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カーニバル  作者: キキカサラ
七月八日
19/21

7月10日 黒影山廃病院 松原結菜

 史也先輩の車で、肝試しの会場である廃病院の敷地に入った。

 辺りは暗くなってきており、夕日の橙が暗闇に飲まれ、光が地面を照らす面積が減ってゆく。

 逢魔が時とは、よく言ったもので、本当に妖が昼を飲み込むような、そんな狭間の空気がある。

 車が進んでゆくと、くだんの廃病院である、黒影山病院が見えてきた。思ったよりも綺麗な外観をしており、ぱっと見は、とても廃病院とは思えなかった。

 そして、病院は一階建てという、小さなものだった。


「へぇ、綺麗な病院なんですね。もっと、おどろおどろしいものを想像してましたよ」

「まあ、最近、廃病院になったばかりだからね」


 春花の問いに、史也先輩が答えた。

 最近?その言葉に違和感を覚えた。

 最近だったら、カナコさんは、どのタイミングで囁かれるようになったんだろう。私の中に疑問が過ぎる。

 でも同時に、怪談なんて、そんなもんだろうという、妙な納得もあった。

 更に車が進むと、病院の入り口が見えてきた。


「もう、みんな着いているみたいだね」


 史也先輩が呟いた。

 病院の前には、車が二台停まっていた。そして、四人の人影が見える。

 当初、先輩たち四人と聞いていたから、史也先輩がここにいることを考えると、一人多い。これは、どういうことだろう?


「春花、一人多いみたいなんだけど、どういうことなの?」

「わかんない…」


 小声で春花に確認するも、春花も覚えがないらしい。若干困惑している。まさか、先輩たちに一杯食わされたのかしら?男が増えるとか勘弁してよ。

 そう思い、史也先輩に目をやる。


「何で人数が多いんだ…」


 私たち以上に戸惑っていた。史也先輩も聞いていないってこと?

 いよいよ、分からなくなってきた。

 史也先輩が、既に停めてある車の横に付けると、エンジンを切った。


「さあ、着いたよ」


 さっきの焦っている様子を、私に見られているとも知らずに、冷静を装って言ってきた。


「ありがとうございました、史也先輩」

「ありがとうございます」


 春花が明るくお礼を言ったので、私も一応、お礼を言っておいた。

 そして、揃って車を降りる。史也先輩が降りるのを暫し待って、三人一緒に、集まっている人たちの所に向かった。


「え…七瀬さん?それに、沢渡さん?」


 意外な人物がそこにいた。何故この二人がいるのか、素直に疑問だった。


「美香でいいよ~」

「愛美でいいわよ」


 二人が笑顔で言ってくれた。

 私としたことが、昨日、徹君に呼び方に距離があると説いておきながら、私が距離感のある呼び方をしてしまった。反省だわ。


「私、二人が来るって聞いてなかったんだけど、どうしたの?」


 春花が質問をする。その間に他の人を確認する。

 隼人先輩と栄治先輩がいる。大輝先輩の姿は見当たらない。

 飛び入りの人がいる代わりに、本来いるはずの人間が足りない形だ。


「今日、肝試しの下見するって小耳に挟んだから、来ちゃった」


 美香さんが言う。可愛い。さすが美人、言葉の威力が違うわ。

 隼人先輩の方に目をやる。喜んでいるというよりも、困っているように見える。

 女性が増えたら喜ぶ人だと思っていたんだけど、そうではないんだろうか?

