爆発
ケイスケとフレアはその竜人を見上げる。自分達の攻撃が一切通用しない相手。2人とも、そんなものを前にするのははじめてだった。
「何も通用しない…。」
「…作戦も何もねぇな…。」
「もとより作戦無視したのはあなたでしょ!?」
「しゃらくせぇことは性にあわないんだよ!」
小競り合いをしていると、目の前の怪物から砲撃が飛んでくる。間一髪、両者はそれを避ける。
「…リオンさん。」
「ありゃ完全に我を失ってやがるな。と、言うかどうするよ?あのデカブツ。おまえの魔法も、私の力でも届かない…。」
「1つ…無くはないです。」
「お、そりゃありがたい。」
「ただ、これを使えばフレアさんの身体がどうなるかは保証できませんし僕はそれにリソース割くんで無防備になります。それでよければ。」
「…やるしかないなら、それだけだ。」
「…わかりました。出し惜しみは無しで行きます」
その言葉にフレアは「おう。」とだけ答える。するとフレアの身体に、身体強化の魔法陣とはまた違った魔法陣が幾重にも重なる。それは今まで見たことがない物であり、ケイスケ自身、扱うのも初めての魔法だった。
「僕、付与魔法苦手なんですよ。」
「前にも言ってたな。上達したのか?」
「いいえ。どうにもエネルギー変換を最短でやってしまうせいでやっぱり爆散しちゃうんですよね。」
「…待て、なんでそれを今言った?」
「これから起こるのは、爆発の連続です。誰かに付与して初めて成り立つ…僕のできる最高の身体強化…いや、そんなものじゃないか。」
「ちょ、説明不足が…。」
【揺らぐ焔 大地を焼く 宙を焼く 万物は其の身の力となる 其の身を焦がす光となる 是 理を焼く炎 是 識を紡ぐ炎】
重なる魔法陣はフレアの身体に集束する。光がフレアを包む。熱がその空間を焼いていく。やがて、その光が熱として納まり現れたフレアは、燃えていた。フレアの身体がと言うよりも、その存在が。人のようで、或いは炎の精霊のようで。揺らめく存在は、確かにそこに有るが、風に揺られている。
「な、なんだよその詠唱!?」
「もとは爆発魔法だったんですけどね。それをちょっと弄れば人の身体に集束できるんじゃないかって。」
「は、はぁ!?」
「謂わば、魔法の擬人化…ってところですかね。」
「ま、まてまて、なにしてんの!?」
「言ったでしょう?奥の手だって。突貫ですけど…プランCです。脳筋なら突っ切ってください。」
「あ、あぁ…そうかよ…なら虚弱は…黙って後方支援してりゃいい。」
そうして、フレアは踏み込む。今までの何よりも速く。まさしくそれは地上を馳せる光。だがそんな速度、人の頭では支配しきれない。ケイスケがいなければ。謂わばこの状態は、フレアとケイスケの完全同期状態。感覚網はケイスケの支配領域でもある。故に、その速度であったとしてもその火力は衰えることさえもなく竜紛いのそれをしっかりと捕らえる。
「切る…。」
その翼をめがけ、フレアは一太刀を振るう。何であっても傷つかなかったその外装はようやく、その絶対性を崩そうとしていた。初撃目。まだ浅い。勢いのまま、ダンジョンの壁に着地する。その反動でレーザービームのように紅い少女は戦場を駆ける。大火力に任せ、剣を振るい絶対的な鎧を削ぐ。あまりにも一瞬であったが、その一瞬でどれ程の斬撃があったことか。十、二十?いや、百、二百でもまだ足りない。千は下らないだろうその連撃。ものの1秒足らずに、それを切り伏せた。方翼を失ったそいつは地に落ちる。
「こんだけやって羽一枚…か。」
「効いてはいるんです。まだ持ちますね?行きますよ。」
「おう!」
