それは完成形である
「─────やることは変わらない。一撃の元にあれの脳天を打ち砕く。」
「物騒なこと言うな…ケイスケ。」
「らしくない。が、その心意気は嫌いじゃねぇ。」
城壁から針葉樹林のダンジョンをながめ、3人はそう話していた。フレアの身体には身体強化の魔法陣が付与される。
「んじゃネリウム、捕まっとけよ。」
「な、なぁ、この移動方法じゃなきゃ駄目なのか?」
「速くしないと、リオンさんが危ないです。」
「それはそうだが…。」
「御託はここまでだ。口閉じとけ?」
そう言うと、フレアは1歩大きく踏み込み大地を蹴る。城壁を抉り、弓矢のように放たれたフレアの体躯は宙をかける。いつかの流星のように一条。少女は宙を切る。
「いつか…絶対に。」
そう呟いて、ケイスケも飛んだ。
ダンジョンまではあっという間だった。故にネリウムは目を回している。
「ネリウム回復までちょっと休憩だな。それまでに作戦を立てておこう。」
「そうですね。」
「プランAだ。私が突っ切る。ネリウムとケイスケにはそのフォローをしてもらう。」
「…プランB、僕が魔法でぶちのめす。その後全員で帰還。」
「あ?」
「少なくとも、単身突っ切るより理には叶ってます。」
「近接戦闘もできねぇくせに。」
「…フレアさんは近接戦闘しかできないですからね。」
「んだと?」
「何ですか?」
「ちょ、ちょっと2人とも…?」
「あぁあ、いつもの調子に戻ったかと思えば。戦闘狂のおまえの方がよかったかもな。虚弱は黙って後方支援してりゃいいんだよ!」
「そこまでの脳筋だとは思いませんでしたよ。ただ、突っ切るしか能が無いんですね。」
「てめぇの大火力の命中精度には難があるってのは知ってんだよ!」
「フレアさんは近接戦闘で呪いを受けた…そうじゃなかっですか?少なくともこっちには手数がある。」
「ならてめぇの身体強化でそれより速く動くだけだ!」
「戦闘狂がそこまで慎重に動けるんですか?」
空気が張りつめる。
「2人とも!喧嘩は無し!!」
ネリウムの声でその緊張は解かれる。そのまま言葉を続けるネリウム。
「そこのところは臨機応変に。私も回復したし…行くよ!」
「「…了解。」」
そうして3人は、ダンジョンの中へと入っていく。一見すれば薄暗い洞窟。しかし、ケイスケには感じ取れるものがあった。
「随分と下ですけど…いる。それに…これは…。」
師匠を除いて、感じたことがないほど強大な魔力。今の自分にどうにかできるのか不安になるほどの力の塊。
「不味いかもしれませんね。」
「竜人…か。」
「その実験が成功してるともかぎんねぇだろ?最短で行くぞ。」
そうして、ダンジョンの攻略は始まった。難なく進んでいく3人。各々が魔物どもを瞬殺していく。あまりにも速く、あまりにも強い。そのくせして、消耗はほとんど無い。
進んで、進んで、おおよそ1時間。1分で1階層を下ったことになる。60階層に到着するころには、その魔力の波動は強さを増していた。
「こりゃなかなかヤベぇんじゃねぇの?」
フレアがそう言う。
「ヤバイどころじゃないですよ。これ。」
「私が対峙した竜…いや、それ以上…。」
「急ぎましょう…。」
ケイスケとフレアはそれだけ交わし、走り出す。ネリウムもそれに続く。進むにつれ、段々と魔力の波動が濃くなりやがてそれは威圧へと変わる。それすら、気にすること無く3人は走る。やがて、その波動の中心部とおぼしき場所を特定する。その空間。開けたその場に鎖に繋がれたそれは居た。
「これは………。」
その翼は紛れもなく竜のもの。その角は、雄々しく、禍々しく有ってしかし儚しさと美しさも兼ね備えたそれ。竜人と呼ぶにはふさわしい。いや、それこそ神々しい。
「思いの外…早かったんですね。」
こちらを振り返り、ムスカスは呟いた。
「でもここからが仕上げなんです。もうちょっと待っていただきますよ。」
その言葉に、フレアがいち早く行動する。
「させるかよ!!」
踏み込んだ。フレアの本気であった。しなった身体はとてつもない勢いでそれに切りかかる。が、その斬撃は届くことがなかった。
「空間移動…お忘れです?」
いつの間にかムスカスはその竜人の頭上に居た。自然と視線が声の主、ムスカスに向く。そして皆は、絶句した。ムスカスの早業にではない。ましてや今更贋作となった同胞を嘆いたのではない。ムスカスのさらにその上。そこにあったのは、あの日、リオンを拐った5人目。それが、鎖で吊るされていたからである。
「これが最後なんですから、そんな焦らないでくださいよ。」
その言葉と同時に、黒い刃はその5人目を貫いた。
「…竜人よ…喰え。」
ムスカスはそれだけ呟く。頭上を見上げ、リオンは、リオンであったものは口を開いた。ムスカスの刃は形を変え、その身体を引き裂く。紅く舞うそれはたちまちリオンに降りかかる。それを受け止め、そしてその喉は動いた。静寂であったその空間には、次の瞬間ざわめきたつほどの殺気が走る。爆発的な魔力の暴動。それはまさしく真に怪物の誕生だと言えよう。
その血を聖杯の如く受け止めたリオンはこちらを向いた。その目元には特徴的な結晶。
「これだ…これこそ………これこそ私の夢にまで見た…!嗚呼…なんと…なんと美しきことか…これ程とは…これこそが完成だ。完成形なのだ!」
ムスカスの歓声は、ひどく静かに響いた。
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