闇夜に溶ける
リオンの家庭と言うのは、裕福なものではなかった。それこそ、貧しかったと言って差し支えはない。母、父、姉、そしてリオンの4人家族であった。
2つ上の姉は家事の手伝いや、仕事の手伝いと何でもこなすことができた。
対してリオンはなにもできなかった。むしろ、家族に迷惑ばかりかけていた。思えば、いつも構ってもらえる姉に嫉妬していたのかもしれない。だから、どこかリオンを見る家族の目線はどこか寂しく感じられた。
事が起きたのは、リオンが7、姉が9になる年のことだった。付近の川へ水汲みに行ったときのことだった。
『リオンもそろそろ、お手伝いちゃんとやったら?』
そう諭したのは、姉である。
『やってるもん!!』
リオンはそう言い返す。
『やってないよ。リオンは遊んでるだけじゃん!』
『そんなこと無い!!』
河原でそんな言い合いをする2人。よくある子供の喧嘩だった。
『お姉ちゃんのバカ!!』
『バカって何よ!役立たず!!』
その言葉にカッとなり、リオンは姉を叩こうとする。だが、力は姉の方が上であった。その飛びかかってきた小さな体躯をいとも容易く受け止めた。ムキになって殴りかかるリオン。
『ちょ、痛いじゃん!!』
『バカっ!バカっ!!』
ただそれしか言わず姉を殴る。向こうもやられてばかりではなかった。
『そうやっていっつも邪魔するからダメなんでしょ!!』
そうして、リオンを突き飛ばした。足元が不安定な河原での喧嘩。リオンはバランスを崩し落ちそうになる。とっさに手を伸ばした先にあったのは、姉の腕だった。意図せぬ力に引っ張られ、リオンに覆い被さるような形で姉も一緒に川へと落ちた。
その川は小さな子供にとってもそこまで深くは無いものだった。リオンはすぐに体勢を立て直すことができた。だが、姉は違った。直前にリオンに引っ張られたことも相まって、姉は軽いパニックに陥っていた。
立ち上がったリオンは姉の姿を見つける。少し流されている。そして、必死に踠いている。水面にうつ伏せのまま、必死に立とうとしている。その光景は不思議でしかなかった。立てばいいのに、何て思った。遊んでるのはお姉ちゃんの方じゃん、何て思った。
そんなこと、できたらとっくにしているのだ。息継ぎもなく、声も上げず、静かに踠くその身体は次第に遠くへと流され、ふと、リオンが我に返った時には既に手の届かないところまで流されていた。そして、もはや踠くことさえなかった。
強く残っているのはその思い出だった。そこからのことは覚えていない。家族からの視線はどこか暗くなっていた。
「─────そん…な…。」
「だって当然だよね?お姉さんを殺したのは君自身だ。」
「わた…しは…。」
「昔から他人に迷惑ばっかりかけてさ。そりゃ仕方ないよ。君、代わりにもなれないようなでき損ないなんだからさ。」
項垂れる。もうなにも聞きたくはなかった。せっかく見つけたと思えた居場所でも、こうして今、迷惑をかけている。
「…うるさい…。」
「そう。でも事実だ。君が見なきゃいけない、君の罪だ。」
「…黙れ…。」
「そんなこと言っていいのかな、人殺しがさ。」
「…黙れ!!」
叫び、落ちたナイフを拾った。そこからリオンの姿は消える。気配探知させる間もなくその斬撃は闇夜に溶け込む。男の首筋を刃が撫でる。せいぜい、掠めた程度。
「ああ、ちょろ。」
男はそれだけ呟いた。ほんの少しだけ動き、その斬撃を避けたのだ。そうして、持っていたナイフの柄でリオンの首筋を叩いた。とたんに身体に力が入らなくなる。その場に倒れ込む。
ちょうど、その場にムスカスが現れる。
「遅かったっすね。ムスカスさ─────って、腕!?てか、お嬢まで!?」
「引くぞ。」
ムスカスはそれだけ呟く。男はリオンを抱え、ムスカスの肩に手を乗せた。
「チッ…速すぎんだろ。」
ケイスケの姿を視認したムスカスは苛立ちながら黒い霧を発生させた。
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