7月10日 黒影山廃病院 松原結菜
史也先輩の車で、肝試しの会場である廃病院の敷地に入った。
辺りは暗くなってきており、夕日の橙が暗闇に飲まれ、光が地面を照らす面積が減ってゆく。
逢魔が時とは、よく言ったもので、本当に妖が昼を飲み込むような、そんな狭間の空気がある。
車が進んでゆくと、くだんの廃病院である、黒影山病院が見えてきた。思ったよりも綺麗な外観をしており、ぱっと見は、とても廃病院とは思えなかった。
そして、病院は一階建てという、小さなものだった。
「へぇ、綺麗な病院なんですね。もっと、おどろおどろしいものを想像してましたよ」
「まあ、最近、廃病院になったばかりだからね」
春花の問いに、史也先輩が答えた。
最近?その言葉に違和感を覚えた。
最近だったら、カナコさんは、どのタイミングで囁かれるようになったんだろう。私の中に疑問が過ぎる。
でも同時に、怪談なんて、そんなもんだろうという、妙な納得もあった。
更に車が進むと、病院の入り口が見えてきた。
「もう、みんな着いているみたいだね」
史也先輩が呟いた。
病院の前には、車が二台停まっていた。そして、四人の人影が見える。
当初、先輩たち四人と聞いていたから、史也先輩がここにいることを考えると、一人多い。これは、どういうことだろう?
「春花、一人多いみたいなんだけど、どういうことなの?」
「わかんない…」
小声で春花に確認するも、春花も覚えがないらしい。若干困惑している。まさか、先輩たちに一杯食わされたのかしら?男が増えるとか勘弁してよ。
そう思い、史也先輩に目をやる。
「何で人数が多いんだ…」
私たち以上に戸惑っていた。史也先輩も聞いていないってこと?
いよいよ、分からなくなってきた。
史也先輩が、既に停めてある車の横に付けると、エンジンを切った。
「さあ、着いたよ」
さっきの焦っている様子を、私に見られているとも知らずに、冷静を装って言ってきた。
「ありがとうございました、史也先輩」
「ありがとうございます」
春花が明るくお礼を言ったので、私も一応、お礼を言っておいた。
そして、揃って車を降りる。史也先輩が降りるのを暫し待って、三人一緒に、集まっている人たちの所に向かった。
「え…七瀬さん?それに、沢渡さん?」
意外な人物がそこにいた。何故この二人がいるのか、素直に疑問だった。
「美香でいいよ~」
「愛美でいいわよ」
二人が笑顔で言ってくれた。
私としたことが、昨日、徹君に呼び方に距離があると説いておきながら、私が距離感のある呼び方をしてしまった。反省だわ。
「私、二人が来るって聞いてなかったんだけど、どうしたの?」
春花が質問をする。その間に他の人を確認する。
隼人先輩と栄治先輩がいる。大輝先輩の姿は見当たらない。
飛び入りの人がいる代わりに、本来いるはずの人間が足りない形だ。
「今日、肝試しの下見するって小耳に挟んだから、来ちゃった」
美香さんが言う。可愛い。さすが美人、言葉の威力が違うわ。
隼人先輩の方に目をやる。喜んでいるというよりも、困っているように見える。
女性が増えたら喜ぶ人だと思っていたんだけど、そうではないんだろうか?
