰を据えることが出来たのは翌朝のことだった。
「あぁ…疲れた。」
そう溢したのはフレアだ。体力馬鹿の彼女でも今回の件は相当消耗したらしい。そんな彼女を余所目にケイスケはアルフに詳しい事情を聞いていた。
「そもそもなんですけど、どうして竜の使徒はこんなことになったんです?」
「過剰な竜信仰の末ですよ。召喚すれば願いが叶うとか、そんな感じの。そんなことあるわけ無いんですけどね。」
「それ、司教であるあなたが言っていいんです?」
「まあ…信仰なんてそれぞれじゃないですか。」
「…どうして竜の使徒に…。」
ケイスケがそう呟く。
「私が竜の使徒になったのは…恥ずかしいんですけどね、これが理由です。」
そう言ってアルフは懐から小石を1つ取り出した。
「これは?」
「我が家に代々伝わる…おとぎ話の産物です。原初の竜…そう呼ばれたものの因子…この星そのものの特性を持つ石です。」
「…この星そのもの…?」
「面白いんですよ。魔力を通してみると…ほら、星空みたいに光るんです。」
そう言うアルフの手元には、本当に星のように輝きを放つ石があった。
「まあ…この星そのものって言うのもちょっと変な話ですけどね。でも、子供の頃の私はそれに魅せられた。綺麗だと思った。そして原初の竜はもっと…強大で心優しかったのだと…そう思ったのですよ。」
アルフのその目は過去を想うものであった。不意にその目に闘志が宿った。
「だから、今、私の夢を汚した彼らが許せない。止めなければ行けない…そう思ったんです。」
確固たる決意がその瞳にあった。
「なら、とっととそのアジト…潰しに行くぞ。」
威勢を上げたフレアだ。
「そうしましょう。事は早い方がいいです。」
「ま、待ってください!お2人とも…亜人や魔族の大群ですよ?怖くないんですか?」
「そんなもん怖くて竜に立ち向かえるかって話だ。」
「僕も…師匠を見ていたのでそこまでですね。行きましょう。まずは人魔の黄昏ですね。」
自信満々の2人にアルフは言葉を失う。あり得ない話だ。一国に2人で戦争を仕掛けるようなそんな無茶な話だ。だが、それでも2人の表情を見ていると、なぜかできそうな気がしてくる。不可能ではないと、そう思える。
「…行きましょう…!」
そうして、3人は宿を後にした。
アルフに連れられ、人魔の黄昏のアジトへと向かう。場所はディファム王国の外れの山岳地帯。フレアの足もあり、すぐにたどり着いた。
その麓にて、最終確認が始まった。
「作戦はあるんですか?」
アレフがそう聞く。
「作戦?多対少数なんだろ?作戦が機能するわけねぇって。」
「そうですね。」
「は、はい?」
「じゃ、ケイスケ、頼むぞ。広範囲なら十八番だろ?」
「はい。じゃ─────。」
そう言うと、ケイスケは右手を掲げる。掃討戦ならこれで十分だ。巨大な槍が構築されていく。
「─────行きます。」
「え…えぇ…。」
アルフの情けない声がこぼれる。
「足りるか?」
発破をかけるようにフレアが聞いた。
「…あの山って、別にどうなってもいいですよね?」
「は、はい?」
返事を待たずに、光の槍は複製されていく。
「魔槍─────【ロンゴミニアド】」
その一言で、槍は一斉掃射される。山岳を削り、地形を完全に帰る勢いだ。その光景を見てようやく、アルフはベオルがこの2人を派遣した理由を完全に理解した。規格外…そんな言葉では収まらない規模の魔術。いや、魔法。単純な質量の暴力に山々は消し飛んだかに思えた。
「あれが…。」
フレアが呟く。山々の表面は消し飛んだ。だが、その中から現れたのは巨大な立体迷宮のような建造物。
「硬い…物理的にじゃなく、魔術的に防御されてますね。」
「んじゃ、私の出番だな。」
そうして、長い戦いは幕を開けたのだった。
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