タイムリミット
チャージ開始後二秒後、竜は即座に彼女へ肉弾。邪魔する事だけ考えているのか尻尾による薙ぎ払い。風圧で吹き飛ばされた彼女に追撃のブレスがノータイムで放たれた。
四秒後、全力で彼女の前に突っ込みブレスを無力化。
六秒後、ブレスが効かなかった事に疑問をもったのか今度はチャージしてのブレスを放った。
「しゃがめ!」
十四秒後、全身を超えるほどの範囲のブレスから彼女の前方ゼロ距離に立ちブレスを正面から受ける。
熱は無力化できたが、衝撃により身体のいくつかの箇所の骨が折れた。
二十秒後、竜は生存している2人を確認して原因を俺だと判断したのか、毒々しい枯れた花色をした炎により、鱗粉の様にこちら側に飛ばしてきた。
二十四秒後、彼女を効果範囲に納めて防いだ。その直後に竜が肉弾。
二十五秒後、緊急回避したが右手が粉砕された。肉だけ付いた状態でクソ痛い。想像よりも鱗粉の効果時間は短い。
三十秒後、竜の少しの思考時間を利用して扉まで駆け抜けた。エンドルームを繋ぐ扉は破壊が不可能とされている。利用しない手はない。大きさは二階建ての家と同じ程の高さがある。
五十秒後、扉をうまく使うことでブレスなど直接的な攻撃を防ぎ、時間稼ぎに成功。
五十二秒後、相手は上空からの攻撃に切り替えたが目標まであと少し。
五十四秒後、あの野郎とんでもない範囲に毒々しい鱗粉をばら撒きやがった。このタイミングで効果を実感するわけにいかない。彼女との距離に注意が必要。残り六秒。
五十六秒後、竜は急降下の勢いを乗せた尻尾による薙ぎ払いをした。全身で防御体勢を作って彼女を巻き込みながら地平線まで吹き飛ばされた。頭部以外の骨がやばい。彼女はレベルのお陰か衝撃だけで無傷。
「溜まりました」
体を動かせないが、空間が少し歪む程のエネルギーを生じている剣が眩く輝いている。その剣を構える彼女の姿が視界の端に映った。
六十秒後、竜は警戒しているのか上空に滞空している。
しかし、彼女はお構いなしに更に剣にエネルギを貯めていた。竜も危機感を感じたのか急いでブレスを限界まで溜め始めた。
これ討伐できても衝撃波で死にそうなんだが。
別の意味で戦慄していると両者は躊躇なくそれぞれの全力を放った。
「極煌!!」
その一撃は斬撃と呼べない光線となり竜に飛躍していく。ブレスを瞬時に消滅させて竜に流星が当たった。
「………さ……」
視覚とは裏腹に静寂が広がった空間は、映画のエンドロールを見ている感覚がした。ふと、上を見上げると水面が落ちていく様子が見えた。
「た……さ…!」
「田中さん!」
「っは?!」
やべ、死にかけてた。
その後は彼女のスキルによりあっさりと致命傷は全癒した。たった一分、それだけであの世に行きかけた。その時間以上戦った彼女の強さが実感できる。
けど、原因は彼女なんだよな。そう考えたらちょっと……、てか、第四級なのに第一級に対して一分も耐えれた俺凄くね?
