圧倒的な強者
─────フレアとネリウムは、襲撃直前リオンの部屋の外にいた。ムスカスが、襲撃してきた直後、フレアとネリウムの前にも3人の影が現れた。
「あいつの言ったとおり…か…。」
赤髪の女剣士…もといその魔族はそう呟く。
「なら、作戦通りだ。行け。」
続けてそう言い放つと、横に待機していたメンバーの一人がフレアに突っ込む。それを一撃で沈め投げ飛ばす。空いた壁の穴から向こうが見えた。とっくにあちらも戦闘が始まっているようである。
「こっちは任せな?」
その穴から見えたケイスケにそれだけ残し、フレアは目の前の敵に目を向けた。
「はあ、あいつがバケモンって言うだけあるな。ゴウ、横の白いの押さえておけ。こいつは私がやる。」
「…。」
ゴウと呼ばれたもう一人はなにも言わず頷き、ネリウムへと向かう。
「フレア…。」
「まあ任せな。竜より楽だ。」
「でしょうね。」
そうしてフレアは剣を引き抜く。両者はゆっくりと近づき、対面する。
「でけぇな。お前。」
「チビがよく言う。」
次の瞬間両者の剣がぶつかった。力勝負はその一瞬でケリがついた。その魔族の体は後方に弾き飛ばされ、ギルドの廊下突き当たりの壁を突き破り外へと弾き出された。
宙へと放り出されたその魔族の視界に入ったのは夜空。そしてフレアの姿であった。
「!?」
フレアは、既にソイツに追い付いていた。間髪入れない追撃は魔族の体を地面に叩きつける。地面にヒビが入り、仮面は砕ける。
「その仮面さぁ、顔割れてんだからつけなくていいだろ。」
軽々しく、フレアはそう言い放った。
「化物め…。」
「いやいや、今の喰らって無傷のあんたもバケモンだろ。てか何?ホントにただの魔族か?」
「さあな…!!」
その返答と共に無詠唱の火球の乱射がフレアを襲う。
「うーん…ケイスケのほうが強いな。」
涼しい顔をして、その炎を避け、切り伏せるフレア。
「お前…人間なのか?」
「さあね…。」
踏み込んだフレアの神速は、その魔族の目には写らなかった。だが、その殺気は確実に感じ取れた。その一撃を防御できたのは本能であった。あまりにも重いその一撃は、またもその体を吹き飛ばす。
『この私が…人間に押し負けていると…!?』
今度はしっかりと、その両足で地面を捕らえる。倒れることはなかった。それでも屈辱であった。生身では勝てない。そう悟らされた。その実力差はあまりにも大きかった。人間にその技を使おうとは、到底思っても見なかった。しかし、もう目の前のソイツに追い付く方法はそれしか考えられない。
唇を噛み締めた。己の弱さに。悔しさに。だがその心は折れては居ない。これで奴を捉えることができるのならそれでよかった。目の前の強者に目線を向ける。
「まだやれるって顔してるな。奥の手があるわけだ。」
フレアはそれをすぐに見抜いた。
「テメェは...殺す。」
「おう、来な。」
軽くフレアはそう答えた。魔族の魔力が急激に高まる。感情の昂りと呼応しているようだった。揺らめくその魔力はフレアさえ知覚できるほど強大なものだった。そして、どこか見慣れた光景が浮かんだ。
魔族の体の要所には魔法陣が浮かび、そして宿った。だが、それだけに留まらない。その体は光りに包まれ変化していく。明らかな筋肉の増強。狼のような顔つき。手足の爪は発達し、獣のそれとなっている。しかし、その目元の結晶はそのままであった。その姿はまるで─────。
「亜人…。」
フレアはそう呟く。それと同時にニッと笑った。
「ここからは本気でやらせてもらう…。」
「いいねぇ、ようやくいい運動ができそうだ。」
フレアはソイツと視線を合わせる。そして、両者はあり得ない速度で踏み込んだ。次こそ、互角に剣はぶつかりあった。それでも、フレアは笑っていた。
「いいパワーだ。」
「ぐっ…。」
押し合いでは互角。そのはずだと魔族も思っていた。だが、目の前のソイツは余裕な顔をして笑っていた。そしてあろうことか、フレアはその剣を弾いた。
「なかなかこんなパワー出せる奴居ないぞ。すげぇな、お前。」
「ふざ…けるなァッ!!!」
それは力任せの大降り、それをフレアは最低限の軌道変更で軽く流す。
「だけど、パワーだけみたいだな。正確性は無い、ブラフもない、ただの獣みたいだ。そのフィジカルに頼っているだけ。」
「…。」
「お前、弱いだろ。」
その言葉は、魔族のプライドをへし折った。人間ごときが、そんな言葉を言ってはならない。自分に蹂躙されるだけの存在がなぜまだこうして立っているのか、さっぱりわからない。だが、1つだけ確かなことがあった。こいつは潰さなければならない。小生意気なクズは消さなければならない。
魔族はまた大きく振りかぶる。
「死ね─────っ!!」
その一振が届くよりも速く、フレアの回し蹴りがその堅牢な肉体に突き刺さった。吹き飛ばすようなそれではない。だが、それよりももっと酷い。内蔵が破裂する痛みに、魔族は剣を落とす。すべての破壊力が体内で爆発した。それは本来ならば、その巨体を遠く吹き飛ばすほどの威力。だが、魔族の身体は1歩たりとも下がっていない。正確には、下がることができなかった。その場に固定されたみたいに動けず、一切の衝撃を受け流すことができず、その破壊を一身に背負った。直後口から溢れた血に、思考が揺らいだ。その巨体は地に伏す。
「もっと楽しい戦いができると思ってたんだけどな。残念だ。」
「ま…て………私は………。」
「その体で何ができるのさ?放っておいたって死ぬだけのそんな身体で。」
「まだ…だ…まだやれる…!」
そう言って立ち上がった魔族。見れば、身体全体が治癒されているのがわかる。
「はあ…魔族って面倒くせぇな。」
圧倒的な強者はそうぼやくのだった。
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