 私が、彼の性格を見誤っていたのかな。


「えー、女の子が増えたのは嬉しいよー」


 春花がはしゃいで、美香さんの手を取る。美香さんも無邪気に笑い、二人で手を取り合い上下に振っていた。

 二人の、あまりのテンションの高さに、つい顔が引きつってしまう。

視線を移すと、愛美さんも、私と同じ様な表情をしていた。


「い、愛美さん、よろしくね」

「え、ええ」


 お互いに、引きつった笑顔で言ってしまった。

 それだけ、春花と美香さんのテンションが高すぎるのだ。


「挨拶は済んだかな?」


 隼人先輩が顔を出した。心なしか疲れた顔をしている。

 この二人のテンションだ、分からないことはない。


「隼人先輩、ありがとうございます!女子が二人だけだったから、呼んでくれたんですね!」

「う、うん、そうだね」


 隼人先輩が弱々しく肯定した。

 肯定が嘘なのは分かる。彼の中でも、予期せぬ事態だったのだろう。そして、春花の勢いに圧されてしまっている。

 そもそも、春花が人の話を聞いていない。

 美香さんはさっき、小耳に挟んでと言っていたから、誘われていないことは明確だ。


「それで、これからどうするんですか、隼人先輩?」


 滅茶苦茶なテンションの二人に合わせていたら、話が進まないと思い、仕方なく私が話を進めることにし、隼人先輩に話を振った。

 隼人先輩は、一瞬面食らった顔をしていたが、私の意図を察すると、表情を明るくし、言葉を綴った。


「そうだね、実際の肝試しと同じ様に、男女ペアになって、病院内を探索してみようと思うよ」

「は?」


 信じられない言葉に、つい、強い口調が出てしまった。

 危なくないかどうかの確認なのに、何故わざわざ、少人数という危険な状態で、探索しなくてはいけないのだろう。

 私の中に、ふつふつと怒りの念が出てきた。


「危険かもしれない場所に、何で少人数で入らなくちゃいけないんですか?」


 つい、言葉が強くなる。隼人先輩の発言は、本当に意味が分からなかった。


「ああゴメン。実は既に、廃病院内は危険がないかどうか探索しておいたんだよ。後は、どの場所で驚かしたら効果的か、聞きたいだけだったんだよね」

 そういえば、春花がさっき、そんな様なことも言っていた気がする。


「何だかんだで、女性が多く集まったからね。本番さながらの状態で確認してみようよ」


 隼人先輩が嬉々として言った。でも、その話を聞くには、条件が合っていない気がした。


「男性が一人足りませんけど?」


 そう、女性は、私、春花、美香さん、愛美さんの四人に対して、男性は、隼人先輩、栄治先輩、史也先輩の三人しかいないのだ。


「大輝のことは置いといて、先に、ペアを作って、リハーサル兼意見回収をしようよ」


 言っていることは、理に適っている。

 加えて、私には、大輝先輩の件の他に、気になっていることがあった。


「隼人先輩」

「なにかな?」

「部に所属する、女性の大半がリハーサルに参加しては、当日の肝試しは何も面白くないと思うのですが、どうなのでしょうか?」


 少し嫌味ったらしく言ってやった。

 私のこの発言は真実で、今、廃病院に入ってしまっては、肝試し当日は、何も怖くない。

 しかし、私の言葉を受けても、隼人先輩は涼しい顔をしている。


「結菜ちゃん。そんなことを言ったら、男性も半数以上だよ」

「あ…」


 言われてみればそうだ。残りの男性部員は、徹君と竜司君の二人しかいない。


「それなら、尚更、やる必要ないんじゃないですか?」

「そんなことないよ。驚かす仕掛けを知るのは、三年生の四人しかいないから、例え、結菜ちゃんたちが病院内の間取りを知ったとしても、驚かされるポイントは分からないでしょ?」

「まあ、確かに…」

「つまり、当日、十分、結菜ちゃんたちも楽しめるって訳さ」


 私は何も言えなくなってしまった。正論過ぎる。ぐうの音も出ない。


「じゃあ、納得してくれたところで、ペアを決めよう。栄治ー」


 呼ばれた栄治先輩が、割り箸の刺さった筒を二つ持ってきた。用意がいい。

 日も落ち、辺りは暗くなったため、ランタン型のライトも手に持っていた。


「肝試し当日のペア決めで使うものだよ。割り箸にペアになる数字が書いてあるんだ。数字が同じ人がペアね。女性はこっちを引いてね」


 筒の片方を渡された。


「入る順番は、数字順なんだけど、今、男は一人足りないから、ペアになれなかった数字の人は、自動的に最後だね。まあ、それまでに大輝が来れば話は別だけどね」

「大輝先輩、連絡取れないんですか?」


 愛美さんが訝しげに訊いた。確かに、待たないでこちらから連絡をすれば解決する話だ。


「それが、さっきから電話してるんだけど、繋がらないんだよね」


 何かあったのだろうか?


