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復学試験2

 4階の教室、窓側の真ん中で両方の扉が閉まっていることを確認して、思考を始める。残り体力は8で、残り時間は……。そう頭で考えると、画面に時間が追加された。6分か。やはり、生物型ICが思考を読み取って反映をしているようだ。このままのペースで行くと1分に一発ずつ撃たれてもセーフだけどそう上手く行きそうにないよな。どうにか銃弾を抑える方法を考える必要があるか。

それにしても、どうしてあんなに射撃精度が高いんだ?無駄撃ちが一発もないのが気になって仕方ない。何かタネがあると考えるべきか?一体どんな……。

バンっ!バンっ!

「ぐっ!」

連続で2発、床から銃弾が飛んで来た。

「どうなってんだよ!」

喰らった痛みをどうにか大声で誤魔化してその教室から飛び出した。足音が聞こえていないことをもっと不審に思うべきだった!自身の不覚も反省しつつ、廊下で次に入る教室を選ぶ。

何処なら彼女にバレないのだろうか?どうすれば、彼女の銃撃をかわすことが出来るのだろうか?疑問を解決するため、思考を巡らせる。しかし、僕の思考を待つ気はないようだ。階段からは足音が聞こえてくる。

「くそっ!」

階段から遠く、一番奥の部屋へと入る。そこは図書室と書かれていた。両脇には本棚が設置されており、出入口の数は一つ。この状況を打開するなら、真っ正面で彼女を迎え撃つしかない。それで銃を奪う。

それしか……。それしか……ない……のか?


 校庭でタブレット端末を未知子は見つめていた。

「うーん、やっぱり記憶喪失ってのが痛かったかな。それに相手が小梅ちゃんだし」

スクリーンには吉備斗が図書室で何かをしている映像が映し出されている。

「でも……期待しちゃう。見たいよ、元学年一位の実力が」


 図書室の扉前に立ち尽くす。扉にあったすりガラスから向こうに小梅がいることが分かった。少しずつ後ろに下がり、体を屈める。すりガラスに僕の姿は写っていないはずだ。さて、位置を敢えてバラしたが撃って来なかった。ここからだ、ここからが重要になってくる。扉の直線上から少し外れて立ち止まる。

バンっ!

「ぐっ!」

銃弾が扉を貫通して胸に当たった。痛いが、これでいい。

「謎は解けたか?」

図書室に入ってきた彼女はそう言った。酷く冷たい声、最初にあった印象とはまるで違う。

「さぁ……」

余裕ありげな顔をする。正直、あまり上手くいくような作戦ではない。

「お頭は健在で安心したよ。それにしても、随分パンパンな服を着ているんだな」

当たり前だ、お前が来る数秒で準備をしたんだから。彼女は本棚を確認して、数冊の空があることを確認する。そして、新しいマガジンを胸ポケットから取り出した。

「10発入ってたらどうしようかと思ったよ」

「噓だ。マガジンの交換が必要なことを分かっていただろう?」

「いや、賭けだった。胸元のそれがマガジンである確証はなかったし」

「そうか。であれば、さっきの発言を訂正しよう。お頭は馬鹿になっている」

「……」

彼女はどうやら前の僕をかなり知っているようだ。情報は揃いつつある。作戦としての成功率は低いが、謎解きに関してはかなりいい。

「残り時間も少ない。覚悟はいいか?」

「……。もちろん」

緊張感が走る。扉の前で銃を構える彼女と部屋の奥にいる無防備な僕の対決だ。

バンっ!

銃声が鳴った。肩に一発、痛みが走る。

「うっ!」

それでも、負けずに走り出す。

仮説1、彼女は人を視界に入れた状態で銃が撃てない。これは違うことが今、証明された。

「おらよ!」

ズボンに入れていた小さな本を投げる。

バンっ!

二発目の銃声、視界を遮るように投げた本を彼女は華麗にかわして僕の頭に銃弾をヒットさせる。

「ぐっ!」

仮説2、彼女は特殊なスキルを持っていて、銃弾を当てている。これも違う。であれば本を避ける必要がないし、扉前に僕が居た時に銃を撃っていないことの謎が解けない。

距離があと2歩程に近づく。

今までの情報を総合して仮説3、彼女は僕を熟知しており読みで銃弾を当てている。

「……」

彼女は銃を下へと向けた。僕はスライディングをする体制に入る。やはり、仮説3が正解か。扉の影に隠れることも、窓際の真ん中で僕が止まることも、彼女は読んでいて銃を撃っていたんだ。図書室の扉前で彼女が銃を撃つことがなかったのは、前の僕ならそんな馬鹿げたことをしないという読みがあったからだろう。

バンっ!

銃弾が僕の胸元へと当たる。

「うっ!」

スライディングを彼女は避けた。そして、扉へと僕は衝突する。

「チェックメイトだな」

彼女の呟きをよそに立ち上がり、銃を奪うように左手を動かす。彼女はそれを分かっていたように銃を遠くへと投げる。そして、後ろに手を回し何かを取り出した。

「仮説3より、銃を奪うことを予測して違う武器を持っている」

右手でぬいでいたジャケットは動かした左手による遠心力で、ひらりと彼女の視界を遮った。

「なっ!」

それと同時に素早く左手を引き抜く。ドサドサと音を立てて、胸元に入れていた二冊の本が床に落ちた。

「銃弾を防いでいたか……」

冷静な声が去り際に聞こえた。廊下に出て急いで階段を目指し走る。その最中、

「試験終了です。合格おめでとうございます」

そう頭に声が響いた。


 校舎の入口から彼女と並んで出ていく。外では未知子先生が手を叩きながらこちらへと向かって来ていた。

「もう!凄かったよ!やっぱり、元学年1位は伊達じゃないね!」

「えっ?」

「そうですね。吉備斗くんが変わってなくて安心しました」

元学年1位ってどういうことだ?いや、それより、この女……。

「作りご、うっ!」

作り声のことを言おうとしたら肘で牽制を喰らってしまった。

「何か言いました?」

「い、いや」

「あれ、なんか前と同じ雰囲気だね。記憶戻ったの?」

「え?戻ってないですけど。こんな感じだったんですか?」

「うん、そんな感じだったよ」

「そうですか……」

思わず二条の顔を見た。彼女は出会った時の笑顔で僕に応えると

文学武(ぶんがくぶ)、入りますよね?」

そう言った。

「え?」

「あー、武活動(ぶかつどう)もう決めちゃう?えっと、じゃあ明日までに手続きしとくね」

「いや、あ、え?」

僕の意見を聞くことなく未知子先生は嬉しそうにタブレット端末をいじり出す。よく分からないが、どうやら部活が決まったらしい。

「よし、じゃあ二人共寮に戻ろうか」

「はい」

「ええ」

怒涛の初日、こうして僕はこの謎が渦巻く学園島に戻って来たのだった。


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