大国の軍隊に裸で銃撃を奇跡的に回避し続けるより難しいことやったんだよ?俺が怖いわ〜。よくあの状態であれだけ動けたな。火事場の馬鹿力すげぇ。
自画自賛が止まらなかったが、思考にふけているといつの間にか現世に戻っていた。
元いた場所に戻されたのだろうか、彼女の姿は見えなかった。その代わり、周囲から「近づかないように!」という呼びかける声が遠くから聞こえてきた。
「早く帰りたいけど、検閲面倒くさいなぁ………」
しかも、明日大学あるし。取り調べとかめんど。奉仕活動はご遠慮したい。
「そういえば」
時計を見ると若干傷が付いていたが、時間は確認できた。ダンジョン発生から四時間しか経過してないのか。
世界記録更新かもなぁ〜関係ないけど。流石に一分活躍しただけで自慢は出来ないな。ここは大人しく功績を譲ってやろう。そうしよう。
「〜〜〜〜〜〜♪」
疲労後の謎のハイテンションのまま、鼻歌を歌いながらひっそりと包囲網を抜け出して帰宅した。被害者の救助で自衛隊の手掛かりきりだったのに救われた。
もしバレたら恥ずかしくて死ねる。
彼女がダンジョンから帰還すると既に自衛隊を中心とした救助部隊が出動していた。
「流石、対応が早いですね」
近くで指揮していた中年の男性に話しかけた。周囲も慌ただしくて気付いてなかったのか、彼女の存在に驚いていた。
「坂目くんがこれを?」
知り合いなのか指揮官は笑顔で握手すると、惨状が想像よりも軽微なことを質問していた。
「これが最善だと考えたので」
「……なるほど、民間人の救助感謝する」
そう言って彼女に頭を下げた。
「だが」
「わかってます。今度は命を大切にします」
「……それならいい」
彼女の無傷な姿から違和感のあるボロボロの服を視界の端に写し、彼女に咎める視線を指揮官は送ったが遮るように彼女は言った。
しかし、既に救助を手伝う彼女の姿を見て諦めの表情を浮かべていた。
「あ〜〜」
近くにいた恐らく知人の自衛官なのだろう、彼女の姿を確認し喜びの表情を浮かべた矢先、見るからな何かあったかわかる服装をみてすぐに臨時の指揮テントに連行した。
「しばらく休むこと。いいですか?」
「ほら、数一つないから平気だよ?」
「そのハレンチな服装でですか?」
「最近流行りのファッションさ」
「それなら今すぐに各企業に注意が必要ですね」
王子様な風貌からは想像できない膨れ顔で、無言の抵抗をする彼女を苦笑いしつつ他の女性団員に指示して更衣室に連れて行かせた。
「指揮官、止めなかったんですか?」
「止める暇もなく動き出したんだよ」
「全く変わりませんね」
「今回はそのお陰で多くの命が救われた」
「……その中に本人の命がないのは問題ですが」
「………仕方ないさ。出来るだけ大人の我々がそれを解消するために努力するしかない」
「そうですね。では、他の場所に生存者がいないか巡回してきます」
そう言って自衛官は去っていった。
「あれ?礼家さんは行ったんですか?」
「少尉は巡回に行った」
服装を変えた彼女は女性隊員に貰ったココアを飲みながらゆっくりしていた。
「そういえば、この災害に巻き込まれた方で田中さんは居ますか?」
ふと思い出したように質問した。
「一般人か?」
「いえ、狩人の方です。多分、三か四級くらいですね」
「……少し待て」
指揮官は目をしばらく瞑ると、救助者の田中が苗字の名前と特徴を読み始めた。
「ーーーと、計四名が条件を満たす。この4人がどうかしたか?」
「ん〜、目的の人じゃないですね」
「どんな人だ?探させよう」
「いいです。多分もう去った後だと思います。そんな感じの人でしたから」
楽しそうに話す彼女をみて興味を惹かれたのか、指揮官が話を聞くとつい彼女はエンドルームやその過程の話をしてしまった。個人的に重要な所は隠したが。
「ーーーそんな感じで協力して貰ったんです」
「……ほぉ。そんなことしたのか」
「あ」
浮かれて気づいてなかったのか、鋭い眼光をした指揮官を見て後悔した。
その後暫くは長い説教が始まった。途中で知人の少尉も合流して更に厳しさが増した。
「二度と馬鹿なことしないように」
「……すみませんでした」
「はぁ……二度としないよう」
「はい……」
「それにしても二級でもないのに竜に対して一分も時間稼ぎをするとは何者だ?」
「指揮官それは後でもいいでしょう?それよりもこの子が四級と言う相手を無理やり脱出道具が無い状態でエンドルームに同行させて、竜との戦闘に巻き込んだことが問題です」
「すみません」
「それはそうだな。彼女に同行してくれたその男性には感謝しなければならない」
「はい。今回の件は駄目ですが、本当に!駄目ですが、同行してくれたお陰で彼女は生きています。それに指揮官の考えている通り、貴重な人材を把握していないのは損失です。後ほど彼女の情報を元に情報部へ送りましょう」
「そうだな。アイツらは過激な部分があるから丁寧に探すように言っておこう」
そう言ってその場は解散となった。
「一体どんな人なんだろう?」
彼がした事は、零細企業に流れた新人に「一年でこの会社を大企業にしろ」とか言われて成功するぐらいの難易度です。