護衛依頼
「天瀬昨日の事件知ってるか?」
「突発ダンジョンのことでしょ?知ってる」
「丁度お前と別れた場所から少し離れた範囲が巻き込まれたらしいが、おまえ大丈夫だったか?」
「しっかり巻き込まれたわ」
「まじ?よく大学来ようと思ったな」
「単位を取るためさ」
「真面目だなぁ」
「あと家から近いし」
「それいいな。その事件であの坂目新芽がダンジョンを世界最速で攻略したらしいぞ」
「凄いなぁ〜。第四級の上位ダンジョンにしては早く脱出できた感じしたからなぁ」
「四時間とか化け物だろ。流石に第一級候補は格が違うな。しかも、エンドルームでは竜種も討伐したとか期待の新星はやる事のスケールがデカいな」
「脱出の魔法石がない中でよく挑む気になったよな」
「俺なら怖くて無理だな」
カフェテリアで食事をしていると、話は変わって二年生から始まる依頼体験の話に変わった。
「来週の護衛依頼の準備したか?」
「言っても殆ど大学側で準備されてるじゃん」
「第三級の奴らは自前のを用意するみたいだな」
「四級までは護衛依頼受けれないからな。緊張する」
「第二級の教員がいるから安心は安心だよな」
「三傑の2人は同じ学年だから失敗する方が難しいだろ」
「初めては楽な方がいいさ」
「それな」
「一週間前になるのが楽しみだな」
「護衛対象が誰か気になるな。例年だと有名人の護衛が多いよな」
「第二級の護衛を安くつけてもらえるから、人気で依頼も多かったりするからね」
「可愛い子がいいなぁ」
「あ〜、今日の戦闘訓練の前に来週の護衛対象について説明する」
「「「おぉぉおお!!」」」
週に二回ある戦闘訓練で、担当の佐々木教授が二年を集めてそういった。
「さて、ここですぐ言うのもいいが。今回は中々お前たちが驚く護衛対象に決まった。折角だから予想してもらおうか」
「女優さんですか!」
「違うなぁ。だが惜しい」
「お笑い芸人ですか!」
「違う」
「アイドルですか?」
「惜しい。似た感じだな」
「最近人気ですか?」
「そうだな。ウチの娘もよく聞いてる」
最近といえばジーナアイことアイちゃんか?最近よくテレビで見るし、歌もよく流れてるな。
「アイちゃんだ!」
「正解」
「うぉおおおお!!よっしゃ!」
「お前だけテンション高いな」
佐々木教授が前に並んでいた男子学生に苦笑いした。
「よく依頼来ましたね」
「うちの護衛体験は割と有名だからな。後は今は日本ツアーしてるだろ?」
「「確かに」」
「今回は護衛というよりも警備員として依頼を受けてもらう」
警備員は移動先の警備体制とか面倒な裏作業はなく、殆どが依頼先が決めた配置場所で警備するだけ。護衛と比べたら注意力と力さえあればある程度は仕事ができる。
コンサートか、都合いいな。
「てことは、何人かは警備対象にも会わない?」
気付いてしまった女子学生の呟きに、静まり返った。
「そうなる。ということでこの時間は一週間後の現場を想定した模擬戦の結果によって配置を決めたいと思う」
そう言った後、狩人科の学生の目が本気になった。
「スキルや使用武器についても狭い範囲では危険で使えないものは使用禁止だ」
補足説明で何人かは膝をついた。既に何人かは残酷な結果を知ったようだ。
教授の作戦に水を差すので言わないが、警備員なら警備対象と話すことなんて殆どない事実に気付いていないのかな?多分、専属の護衛は向こうでいる筈だから見る事しかできない可能性が高い。
この戦闘訓練を真面目にさせるために夢を見させるとは、策士だなぁ。意図的にしてるのも怖い。
その後、いつもより激し目の戦闘訓練はいつもの三傑の蔡恩鳴華と門崎資葉の2人が一位と二位、他は第三級と覚醒した第四級の何人かが上位に入った。
私は下位になってる。最初に友人の成林にあたっちゃって負けた。いやぁ、今晩の高級寿司楽しみだなあ。
次の講義は狩人科特有の特殊講義があり、そこで配置の確認をした。既に配置場所は順位別に決めてたのか随分早かった。
上位者はステージ前より少し離れた場所、真ん中くらいの学生は2階への配置、下位は歌声のギリギリ聞こえるらしい入場ゲートなどの外部との入り口になった。
補佐の教員は外部との入り口に多めに配置されるそう。私は関係者入り口になった。他よりも場所自体が丈夫かつセキュリティ高めだから一人だけらしい。必要なのかここ。
今晩の寿司屋の前で静かに泣く男の姿があったとかないとか…………。
狩人は大食いですからね。