学生寮とお隣さん家の三姉妹
やべえよやべえよ。武王武芸学級だって? サバイバル学校じゃなかったのか?
「あの、武王武芸学級ってひょっとして王族の集まりとかですか?」
「かつてはそうでした。魔物達を打ち破る必要がある王族の方が、高等な戦闘教育を受ける必要があるため設けられたのです。ですがそれから二千年以上経っていますので、王族の方々が直接戦場に出る時代ではありません。そのため武王の通称は形骸化して戦う才能がある生徒たちが集まっていますが、偶に武を尊ぶ王家の方が所属されるので、完全に違うとも言い切れません」
受付のおっちゃんに質問したらとんでもない答えが返ってきた。
これだからファンタジーのガバガバ思考は困るんだよ。魔物に対して王が率先して戦ってたとか旧石器時代の話だろ。
「どうぞこちらへ。高等教育学校寮へはこの馬車で向かいます。荷物の乗った馬車も後を付いてきますのでご安心ください」
受付で一番偉いっぽい中年のおっちゃんが手を一振りするとやはり馬もいないのに動きだした。
さて、どうぞと言われたなら俺が最初に馬車に入ろう。新選組が定めた、一番最初に危険な場所へ突入する死番制度の当番だからな。なにせ局長の俺一人だし。
馬車に入りーの。安全確認よし!
「お、お邪魔しまーす」
「はわわ……」
「すっごいなあ」
馬車に恐る恐る入って来るギャル。ふかふかクッションに恐れ戦いているはわわ。感心しながら内装を観察するオカン。
確信した。この三人は豪華なものに慣れてねえ。なら考えられることはそう多くない。小さな国の王族か、もしくは爪弾き者か。
「それでは出発します。道すがらになりますが、高等教育学校寮の基本的なことを説明させていただきます」
ここからは見えないが、馬なし馬車の御者台に座ったらしい受付のおっちゃんが出発を宣言した。なんというか、馬車の中にいる俺達に普通に声が届くとは、妙なところで魔法を使ってるな。
ところで初対面の女性三人と同じ馬車に詰め込まれた譲治君の感想を述べよ。
そして馬車が出発したようだが、中のカーテンが邪魔で外の様子を伺い知ることはできない。俺っち一人なら遠慮なく外を見るのだが、奥ゆかしいレディがいるからやめておこう。
「今からざっと二千年ほど前、とある王がご子息を厳しく鍛えたいと提案されました。そして幾つかの王家もそれに賛同された結果、当時のマナーテル創始者が極力使用人や華美な物を排除して、高等教育学校の生徒が共同生活する寮と制度を設けることになりました。しかしながらその……そのとある王家と創始者の厳しく鍛えるに随分と差があったようでして……」
ちょっと待ってくれおっちゃん。天丼は駄目だぞ。今二千年前に建設されたって言った?
そんでもって言葉を濁した感じから察するに、とある王家はなんちゃって的な厳しさを求めていたのに、創始者は昭和の野球部寮的なのを作っちゃったの?
推定三姉妹も、え? って感じで顔を見合わせてるんだけど。
「今現在の寮は十年前に建て替えられましたが、本当に最低限度の設備しかないため人気がなく、高等教育学校の生徒は殆ど共通学生寮で生活しています。ただ、最低限度と言っても必要な設備は完備されています」
なんだよおっちゃん。ビビらせないでくれ。築二千年じゃなくて十年なら、四畳くらいあったら十分生活できる俺には何の問題もないよ。
ただまあ、多くの高等教育学校生が共通学生寮を選ぶ気持ちは分かる。そっちの資料も城に飛んできていたが、よっぽど高級だったりマニアックな物でない限り、栄養も考えた世界中のありとあらゆる料理を作ってくれる使い魔たち。常に解放されているレクリエーション室。煌びやかな談話室が備え付けられているらしい。しかもそう大した金額が掛からず入寮できるときた。
だが、わびさびの精神を宿す譲治君には、そんなド派手な寮は合わない。質素倹約こそが武士の進むべき道なのだ。ですよね。心の徳川吉宗将軍。そして心の千利休師匠。
「男子生徒寮と女子生徒寮は隣接していますが、敷地一帯に異性を弾くための結界が張られているのでご注意ください。その上、防犯のための結界が登録されていない人間も弾くので、外から友人を招くこともできません。皆様は先程の照合とサインで登録されているので問題なく通ることができます」
色々危惧があるんですね。そう、有機的なことを含め色々と。
「到着しました」
それから暫く。どうやらわびさび茶の湯寮とやらに到着したらしい。
馬車のドアもまた勝手に開いたことだし、さーて、どんな素晴らしい寮なのか見てみるとしようか!
