一刃の毒
階層へと落ちた2人を横目に、ネリウムはムスカスと対峙する。
「貴方は人間族を大いに凌ぐ力がある。才能もある。それに…ピンときました。最強の傭兵…あなたの事だったんですね。さぞ人間に対する恨みは大きいことでしょう。であればなぜ、人間に肩入れするんです?」
「…やりたいようにやってるだけだ。」
「本当ですか?」
「…。」
「ええ、ええ、わかりますとも。その気持ち。私も同じですからね。虐げられてきた、その歴史、記憶はこれから何があろうと変わらないですからね。恨み、晴らしたいでしょう?」
「…。」
「捨てられた…哀れな呪いの子だろうと我々は見捨てませんよ。あの方の下、共に人間への復讐と言うのも悪くないですよ。」
「復讐…か…。」
幾度考えたかわからない単語を反芻する。
「あなたも亜人でしょう?ならば同族ですよ。」
「…まあ、遠慮させて貰うよ。」
「おや、意外ですね。」
「少し…賭けてみてもいいんじゃないかって思える奴が居るからな。」
「そうですか…残念です。」
互いに睨みを効かせる。お互いに、動くことは容易ではない。
僅かに早かったのはムスカスであった。黒と赤の刃が交差する。
「避けますか…流石ですね。」
「チッ…当たらないか…。」
互いにその初撃を躱す。次の瞬間、踏み込んだのはネリウムだった。一瞬の加速。それはムスカスの目でさえ追えないほど。
「なるほど...速い…。」
触手による横振りの一撃。それを身をのけ反らして躱すムスカス。それと同時に黒い刃を突き刺すも触手によって防御される。
「その上硬いときたか…。」
紙一重の攻防。お互いに刃を躱し、お互いに刃を放つ。どれだけそれを重ねようとも、勢いが落ちることはない。
一瞬の隙。その瞬間にネリウムの頬に痛みが走る。
「チッ…。」
だが、そんなことは気にしない。気にしている場合ではない。ネリウムも同時にムスカスの仮面を切り裂く。
今まで左の目元だけしか確認できなかったそいつの顔がようやく晒された。
「っ…。」
一瞬、ネリウムは怯んだ。その顔は、その顔の右半分は爛れていた。と、同時に先に仮面を切り裂いた時にできた傷が眉間から鼻筋にかけて入っていた。
「…これが、人間って奴ですよ。」
「…。」
「がら空きですよ?」
その言葉と同時に黒い刃はネリウムの心臓を貫こうとして、結果としてネリウムの左肩を貫いた。
「がっ…ぁ…!!」
胸を押さえたのはムスカスだった。
「っ…。」
痛みに耐えながら、その男がうずくまるのを眺めるネリウム。黒い刃は霧のように晴れる。
「な、何を…した…!?」
「私が呪いの子っていうのは知ってるんだろ…なら、賢いアンタはわかる筈だ。それがなんなのか。」
「…あぁ…なるほど…毒……なるほど、なるほど...これは確かに最強の傭兵と言える…少しかすっただけでこの様ですか…。」
「そいつは心臓に効く…すまない…。」
「おや…謝罪とは…。」
ゆっくりと、ネリウムはムスカスに近づく。
「トドメ…ささないんです?」
「アンタはもう…そんな長くないよ。ひとつ教えてくれ。おまえたちの言う復讐の先には何があるのか。」
「…そこに立ったものにしかわからないだろうな…。」
「…そうか。」
「君の…賭けた先には、何があると思う……?皆の幸せかそれとも…今と………変わらぬ世界か─────」
「私の…賭けた先…。」
今や物言わぬ肉塊となったそれ。暫くすればハエがたかるだろう。ムスカスが被っていたフードでその顔を隠した。
「お、おまえ………。」
不意にそんな声がした。ふとそちらを見ると、赤髪…そして長身のあの魔族がいた。
「あぁ…。」
「おまえが…そいつをやったのか?」
「…そうだ。」
「…そうか…いや、倒せるもんなんだな…そいつ…。」
「同胞が殺されたってのに…随分と静かだな。」
「まあ、そいつは私たちの中でもイカれてたからね。」
「そう…だったんだな。」
「さてと…じゃあ始めようか。」
そうして赤髪は大剣を構え、ネリウムは言葉で遮った。
「いや…アンタとはやりあわない。」
落ちていた、ムスカスの仮面を拾う。
「は、はい?」
「私も………亜人の端くれだよ…この目に…見たいんだ…この炎の先の景色を…。」
「ま…マジかよ…。」
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