「まあ、着信は鬼の様に入れてやったから、気付いたら、飛んでくると思うよ」


 隼人先輩は笑って言った。この状況、彼らにとっては日常的なもので、大輝先輩は常習犯なのだろうか?


「さあ、くじを引いて、僕たちも引くから」


 促されるまま、男女それぞれの筒から、割り箸を引き抜く。


「四番か」

「じゃあ、僕とベアだね」


 声の主を見て、嫌そうな顔をするのを、必死に我慢する。

 よりにもよって史也先輩だ。一番組みたくなかった。

 周りを見渡す。

 一番を引いたのは、春花と栄治先輩。二番は美香さんと隼人先輩。三番が愛美さんだった。

 つまり、先程の隼人先輩の説明だと、愛美さんが一人の番号のため、大輝先輩が来ない限り、私が三番目に行くことになる。


「じゃあ、ペアも決まったことだし、早速行こうか」


 隼人先輩が割り箸を回収し、懐中電灯を栄治先輩に渡した。


「トップバッターは俺たちだな」

「ですね」


 栄治先輩と春花が、顔を合わせて頷いた。

 春花の相手が史也先輩じゃなくて良かったと、心から思う。それに、栄治先輩は、今いる三人の中では、一番無害そうだ。

 一つの懐中電灯の明かりを頼りに、二人は並んで病院に入って行った。


「隼人先輩と組めて嬉しいです~」


 美香さんが隼人先輩に抱き付いている。何て大胆なの。

 やっぱり、美香さんみたいな美人でも、好みの男性はイケメンなのかしら?


「美香ちゃん、落ち着きなさい」

「は~い」


 愛美さんが、美香さんを諫めた。


「あっちは盛り上がってるね~。僕たちも抱き合う?」

「やめてください、気持ち悪い」


 咄嗟に毒づいてしまった。

 しまった、場の空気を悪くしまっただろうか。


「ごめんね、そうだよね~」


 しかし、史也先輩は気にしている様子はなく、いつものニヤケ面をしている。

 その顔に嫌悪感を覚える。やっぱり、この人は生理的に受け付けない。

 顔を見ていたくなくて、視線を逸らす。


「え…?」


 逸らして、気付いた。

 病院の電気が点いている!?


 病院の左端の部屋に、明かりが灯っていた。

 廃病院なのだから、電気が通っているはずがない。

 目の前の光景が信じられなかった。

 そして、更に信じられないことに、その部屋に、人影が現れた。


「もしかして…」


 脳裏に過ぎる噂話。



 時折、廃病院に明かりが点いてる。

 そして人影が見える。

 しかし、その人影に興味を持ってはいけない。

 興味を持って、人影が誰なのかを確認したら最後。

 カナコさんに見つかり、神隠しに遭ってしまう。



「え?」


 急に、隼人先輩が走り出し、我に返った。彼は、全力で病院内に飛び込んでいく。

 カナコさんの正体を確かめようというの?

 いや待って、カナコさんの噂が本当だとしたら…。


「春花!」


 春花が先に行っている。何かしらの被害に遭っていても不思議ではない。

 慌てて、隼人先輩の後を追おうとする。


「うひゃ!」


 走り出そうとしたところに、腕を引っ張られ、変な声が出る。

 私を掴む手の主を確認すると、史也先輩だった。

 この男、私の癪に障ることばかりをする。


「何するんだ、離せ!」


 あまりの怒りに、つい、男っぽい口調になってしまった。


「危ないよ、結菜ちゃん。ここは隼人に任せようよ」


 冷静な物言いに、余計に腹が立った。

 その刹那、先程まで点いていた明かりが消えた。

 これはいよいよ、春花に何かあった可能性が高い。


「大事な友達が中にいるのに、人任せにできるわけないでしょう!」


 私は力いっぱい腕を引っ張り、史也先輩の手を振り解いた。

 そして、全力で病院に走る。

 先程まで明かりのあったところにいたため、目が暗闇に慣れていない。


「痛い!」


 案の定、何かに足を取られ、盛大に転んだ。

 引っかかった感触から、待合室の椅子だろうか?

