伝説
─────針葉樹林のダンジョン。第60階層。
「…まあ及第点でしょう。」
そう言ったのはムスカスであった。失った右腕を押さえながら吊るされた被験体を眺める。その少し開けた空間には他に2人、魔族がいた。赤髪の方は未だに目を覚まさない。
「お嬢もまだ起きちゃいねぇ…その上ムスカス様もその腕だ。ここなら大丈夫なんだろうな?正直、俺はあいつら相手に戦える自信なんて無いぞ?」
「安心しろ。私も同じくだ。その上ここはあの魔法使いに利のある地形…まず間違いなく今の私たちの戦力では足りない。」
「じゃあどうするってんだ?このままおとなしくしておくのか?」
「いいや、いずれあの方にとっても害になるような存在だ。出来ることなら私たちで処理した方がいいだろう。幸いにも竜の使途らの先導は完璧だった。」
「竜の使途ねぇ…使えるのか?」
「実際、竜を召喚してくれたのは確かなんだ。お陰で材料は集まった。」
赤髪の看病をしていた魔族の男は転がっている本を手に取り、ページをめくる。
「竜人…そんなもの本当にできるのか?」
「さあ?こればかりはやってみないとわからない。伝承にしか載っていない幻の亜人だからな。だけど、仮に成功すれば完璧な存在を作る足掛かりになるのは間違いない。」
「昔から熱心だねぇ。魔族の中でも突出した魔力をもつ研究者…噂されてただけはあるよ。そこまでして、復讐したいのか?」
「君は違うのかい?虐げられてきた恨み、辛み、晴らそうとは思わないのかい?」
「まあ、思うけどよぉ。俺はアンタほど熱心にはなれなかったかも知れねぇな。」
「そうか…。」
「しかし…お嬢が居るのにこれ以上を求めるってのもなんだな…。」
「彼女だとまだ未熟な部分が多い。それに…力も種族も弱いだろう。」
「俺からしてみりゃ十分だよ。」
「現に、今回たった1人の人間に負けた。それはどうにも出来ない事実だ。」
「まあ…負けて怒り心頭なのはわかるが、あまり焦らないでくれよ。」
「わかっているさ…。」
「頼むぜ、俺たち魔族組の最高戦力はアンタなんだ。ムスカス様。」
「ああ。」
吊るされた被験体。リオンへとムスカスの視線は移った。透明化、そして戦闘技術。どちらも洗練されていた。思い浮かんだのはあの白髪の亜人。
「人間の何がいいんだか…。」
そう言うと、ムスカスは魔術回路を組んでいく。それはリオンの身体に刻み込む新たな鎧であり、肉体である。
「透明化はそのままに…竜の力そのものを組み込んで…血を馴染ませるには…。」
ぶつぶつと独り言をいいながらそれを作っていく。
「後は…うまく馴染むことを願うだけだな。」
「にしても、ソイツも難儀な奴だよなぁ。」
「この人間が?」
「親に売られて、復讐の道具にされて…。」
「まあ、自業自得だろう。それに、憂さ晴らしならこれからいくらでも出来る。」
「人間の抹殺…か。」
「同じ過ちを繰り返さないためだ。全ては虐げてきた人間の自業自得だろう。」
「人か、魔族か、亜人か…どうにもこうしてムスカス様の研究を見てると、時々わかんなくなるよ。」
「何がだ?」
「人がどうとかって話だ。はっきり、人知を越した者の前ではそんなもの無意味に過ぎねぇだろ。」
「そうだな。」
「そこまで取り憑かれる必要もないんじゃないのか?」
「これはあくまで、私なりの恩返しだよ。復讐も兼ねたね。あの方は私を救ってくれた。そしてこの先のあるべき道筋を示してくれた。ならば、私はそれに答えるだけだ。さて、仕上げと行こう。」
そう言うと、リオンの身体に魔術回路が現れる。それにともない、魔法陣が幾重にも重なる。もともと発現していた、は虫類の鱗はより強固に、そして額には1対の角が現れる。尾が生え、翼が生える。それはまさしく伝説に見た竜人の姿とそっくりであった。魔法陣を背に神々しく、造られたそれは目を開ける。その瞳は、金色にそして縦に黒目の走ったまさしく竜眼。
「…ぉお…。」
目を輝かせるムスカスを横目に、男は赤髪の看病を続けるのだった。
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