緋は再び駆ける。しかしその竜人とて、やられるばかりではなかった。立ち上がり、即座に無詠唱による魔法陣の展開。このフィールドそのものを取り囲むように配置されたそれ。
「もろとも吹き飛ばす気か…。」
ケイスケは呟く。
次の瞬間、その魔法陣から閃光が爆ぜる。しかしその爆発はケイスケにも、フレアにも届くことはなかった。
「チッ…人使いが荒いっての。」
舌打ちをするのはその爆発を切り伏せたフレアであった。今のフレアは魔法の擬人化である。もはや概念上の存在に近い。故に魔術であれば切ることなど容易い。
「すみません。間に合いそうに無かったので…。」
「ああ…そうかよ!!」
言葉を発し終えると同時にもう片方の羽も切り落とされた。
「ようやく人らしくなってきたな…リオン…。」
「そろそろ終わりにしましょう。フレアさんの身体が心配です。」
「そうかよ…速攻でケリをつけてやる…。」
紅蓮が駆けた。負けじと、リオンは最後の抵抗を示す。多重の魔法陣。だが、やることは変わらない。爆発の連続。安直であるがゆえ、今のフレアにとっては障害ですら無かった。襲いかかる火球を、爆発を切り伏せる。
その紅。それは理を焼く炎。その身を、万物を己が力に換える炎。その一太刀、完全に芯を捉えた。
「行け…爆発!!!」
「うぉぉぉおぉぉおおああああぁぁああ!!!!」
斬りつけたは同胞の身体。切り伏せるは悪性の腫瘍。魔術と言うその身を竜人足らしめていた理を焼き払う。静寂に、その角は灰となる。その結晶は砕け散る。その身体は、かつての…人間本来としてのリオンとなる。そうして、その少女は虚ろであった瞳を瞑り暫くの休眠に入ったのだった。
─────ダンジョン内での救出作戦から3日が過ぎた。リオンも目を覚まし、冒険者としての訓練に励んでいた。しかし、そこには師匠であるネリウムの姿はない。
ここは復興の進むレイスの街のギルド。フレア、ケイスケの姿がそこにあった。
「ネリウムの奴、どこに行ったんだろうな?」
「ムスカスは確かに殺されていた…足取りはさっぱりですね…それよりフレアさん、あれから身体に変化とかないです?」
「ああ、もうなんともない。翌日はちょっとばかり筋肉痛で死ぬかと思ったが…。」
「…まあ、奥の手ですね。何度も何度もやるようなものじゃないです。」
「だな。」
再び、また以前のような日常が戻るかに思えた。そんな時間。
─────そこは暗い洞窟の中のような空間。ネリウムは赤髪の彼女に案内され、その道を歩いていた。
「あんたも、人間に恨みってあるんだな。」
「無いわけ無いでしょ…。」
「そっかあ…あんた名前は?」
「ネリウム。そっちは?」
「私は、ガーネット。よろしくな。」
無邪気な笑みに若干動揺する。
「これは…どこまで続いてるの?」
「もうすぐだよ。」
そうして、暫くすると大きな禍々しい扉が見える。
「ここは…。」
「この先にいるんだ。私たちのボス。」
「ボス…。」
その扉を開けながら、ガーネットはその名を紡ぐ。
「リューク様、同胞を連れて参りました。」
打って変わった落ち着いた雰囲気で話す彼女。その扉の先の青年を見て、ネリウムはゾッとした。その圧倒的な力に。もしかするとフレア…いや、それだけでなくケイスケをも簡単に凌駕してしまうかもしれないその男に。
「ほう…君が連れてくるとはね。ガーネット…。」
その男は、目元を仮面で隠すようにしていた。そうして、無表情に笑うのだった。
この作品を読んでいただきありがとうございます!一章はこれを持ちまして完結とさせていただきます。若干次に入るまでに時間が空いてしまうかもしれませんがご了承ください。
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