私が、彼の性格を見誤っていたのかな。
「えー、女の子が増えたのは嬉しいよー」
春花がはしゃいで、美香さんの手を取る。美香さんも無邪気に笑い、二人で手を取り合い上下に振っていた。
二人の、あまりのテンションの高さに、つい顔が引きつってしまう。
視線を移すと、愛美さんも、私と同じ様な表情をしていた。
「い、愛美さん、よろしくね」
「え、ええ」
お互いに、引きつった笑顔で言ってしまった。
それだけ、春花と美香さんのテンションが高すぎるのだ。
「挨拶は済んだかな?」
隼人先輩が顔を出した。心なしか疲れた顔をしている。
この二人のテンションだ、分からないことはない。
「隼人先輩、ありがとうございます!女子が二人だけだったから、呼んでくれたんですね!」
「う、うん、そうだね」
隼人先輩が弱々しく肯定した。
肯定が嘘なのは分かる。彼の中でも、予期せぬ事態だったのだろう。そして、春花の勢いに圧されてしまっている。
そもそも、春花が人の話を聞いていない。
美香さんはさっき、小耳に挟んでと言っていたから、誘われていないことは明確だ。
「それで、これからどうするんですか、隼人先輩?」
滅茶苦茶なテンションの二人に合わせていたら、話が進まないと思い、仕方なく私が話を進めることにし、隼人先輩に話を振った。
隼人先輩は、一瞬面食らった顔をしていたが、私の意図を察すると、表情を明るくし、言葉を綴った。
「そうだね、実際の肝試しと同じ様に、男女ペアになって、病院内を探索してみようと思うよ」
「は?」
信じられない言葉に、つい、強い口調が出てしまった。
危なくないかどうかの確認なのに、何故わざわざ、少人数という危険な状態で、探索しなくてはいけないのだろう。
私の中に、ふつふつと怒りの念が出てきた。
「危険かもしれない場所に、何で少人数で入らなくちゃいけないんですか?」
つい、言葉が強くなる。隼人先輩の発言は、本当に意味が分からなかった。
「ああゴメン。実は既に、廃病院内は危険がないかどうか探索しておいたんだよ。後は、どの場所で驚かしたら効果的か、聞きたいだけだったんだよね」
そういえば、春花がさっき、そんな様なことも言っていた気がする。
「何だかんだで、女性が多く集まったからね。本番さながらの状態で確認してみようよ」
隼人先輩が嬉々として言った。でも、その話を聞くには、条件が合っていない気がした。
「男性が一人足りませんけど?」
そう、女性は、私、春花、美香さん、愛美さんの四人に対して、男性は、隼人先輩、栄治先輩、史也先輩の三人しかいないのだ。
「大輝のことは置いといて、先に、ペアを作って、リハーサル兼意見回収をしようよ」
言っていることは、理に適っている。
加えて、私には、大輝先輩の件の他に、気になっていることがあった。
「隼人先輩」
「なにかな?」
「部に所属する、女性の大半がリハーサルに参加しては、当日の肝試しは何も面白くないと思うのですが、どうなのでしょうか?」
少し嫌味ったらしく言ってやった。
私のこの発言は真実で、今、廃病院に入ってしまっては、肝試し当日は、何も怖くない。
しかし、私の言葉を受けても、隼人先輩は涼しい顔をしている。
「結菜ちゃん。そんなことを言ったら、男性も半数以上だよ」
「あ…」
言われてみればそうだ。残りの男性部員は、徹君と竜司君の二人しかいない。
「それなら、尚更、やる必要ないんじゃないですか?」
「そんなことないよ。驚かす仕掛けを知るのは、三年生の四人しかいないから、例え、結菜ちゃんたちが病院内の間取りを知ったとしても、驚かされるポイントは分からないでしょ?」
「まあ、確かに…」
「つまり、当日、十分、結菜ちゃんたちも楽しめるって訳さ」
私は何も言えなくなってしまった。正論過ぎる。ぐうの音も出ない。
「じゃあ、納得してくれたところで、ペアを決めよう。栄治ー」
呼ばれた栄治先輩が、割り箸の刺さった筒を二つ持ってきた。用意がいい。
日も落ち、辺りは暗くなったため、ランタン型のライトも手に持っていた。
「肝試し当日のペア決めで使うものだよ。割り箸にペアになる数字が書いてあるんだ。数字が同じ人がペアね。女性はこっちを引いてね」
筒の片方を渡された。
「入る順番は、数字順なんだけど、今、男は一人足りないから、ペアになれなかった数字の人は、自動的に最後だね。まあ、それまでに大輝が来れば話は別だけどね」
「大輝先輩、連絡取れないんですか?」
愛美さんが訝しげに訊いた。確かに、待たないでこちらから連絡をすれば解決する話だ。
「それが、さっきから電話してるんだけど、繋がらないんだよね」
何かあったのだろうか?