 闇雲に動くのは危険だ。

 四つん這いの姿勢のまま、床を手で触りながら安全を確認し、壁まで手探りで進む。

 そして、壁を手伝いながら、立ち上がった。


「そうだ、スマホ!」


 さっきまでパニックになっていたから分かっていなかったけれど、スマホにはライトがあったんだった。

 照明モードにして、前を照らす。

 外観もそうだったが、病院内も廃病院とは思えない程、綺麗だった。

 そういえばさっき、隼人先輩が事前に三年生で下見をしたって言っていたから、その時に片づけたのだろうか?

 目の前には、長椅子が並べられていた。そして、その正面に受付らしきカウンターがある。カウンターから長椅子を抜けると、正面玄関だ。

 つまり、正面玄関から入ると、待合の人の先に、カウンターが見える形になる。

 周りをぐるりと照らしてみる。

 カウンターから左右に通路が伸びている。加えて、カウンター横からも奥に向かって通路が伸びている。このロビーから、診察室、各病室に行ける形なのだろう。

 ということは、ここは待合室であり、ホールとなるわけだ。

 外観から察するに、左右に長い作りなのだろう。

 通路はどこも長く、スマホ程度の明かりでは、奥まで照らすことは出来ない。


「一階建てだったし、病院にしては変わった作りよね…」


 独り言を呟いてしまった。静まり返った病院の闇が、私の声を飲み込んでゆく。

 そうだ、春花を探さなくてはいけない。

 暗闇の病院という、非日常な空間に、変に冷静になってしまい、つい目的を忘れて見入ってしまっていた。

 さっき明かりが点いていたのは、正面から見て左端の部屋だった。

 つまり、カウンターを正面に、左に伸びている通路の先の部屋だ。


「ひっ!」


 カウンターから左の通路に光を移動した際、奥に向かう通路に人影が消えていった気がした。

 突然のことに驚いて、引きつった声が出てしまう。


「春花…?」


 明かりを前方に向け、ゆっくりと奥の通路に向かう。

 私の場所からは、受付からの死角となっている。待ち伏せされていても、こちらからは見えない。

 でも、ずっと様子見をしているわけにもいかない。

 意を決して、一気に体を乗り出し、通路を照らす。


「誰もいない…」


 そこは静まり返っており、何の気配もなかった。

 気のせいだったのかしら…。

 でも、もし人影が春花だったらどうしよう。選択を迫られる。

 私は左を向き、目当ての部屋がある通路を照らした。

 先程と同じ様に、誰の気配も感じられない。

 今の状況から考えると、見たかも定かじゃない人影より、可能性があるのは、先程明かりが点いていた部屋だ。


「急がなくちゃ」


 病院の闇に、少なからず恐怖を感じていたのだろう。

 慎重になりすぎて、時間を食い過ぎた。私は弱くも、唯一の明かりを頼りに、問題の部屋に走った。

 目的の部屋に着くなり、引き戸を思い切り引いて、開ける。


「春花!」


 直ぐに室内を照らす。しかし、そこも何の気配もなかった。

 念のため、室内をくまなく照らしながら歩いてみる。

 ベッドが四つ置いてある。どうやら病室の様だ。

 広い範囲の捜索ではないため、誰もいないことは明白だった。

 隠れられそうなところも、せいぜいベッドの下くらいだ。しかし、そこにも人影はなかった。


 もしかしたら、明かりの点いていた病室を、私が勘違いしているだけで、この部屋ではないのかもしれない。

 一人ではどうにもならない、ここは一度戻って、愛美さんたちにも捜索を手伝ってもらおう。


「結菜ちゃん?」

「きゃあああ!」


 突然背後から声を掛けられて、柄にもなく、女性的な悲鳴を上げて、転んでしまった。


「だ、大丈夫?」


 声の主は隼人先輩だった。

 懐中電灯で照らしながら、手を差し伸べてくれる。

 私はその手を借り、起き上がった。

 そうだ、私よりも先に、隼人先輩が病院に入っていたのだった。


「隼人先輩、先に一人で行っちゃうんですもの」

「ごめん、中に入った二人が心配で、気持ちより先に体が動いてたよ」


 だとしたら、さっき見た人影も隼人先輩かもしれない。

 なら、既に隼人先輩が、春花を見つけてくれている可能性はある。


「春花は見つかりましたか?」