「ここが高等教育学校寮になります」
うん。おっちゃん、まさに説明してくれた通りの寮だね。
石造りの豆腐スタイルとは恐れ入った。
◆
寮を甘く見ていた。外見が豆腐スタイルなのだから、中身もひょっとしてと思いながら中に入ると、それに相応しいザ・殺風景。
玄関ホールは装飾なんて碌にない地味さで、部屋らしき扉が壁にあるだけときた。更にはその部屋の一つに、馬車に積んでいた荷物が空中に浮いて運ばれたが、他の部屋から気配を感じねえ。ひょっとして俺一人なのか……。
なにせ受付のおっちゃんから寮の中で説明を受けてる最中も、誰一人出くわさなかったからな。こりゃあ一国一城の主ってやつになったかもしれない。
だが完全に一人とは言い切れない。
『お食事はどうなさいますか?』
使用人の服を着た人間サイズの木製人形が俺に話しかけてくる。顔はつるつるなのにどうやって男とも女ともいえない声をだしてるんだよ。ってそれはいい。
「お任せ。と言いたいんだけど、この寮は自力で生活することを推奨していたはず。となると……失礼なこと聞くけど、味は二の次で栄養だけじゃない? ほら、美味しいものを食べたかったら自分で作れとかそんな感じで」
『いえ、通常の家庭料理程度の味になるよう設定されています。ただ、清掃などは必要最小限しか行いません』
なるほどね。まあ、王族に料理をした経験があるはずもなく、ようやく食えるようになるまで半年は見た方がいいだろう。それでも美味いものを食べたいなら自分で頑張れってことだな。しかし、声もそうだがどうやってつるつるフェイスで味覚が分かるんだよ。
「じゃあお任せで」
『分かりました』
「俺は外で小っちゃい石像を彫ってるから」
『はい?』
ふっ。意外と感情豊かじゃないか人形君。顔がないのにポカンとしたのがありありと分かったぞ。
◆
こんこんこん。かんかんかん。じゃりじゃりじゃり。
最後は念と一緒に。
オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ。
よし。完成! 一人二つだな!
では早速ご挨拶に行くぞ!
ダッシュで寮を飛び出し、向かうはお隣。
「ごめんくださーい!」
向こうも忙しいのは百も承知だが、女子寮の入り口に備え付けられている呼び出し用の鐘をガランガランと鳴らす。
「はーい!」
出てきたのは黄色の伽流だ。うっ!?陽キャオーラが眩しすぎて目が眩む! 完全に本心からだったらな。
「は、はーい」
続いて青いはわわ。
意味ないぞはわわ娘。小動物っぽさに対して、調子に乗る奴なのかどうかを見極めようとしても、俺っちが見てるのは内面だ。
「お待たせしましたー」
最後に赤いオカン系幼馴染。とても愛想がいい。商店街に行けば店主のおじちゃんおばちゃん達に可愛がられるだろう。そういう目的があろうとも。
っていうかよく見たら全員顔面偏差値ヤバいな! アイドルグループなんて目じゃねえくらいの美少女ぶり! しかも婦人服の上から分かるくらいスタイルがいい! これはトータル偏差値確実に100以上だ! 将来顔面偏差値大臣どころか顔面偏差値王族間違いなし!