「まあ、着信は鬼の様に入れてやったから、気付いたら、飛んでくると思うよ」
隼人先輩は笑って言った。この状況、彼らにとっては日常的なもので、大輝先輩は常習犯なのだろうか?
「さあ、くじを引いて、僕たちも引くから」
促されるまま、男女それぞれの筒から、割り箸を引き抜く。
「四番か」
「じゃあ、僕とベアだね」
声の主を見て、嫌そうな顔をするのを、必死に我慢する。
よりにもよって史也先輩だ。一番組みたくなかった。
周りを見渡す。
一番を引いたのは、春花と栄治先輩。二番は美香さんと隼人先輩。三番が愛美さんだった。
つまり、先程の隼人先輩の説明だと、愛美さんが一人の番号のため、大輝先輩が来ない限り、私が三番目に行くことになる。
「じゃあ、ペアも決まったことだし、早速行こうか」
隼人先輩が割り箸を回収し、懐中電灯を栄治先輩に渡した。
「トップバッターは俺たちだな」
「ですね」
栄治先輩と春花が、顔を合わせて頷いた。
春花の相手が史也先輩じゃなくて良かったと、心から思う。それに、栄治先輩は、今いる三人の中では、一番無害そうだ。
一つの懐中電灯の明かりを頼りに、二人は並んで病院に入って行った。
「隼人先輩と組めて嬉しいです~」
美香さんが隼人先輩に抱き付いている。何て大胆なの。
やっぱり、美香さんみたいな美人でも、好みの男性はイケメンなのかしら?
「美香ちゃん、落ち着きなさい」
「は~い」
愛美さんが、美香さんを諫めた。
「あっちは盛り上がってるね~。僕たちも抱き合う?」
「やめてください、気持ち悪い」
咄嗟に毒づいてしまった。
しまった、場の空気を悪くしまっただろうか。
「ごめんね、そうだよね~」
しかし、史也先輩は気にしている様子はなく、いつものニヤケ面をしている。
その顔に嫌悪感を覚える。やっぱり、この人は生理的に受け付けない。
顔を見ていたくなくて、視線を逸らす。
「え…?」
逸らして、気付いた。
病院の電気が点いている!?
病院の左端の部屋に、明かりが灯っていた。
廃病院なのだから、電気が通っているはずがない。
目の前の光景が信じられなかった。
そして、更に信じられないことに、その部屋に、人影が現れた。
「もしかして…」
脳裏に過ぎる噂話。
時折、廃病院に明かりが点いてる。
そして人影が見える。
しかし、その人影に興味を持ってはいけない。
興味を持って、人影が誰なのかを確認したら最後。
カナコさんに見つかり、神隠しに遭ってしまう。
「え?」
急に、隼人先輩が走り出し、我に返った。彼は、全力で病院内に飛び込んでいく。
カナコさんの正体を確かめようというの?
いや待って、カナコさんの噂が本当だとしたら…。
「春花!」
春花が先に行っている。何かしらの被害に遭っていても不思議ではない。
慌てて、隼人先輩の後を追おうとする。
「うひゃ!」
走り出そうとしたところに、腕を引っ張られ、変な声が出る。
私を掴む手の主を確認すると、史也先輩だった。
この男、私の癪に障ることばかりをする。
「何するんだ、離せ!」
あまりの怒りに、つい、男っぽい口調になってしまった。
「危ないよ、結菜ちゃん。ここは隼人に任せようよ」
冷静な物言いに、余計に腹が立った。
その刹那、先程まで点いていた明かりが消えた。
これはいよいよ、春花に何かあった可能性が高い。
「大事な友達が中にいるのに、人任せにできるわけないでしょう!」
私は力いっぱい腕を引っ張り、史也先輩の手を振り解いた。
そして、全力で病院に走る。
先程まで明かりのあったところにいたため、目が暗闇に慣れていない。
「痛い!」
案の定、何かに足を取られ、盛大に転んだ。
引っかかった感触から、待合室の椅子だろうか?