 隼人先輩は暗い表情になり、首を左右に振った。


「入れるところを全部見てみたけど、二人は見つからなかったよ」

「そんな…」


 私は目の前が真っ暗になった。


「結菜ちゃんは、僕よりも後に入ってきたんでしょ?」

「はい…」

「この小さな病院で、時間差で二人入ったのだから、誰かいたら遭遇しているはず。しかも僕の場合、全ての病室を見て回ったしね」

「春花どこに…」


 血の気が引いていくのを感じた。

 私が付いていながら、春花を危険な目に遭わせてしまった。

 全身の力が抜け、ベッドに座り込んでしまった。


 ――カラン…。


 金属音が室内に響く。

 私の手に、無機質なものが当たり、それが音を立てたのだ。

 見ると、ベッドのパイプに手錠が引っかかっていた。


「何で手錠が…?」


 病院には不釣り合いなものが、そこにはあった。


「隼人?」


 病室の入り口からライトで照らされ、手錠が怪しく光る。

 私はライトの主を見た。光で見えなかったが、その人物が光を下げることで、姿が分かった。史也先輩だ。

 よく見ると、その背後には、美香さんと愛美さんの姿もあった。

 つまり、この病室に全員が集合したことになる。


「そうだ、スマホ!」


 見つからないのなら、こちらから連絡をすればいいのだ。

 何で今まで気づかなかったのだろう。

 早速、私は春花のスマホに電話した。


「お掛けになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため…」


 聞き覚えのある電子音声が流れてきた。

 手は尽きた。


「帰ろう」

「え?」


 隼人先輩の言葉に、耳を疑った。


「春花を置いて帰るんですか?」


 怒りとも、悲しみとも取れない感情に、声が震える。


「冷静に考えて、結菜ちゃん。今、僕たちにできることは何もないんだよ。病院内に人影はなかった。それだけが事実としてあるだけなんだよ」

「でも、見落としが…」

「僕が確実に見て回った。それに、こんな暗い中だよ、残りの人に何か危険が及ぶ可能性がある。それは、部長として見過ごせないよ」


 私の言葉を遮る様に、隼人先輩がまくし立てた。

 言っていることは分かる。でも納得ができない。本当に私にできることは、もうないのだろうか。


「この肝試しは、部の悪い噂を払拭するために僕が企画したもの。だから、責任は僕にある。そして、当然このまま終わらせるわけがないよ」


 隼人先輩は優しくゆっくりと、言い聞かせるように私に話した。


「警察へは、僕が連絡しておく。そして、明日の朝、もう一度探しに来よう」

「明るいところで探した方が、見逃しもないでしょ」


 隼人先輩の言葉に、史也先輩が続けた。


「それに、消えたのは、春花ちゃんだけじゃないんだよ」


 言われてハッとした。そうだ、栄治先輩の姿もないんだった。

 今まで、春花のことしか頭になかった。私は何て薄情な人間なのだろう。


「今回の件が、怪談的なものなのか、事件的なものなのかは、まだ分からないけど、もし、栄治と春花ちゃんが一緒に消えているとしたら、まだ栄治がいるだけ安心だと思う」


 確かに、女一人よりかは、幾分マシではある。


「それにね…」


 隼人先輩の目が鋭くなる。


「僕だって、冷静を装っているけど、内心穏やかではないんだよ」


 確かに、私と隼人先輩は、友人が消えてしまったという点では、同じ状況なのである。

 私と同じ気持ちなのは当然だ。


「ごめんなさい」


 隼人先輩の心中を察し、素直に謝った。


「冷静になってもらえて良かったよ」


 表情を崩し、穏やかに言った。


「じゃあ、明日、捜索しよう。みんなは、どうする?」

「春花さんが心配なんで、勿論来ます!」


 美香さんが元気に答えた。その回答が嬉しくて、つい涙ぐんでしまう。


「じゃあ、みんな、明日の朝八時に、病院前に集合だよ」


 みんなが頷く。


「結菜ちゃんは、史也に送らせるよ。こんな状況なんだ、疲れたでしょ。ゆっくり休んで明日に備えて」


 私は無言で頷き、立ち上がった。

 春花、絶対に見付けるから、少しの間だけ待ってて。

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