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ユィートネルムの唄を聴いて 第一部:紅の大地と白の唄  作者: 千賀 万彩記
第一部:紅の大地と白の唄

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17:この子のためにできること

「ほら、もう目をあけていいよ」


 ユタは術の札を剥がすと、ファートの肩をたたいた。


「わぁ」


 ファートは目の前の光景に声をあげたが、無表情のまま固まってしまう。

 彼の前には、こじんまりとした部屋が姿を現した。広くはないが手入れが行き届いており、イスやテーブル、ベッドなどの家具がしつらえてある。窓の向こうには、緑の庭が見えた。


「どうかな? これでずいぶん、過ごしやすくなると思うんだけど」

「過ごし、やすく?」

「うーん。冷たい書庫の床じゃなくて、暖かい布団で寝られるっていうこと、かな?」

「ふ、うん?」


 どうにも伝わっている気がしないが、ひとまずヨシとしよう。

 クルスからファートについて一任され、ユタは納得いかないまでも、早々に行動を起こした。まずはきちんと人並みの生活ができる環境を。ということで、ファートが軟禁されていた部屋の術をいじったのだ。


 本当は、封印術など解いて新しく部屋を用意したかったのだが、ユタが盛大に騒いだ結果、一部の神官たちにファートの存在が知れてしまったのだ。 

 そもそもファートのことは公表しようと考えていたが、周囲への伝わり方が悪かった。何しろ『禁忌』を体現したモノが、突如自らの国内に現れたのだ。彼らは喧々諤々、噂がいらぬ憶測を呼び、議論という名の責任転嫁合戦を繰り広げると、「ファートを利用しようとする派」と「彼の存在を恐れて一生軟禁しようとする派」に分かれて争いを始めてしまった。


 そんなこんなで、ユタはファートに部屋と生活を与えることには成功したものの、他の神官たちが簡単に近づけないよう、細工をするはめになったのだった。


 ファートに与えられたのは、元々軟禁されていた書庫 ―—これはファートが望んだためだ―— と、その隣の寝室と居室、そして小さな庭だった。


「本当なら、もっと自由に神殿内を動けるようにしてあげたかったんだけどね」


 ユタは肩を落としたが、ファートの安全にはかえられない。


「自由に、って?」

「ファートが自分の意志で、いつでもどこへでも好きなところに行ける、逆に行かないこともできる、ってことだよ」

「どこでも、好きなところ?」


 ファートは、意味を理解しているのかいないのか、首をかしげている。


「そうだね。私が外へ出かけるときは、できるだけ一緒に行こう。それなら誰も文句はないだろうし。……そうだファート、ちょっとこっちにおいで?」

「ん?」


 ユタはファートを庭に連れ出した。そして彼の後ろにまわって髪に触れる。


「この髪、伸びっぱなしでボサボサだ。梳かしてあげる」


 ファートは風呂と着替えは済ませていたが、伸びっぱなしの髪は、いたる方向へぴょんぴょん飛び跳ねていた。まるで鳥の巣だ。


「いい。髪、これで、いい」

「よくないよ。目にかかって前が見えにくいでしょ。それにせっかく綺麗な色なんだから。梳かして、ちょっと切ってそろえよう」

「え、ええ?」


 ユタは有無を言わさずファートを膝の上に座らせると、櫛で彼の髪を梳きはじめた。銀色の髪が陽に当たり、さらさらと白く流れていく。

 最初はむずがっていたファートも、しばらくすると落ち着いたようで、ユタに身をまかせておとなしく座っている。

 彼は細い声でつぶやいた。


「ねえ、ユィタ。ユィタの、身体って、あったかいんだね」


 膝から伝わってくるファートの体温がなんとも心苦しく、ユタは胸を詰まらせた。ファートの無表情の中に、ほのかに浮かび上がる感情が痛々しい。

 クルスはどうして、この少年を独りで閉じ込めていたのだろう。事情はあったのだろうが、どうしても納得がいかなかった。


 このままいけば遠からず、ムルトとの条約は実現できるだろう。

 柔らかい銀の髪をなでながら、ユタは考えた。


 これから自分は、ファートのために何ができるのだろう。



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