秘められた過去1 深山隼人
過激な性的発言、表現があります。
苦手な方は、読まないことをお奨めします。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
「君、理事長の息子だよね?一度話してみたかったんだ」
また来た。理事長の息子である俺に、媚びを売ろうとしている人間だ。
「俺は山本史也。友達になろうよ」
ぐいぐい来るな、こいつ。面倒だ。
「人違いです」
「何?論文?損益計算書見てんの?」
何だ、人の話を聞かないタイプか?一番嫌いなタイプだな。
身を乗り出して、机の上に広げたものを見てくる。本当にデリカシーもパーソナルゾーンも無視してくる奴だな。
「へぇ~、この学校のやつじゃん、良く貸してくれたね。でもこれ…」
「え?」
「ここの数字、おかしくない?」
史也のこの一言で、俺は親父の悪事に気付くことができた。俺だけでは、気付かなかっただろう。
そして俺は、親父の抑圧から自由になることができた。史也には借りができたわけだ。
自由になって初めにしたことは、友達作りだった。今まで、理事長の息子ということで、媚びを売ろうと近づいてくる人間はたくさんいたが、親父の言いつけで、関わることは許されていなかった。
しかしやっと、このおいしい立場が活用できる機会が来たのだ。
俺は寄ってくる人間を値踏みし、利用価値のある人間を取り込んでいった。悪いことをやるのが楽しくて、色々やった。
悪事をしていると、ふと思う。もしかしたら、親父も悪事が楽しくて、黒いことに手を染めたのだろうか?だとしたら、結局俺は親父に似ているんだろうな。
女もたくさん寄ってきた。自分で言うのも何だが、容姿はいい。表向きの性格もいい。これでモテないわけがない。
そのうち、取り巻きの一人が、女をとっかえひっかえで羨ましいと、俺に直接愚痴ってきた。「じゃあ、譲ろうか?」と、当時付きまとってきていた女を一人くれてやった。そいつは手を上げて喜んだ。
次の日、俺は譲った女に非難された。意味が分からない。俺の所有物なんだから、人にあげるのだって自由じゃないのか?
めんどくさくなった俺は、女を、より消耗品と考えるようになった。
自らが優秀だから、アクセサリーとしての女は必要ない。じゃあ、何に使う?そう、性欲処理の道具だ。人間三大欲求である性欲を自由に解消できるのだ、健康的じゃないか。
そして仲間とも、そのシステムを共有した。俺一人で複数人を相手したり、一人の女を複数人で犯したり、無理やりなんてのもざらだった。
当たり前だが、問題は頻繁に起きた。その度に、親父に後処理をお願いした。
しかし、人の口に戸は立てられぬとは、よく言ったもので、悪い噂がぽつりぽつりと出てきた。それに合わせて、被害者の関係者まで首を突っ込んできたことがあった。
俺は、漏らした人間と、歯向かってきた関係者には制裁を加えた。親父も、自分のことをばらされるのが怖いのか、自らの威厳のためか、それらの人間を徹底的に叩き潰した。
そもため、俺が悪事をして上手くいかないと、大学から、いつの間にか人が消えていった。
「最近、お前の悪い噂が流れてるだろ?」
「あぁ、親父が後処理を失敗してるみたいだな」
「それでさ、面白いこと思いついたんだけど」
「なんだ?」
栄治が雑誌を取り出した。かなり古く、ボロボロで汚れている。
「何だよそのゴミは」
「ひでぇ!」
栄治は結構ショックを受けたようで、肩を落とした。
「それで、そのゴミがどうしたんだ?」
「まだ言うかよ~。これは、俺の子供の頃の宝物なんだぜ」
そう言って、雑誌をめくる。どうやら心霊系の雑誌のようだ。幽霊の噂とか、体験談が書かれている。子供向けの雑誌なのだろうか、平仮名とカタカナが多い。
「これ」
栄治の指した記事を見る。
「旧校舎のミズホさん」
「そうそれ」
「これが何?」
「この怪談って、俺が昔住んでた村のやつなんだよ」
「へぇ」
だから何だ。言いたいことが分からない。
「いなくなった奴ら、神隠しにしない?」
「え?お前何言ってんの?」
「この旧校舎のミズホさんって、ただの怪談じゃなくて、実際に何人も失踪してるんだ。十人くらいだったかな。当時は結構な騒ぎだったよ」
「もしかしてお前、その事件の時に村にいたのか?」
「そう。神隠しだ神隠しだって大騒ぎだったぜ」
言いたいことが分かってきた。つまり、新たに怪談話を広めることによって、いなくなった生徒を神隠しのせいにしてしまおうという算段だ。面白いことを考えたものだ。
「幽霊が出そうな場所で、あの山にある廃病院なんてどうだ?」
「いいね。採用」
名前はそうだな…。
俺は、これから後始末をしてもらおうとしていた人物の学生証のコピーを見た。
多田加奈子。これでいいや。
「廃病院のカナコさん、ってのはどうだ?」
「それっぽくていいじゃねぇか」
早速、仲間たちに広めてもらうことにした。そして、失踪者が説得力になり、噂は広まっていった。