闇雲に動くのは危険だ。
四つん這いの姿勢のまま、床を手で触りながら安全を確認し、壁まで手探りで進む。
そして、壁を手伝いながら、立ち上がった。
「そうだ、スマホ!」
さっきまでパニックになっていたから分かっていなかったけれど、スマホにはライトがあったんだった。
照明モードにして、前を照らす。
外観もそうだったが、病院内も廃病院とは思えない程、綺麗だった。
そういえばさっき、隼人先輩が事前に三年生で下見をしたって言っていたから、その時に片づけたのだろうか?
目の前には、長椅子が並べられていた。そして、その正面に受付らしきカウンターがある。カウンターから長椅子を抜けると、正面玄関だ。
つまり、正面玄関から入ると、待合の人の先に、カウンターが見える形になる。
周りをぐるりと照らしてみる。
カウンターから左右に通路が伸びている。加えて、カウンター横からも奥に向かって通路が伸びている。このロビーから、診察室、各病室に行ける形なのだろう。
ということは、ここは待合室であり、ホールとなるわけだ。
外観から察するに、左右に長い作りなのだろう。
通路はどこも長く、スマホ程度の明かりでは、奥まで照らすことは出来ない。
「一階建てだったし、病院にしては変わった作りよね…」
独り言を呟いてしまった。静まり返った病院の闇が、私の声を飲み込んでゆく。
そうだ、春花を探さなくてはいけない。
暗闇の病院という、非日常な空間に、変に冷静になってしまい、つい目的を忘れて見入ってしまっていた。
さっき明かりが点いていたのは、正面から見て左端の部屋だった。
つまり、カウンターを正面に、左に伸びている通路の先の部屋だ。
「ひっ!」
カウンターから左の通路に光を移動した際、奥に向かう通路に人影が消えていった気がした。
突然のことに驚いて、引きつった声が出てしまう。
「春花…?」
明かりを前方に向け、ゆっくりと奥の通路に向かう。
私の場所からは、受付からの死角となっている。待ち伏せされていても、こちらからは見えない。
でも、ずっと様子見をしているわけにもいかない。
意を決して、一気に体を乗り出し、通路を照らす。
「誰もいない…」
そこは静まり返っており、何の気配もなかった。
気のせいだったのかしら…。
でも、もし人影が春花だったらどうしよう。選択を迫られる。
私は左を向き、目当ての部屋がある通路を照らした。
先程と同じ様に、誰の気配も感じられない。
今の状況から考えると、見たかも定かじゃない人影より、可能性があるのは、先程明かりが点いていた部屋だ。
「急がなくちゃ」
病院の闇に、少なからず恐怖を感じていたのだろう。
慎重になりすぎて、時間を食い過ぎた。私は弱くも、唯一の明かりを頼りに、問題の部屋に走った。
目的の部屋に着くなり、引き戸を思い切り引いて、開ける。
「春花!」
直ぐに室内を照らす。しかし、そこも何の気配もなかった。
念のため、室内をくまなく照らしながら歩いてみる。
ベッドが四つ置いてある。どうやら病室の様だ。
広い範囲の捜索ではないため、誰もいないことは明白だった。
隠れられそうなところも、せいぜいベッドの下くらいだ。しかし、そこにも人影はなかった。
もしかしたら、明かりの点いていた病室を、私が勘違いしているだけで、この部屋ではないのかもしれない。
一人ではどうにもならない、ここは一度戻って、愛美さんたちにも捜索を手伝ってもらおう。
「結菜ちゃん?」
「きゃあああ!」
突然背後から声を掛けられて、柄にもなく、女性的な悲鳴を上げて、転んでしまった。
「だ、大丈夫?」
声の主は隼人先輩だった。
懐中電灯で照らしながら、手を差し伸べてくれる。
私はその手を借り、起き上がった。
そうだ、私よりも先に、隼人先輩が病院に入っていたのだった。
「隼人先輩、先に一人で行っちゃうんですもの」
「ごめん、中に入った二人が心配で、気持ちより先に体が動いてたよ」
だとしたら、さっき見た人影も隼人先輩かもしれない。
なら、既に隼人先輩が、春花を見つけてくれている可能性はある。