「ご挨拶が遅れました。拙者、現在は単なる男児、譲治と申します。隣の男子寮でご厄介になっておりますので、どうぞよろしくお願いいたします」
一礼して挨拶をする。ご近所付き合いは村社会の鉄則だ。
「こちらこそご挨拶が遅れました。クロエ・ロムナです」
ほうほう。ギャルさんはクロエさんね。
「ル、ルーナ・ロムナです」
はわわさんはルーナさん。
「アメリア・ロムナです」
そしてオカン系はアメリアさん。
婦人服をちょこんと摘まんでご丁寧な挨拶をしてくれるお三方。名字が一緒だからやっぱり三姉妹なのね。
それにしてもロムナかあ。聞いたことがあるっていうかすっげえ有名なんだよなあ。三姉妹は一見するとなんでもない眼差しだけど、すっげえじっと見てくるし。
辺境に存在するロムナは栄誉と疑念、そして嫌悪に彩られた王家だ。
神話が色濃く残る時代、悪神と善神の勢力が直接対決したらしい。悪神の眷属である悪魔共と、善神の眷属であったエルフやドワーフと言った種族を全てひっくるめた人という種も参戦した。
だが、いつの世も変わり種はいる。善神側の存在なのに裏切って悪神に付いた奴もいれば、なんとその逆もいた。
しかも悪神から善神側に付いた者の中には、闇の勢力のトップ十位に入るような偉大なる悪の神がいたのだ。
うちの城にある歴史書にすら、その偉大なる悪神がなにを思って裏切ったのか明確に記されていない。ただ……俺の爺さんとかに言わせたら、なんの面白みもない悪神の破滅願望と善神のお題目より、人という種の面倒くささと馬鹿さ、そして輝きに惹かれたんだろうといったところか。
そんな偉大なる悪神は、更にぶったまげることに人間との間に子を儲けた。これがロムナ王家の祖である。
しかしながら、多分善神も分かっていたのだろう。その偉大なる悪神が自分達に味方をしたのではなく、あくまで愚かな人間を見続けるために裏切ったのだと。
だからロムナ王家はいまいちすっきりこない立場だ。一応、神話の戦いでパワーバランスに大きな影響を与えた立役者が祖であるため栄誉はある。しかし、完全に、そして間違いなく善神の味方とも言い難い。
更にはこの偉大なる悪神、生物的な外骨格の持ち主として描かれていることが多い。つまり、そんな血筋のところへ子供をやれるかと思われ、婿と嫁探しにくっそ苦労しているらしい。母親違いの三姉妹かと思ったけど、全く似ていない三つ子かもなあ。
はっ!? 俺は現実に戻った! この間僅か一秒!
「これはご丁寧にありがとうございます」
やべえよやべえよ。単に一礼を返しただけなのに、ロムナさん家の三姉妹からすっげえガン見されてるよ。
「ロムナのことについてはご存じでしょうか?」
オカン系幼馴染ことアメリア殿がぶっこんできたでござる! 探りどころかど真ん中ストレート!
「存じております。まあ、拙者の血も八分の一が似たようなモノなのでそれなりですが」
「え?」
首を傾げるクロエ殿。
「は、はい?」
ポカンとするルーナ殿。
「八分の一?」
聞き返してくるアメリア投手。
し、しまったあ!? 譲治選手、うっかり打ち返してホームラン! 引退試合をぶち壊してしまったかのような空気に! これにはひい爺ちゃんも失神KO!
だがうちの家系図はとんでもないことになってるから、何千年も前の悪神が祖だと言われてもそうですか以上の感想なんて出てこねえよ!
そっちはアトランティア世界十指の悪神でも、こっちのひい爺ちゃんは全次元を見渡しても三指に入る厄さの頑固汚れだからな! つまり俺の方が濃くてヤバイ。どうだ恐れ入ったか。
「それでは拙者、これにて失礼いたす!」
微妙な空気に居たたまれなくなったので、挨拶も終わったことだから退散することにした。
作った石像は……よし。ちゃんと三人にくっ付いているな。
諸横消滅。諸々の理不尽が消滅しますように。まともに生きてるんならまともな報いが返ってきていいじゃない。そうだろう天国、じゃなかった。地獄にいる爺ちゃん。別に死んでないけど。




