騙し合い
「離れろ。下郎が…。」
「殺気立ってるところ悪いですけど、元々これ私のものですよ?それをどっかの誰かが勝手に─────。」
「テメェごときが人生決めてんじゃねぇよ。」
直後、ムスカスを襲ったのは体験したことがないほどの重圧であった。
「がっ…!!」
『さすがに…魔法使い相手じゃ分が悪すぎませんかね…これ。』
ムスカスの体は床を突き抜け、1階まで落ちていく。
「奴は僕が引き付けます。リオンさんは速くこの場から逃げてください!!」
「は、はい!」
そうしてリオンは姿を消し、その場から逃げ出した。恐らくここはひどい戦場となる。それを加味した上での決断である。
「さてと…。」
「全く…痛いったら無いですね。」
よろめきながら立ち上がったムスカスはそう言った。そんな様子を眺めながら、ケイスケは気配探知を回す。戦闘は既に始まっているようだった。直後、壁をぶち破って飛んできたのは、一人の男である。仮面をつけている様からして奴らの仲間だろう。
「1人目…。」
ケイスケは静かに呟く。壁の向こうにはフレアが覗いている。
「こっちは任せな?」
扉の向こうには、ケイスケの記憶した魔族の気配ともう一人、人間の気配があった。フレアとネリウムなら大丈夫だろうと返事をする。
「了解ですよ。」
そうして再び、ケイスケはソイツに視線を向けた。
「ハチャメチャですね…あなた達って言うのは。」
「掴み所がねぇな…。」
「そもそも、なぜそんなにも君は殺気立っているんです?」
「テメェの知った話じゃ無いだろ。」
そう呟くと。ムスカスに浮遊の魔法をかける。
「ぐっ…ぁ…!!」
「まあ、とりあえずこっちに来い。ぶちのめせねぇだろ?」
「は、はぁ…いい、君の怒りと言うもの…それもまた気になる…あ゛がっ…!」
「テメェ気は確かか?」
その一言と共にそいつを外に放り投げる。
『ここは市街地だ…派手なのは使えない…。』
そう判断すると、ケイスケは窓から奴の下へ飛び降りる。ふわりと着地し、奴に向かう。
「ハチャメチャだなぁ…君って人間は。」
ムスカスはそう言い、奴の回りには黒い霧が漂い始める。
「行かせるか。」
辛うじて、立ち上がろうとするムスカスの頭部に下向きの重圧。
「は、反則でしょう…。」
そのまま地面を引きずり、こちらに引き寄せる。地面にはひび割れができ、その重圧を物語る。ケイスケの眼前まで引きずられたそれは、次に無理やり起き上がらせられる。先の攻撃で仮面が割れたらしく、目元だけ露になる。
「…!」
その目元には、魔族の証である結晶があった。
「…殺さないんですか?」
「殺すさ。だが、聞かなければならないこともあるからな。」
「ほう…ならあなたのほうが先に死ぬことになりますよ?」
「その体で何が─────。」
「バン!!!」
ケイスケの脳天を指差し、ムスカスはそう叫ぶ。だが、なにも起こらない。ただの沈黙だけ。
「ふざけるのもいい加減にしろよ…。」
「ふざけるなんてそんなそんな。私はいつだって一生懸命ですよ。今だってほら─────。」
直後、ケイスケの右太ももに激痛が走った。見てみればそこには黒い刃が突き刺さっている。
『これは…こいつの攻撃!?』
「意識を逸らすのだって、戦いですよ?」
「チッ…。」
舌打ちをして、そいつを後方に投げ飛ばす。至近距離からの斬撃。喰らえば死は確実。だが、ムスカスはあえて太股を狙った。つまり、意識してさえいればケイスケにとっては避けることは可能である。
「厄介だな。」
「私のセリフですよ。それ。」
血の滴る傷口を、手早く塞ぎ奴を捕らえる方法を思案する。何より厄介なのがあの空間移動。あの黒い霧の空間移動を使われれば、ケイスケの索敵範囲からは一瞬で逃れられてしまう。だが、タイムラグも存在する。注意さえしておけば取り逃すことはないだろう。
問題は、あの黒い刃である。発動条件がわからない。が、少なくともこの距離であれば発動はない。
『もう少し観察が必要か?いや、そんな猶予のある敵じゃない。』
「殺すなら…簡単だったんだろうな。」
そんな風に呟く。
「あなた…理性のタガ残ってます?」
そんな独り言にムスカスはそう返す。
「さあな…。」
「若干17、8の人間じゃないですね…あなたいったい、何者なんです?」
「ちょっとした魔法使いだよ…。」
そう言うと、ケイスケは手を前方につき出す。見慣れたあの魔法陣を展開する。
「え?ここ市街地ですよ?」
「知ってるよ。」
「あなた…このままここを私ごと吹き飛ばす気ですか?」
「テメェは逃げればいいだろ?黒い霧で。もっとも、それができるのなら。」
今はムスカスにとって最大のチャンスである。ケイスケのこの魔法はその性質上、ラグが存在する。ムスカスはそれを何度も見たわけで、逃げるのであれば今である。が、それをしないと言うことは─────。
『こいつは私が逃げれないと思っている。』
「…疲弊を読んでのことですか?」
ケイスケの上空には巨大な魔法陣が形成された。あの槍が降る。
「まあ、あんだけ息巻いて刺したのが太股ってことはそう言うことだろう。」
「は、ハハ…だからってあなたは馬鹿げてる。」
「言い残すことはそれだけか?」
「ええ、あなたは本当に…。」
「堕ちろ─────。」
「馬鹿だ。」
直後、ムスカスの体を黒い霧が包もうとして。それよりも速くケイスケの魔法が作動した。上空の魔法陣は稼働をやめる。その代わりに、地面に落ちたのはムスカスの左腕であった。
「…ぁ。」
「はぁ…本当に…殺すなら楽だったんだがな。とりあえず落としたぞ。テメェの腕は。」
1つ息を吐き、ケイスケはそう答えた。
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