「春花は見つかりましたか?」
隼人先輩は暗い表情になり、首を左右に振った。
「入れるところを全部見てみたけど、二人は見つからなかったよ」
「そんな…」
私は目の前が真っ暗になった。
「結菜ちゃんは、僕よりも後に入ってきたんでしょ?」
「はい…」
「この小さな病院で、時間差で二人入ったのだから、誰かいたら遭遇しているはず。しかも僕の場合、全ての病室を見て回ったしね」
「春花どこに…」
血の気が引いていくのを感じた。
私が付いていながら、春花を危険な目に遭わせてしまった。
全身の力が抜け、ベッドに座り込んでしまった。
――カラン…。
金属音が室内に響く。
私の手に、無機質なものが当たり、それが音を立てたのだ。
見ると、ベッドのパイプに手錠が引っかかっていた。
「何で手錠が…?」
病院には不釣り合いなものが、そこにはあった。
「隼人?」
病室の入り口からライトで照らされ、手錠が怪しく光る。
私はライトの主を見た。光で見えなかったが、その人物が光を下げることで、姿が分かった。史也先輩だ。
よく見ると、その背後には、美香さんと愛美さんの姿もあった。
つまり、この病室に全員が集合したことになる。
「そうだ、スマホ!」
見つからないのなら、こちらから連絡をすればいいのだ。
何で今まで気づかなかったのだろう。
早速、私は春花のスマホに電話した。
「お掛けになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため…」
聞き覚えのある電子音声が流れてきた。
手は尽きた。
「帰ろう」
「え?」
隼人先輩の言葉に、耳を疑った。
「春花を置いて帰るんですか?」
怒りとも、悲しみとも取れない感情に、声が震える。
「冷静に考えて、結菜ちゃん。今、僕たちにできることは何もないんだよ。病院内に人影はなかった。それだけが事実としてあるだけなんだよ」
「でも、見落としが…」
「僕が確実に見て回った。それに、こんな暗い中だよ、残りの人に何か危険が及ぶ可能性がある。それは、部長として見過ごせないよ」
私の言葉を遮る様に、隼人先輩がまくし立てた。
言っていることは分かる。でも納得ができない。本当に私にできることは、もうないのだろうか。
「この肝試しは、部の悪い噂を払拭するために僕が企画したもの。だから、責任は僕にある。そして、当然このまま終わらせるわけがないよ」
隼人先輩は優しくゆっくりと、言い聞かせるように私に話した。
「警察へは、僕が連絡しておく。そして、明日の朝、もう一度探しに来よう」
「明るいところで探した方が、見逃しもないでしょ」
隼人先輩の言葉に、史也先輩が続けた。
「それに、消えたのは、春花ちゃんだけじゃないんだよ」
言われてハッとした。そうだ、栄治先輩の姿もないんだった。
今まで、春花のことしか頭になかった。私は何て薄情な人間なのだろう。
「今回の件が、怪談的なものなのか、事件的なものなのかは、まだ分からないけど、もし、栄治と春花ちゃんが一緒に消えているとしたら、まだ栄治がいるだけ安心だと思う」
確かに、女一人よりかは、幾分マシではある。
「それにね…」
隼人先輩の目が鋭くなる。
「僕だって、冷静を装っているけど、内心穏やかではないんだよ」
確かに、私と隼人先輩は、友人が消えてしまったという点では、同じ状況なのである。
私と同じ気持ちなのは当然だ。
「ごめんなさい」
隼人先輩の心中を察し、素直に謝った。
「冷静になってもらえて良かったよ」
表情を崩し、穏やかに言った。
「じゃあ、明日、捜索しよう。みんなは、どうする?」
「春花さんが心配なんで、勿論来ます!」
美香さんが元気に答えた。その回答が嬉しくて、つい涙ぐんでしまう。
「じゃあ、みんな、明日の朝八時に、病院前に集合だよ」
みんなが頷く。
「結菜ちゃんは、史也に送らせるよ。こんな状況なんだ、疲れたでしょ。ゆっくり休んで明日に備えて」
私は無言で頷き、立ち上がった。
春花、絶対に見付けるから、少しの間だけ待ってて。




