7月10日 松原結菜
過激な性的発言、表現があります。
苦手な方は、読まないことをお奨めします。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
「うぅ~ん」
スマホがけたたましく鳴っている。その音が、私を目覚めさせた。
でもまだ、まどろんでいる。まだ寝たい、無視だ。
「うぅ~ん、煩いなぁ~」
スマホが鳴りやむ気配がない。何なの、しつこいわね。
仕方なく、眠い目を半開きにして、スマホの画面を確認する。
「ん~…春花?」
着信相手が春花ならば、話は別だ、出なくては。
「も…しもし…」
寝起きで、口が上手く動かない。
「あら、寝てた?……あ!ごめんなさい、徹君と一緒だった?」
慌てだす春花。どうして私が徹君の家にいることを知っているのよ。
「徹君はいないわよ。私よりも、友達が大切なんですって~」
「え?あら?」
電話口で春花が戸惑う。予想外だったようだ。
でも、予想通りだったとして、徹君と一緒にいるところに電話をかけてくるのも、どうかと思うわよ。それとも、本当に忘れていたのかしら。
しっかりしているように見えて、意外に抜けている子なのかしら。
「ところで春花、何で私が徹君の家にいることを知っているのよ」
「え?あ?あははは。徹君に泊めてもらうようにお願いしちゃった。だって結菜、徹君のこと好きでしょ?」
「う~ん、まあまあかな」
今の徹君への感情は、好き寄りの普通といったところだろうか。恋心と呼べるかどうかは分からない。
しかし、仮に好意があったとして、会ったその日に泊まらせるのはどうかと思う。
「そうなの?だったら、ごめんなさい」
好きじゃない男性のところに泊めさせて、ごめんなさいってことなのかしら?
もしかしたら春花は、思い付きで直ぐに行動に移してしまうタイプなのかもしれないわね。
「何を謝る必要があるのよ。安全な所に送り出してくれたのは、有り難かったわよ」
徹君は、良くも悪くも害のない男性だ。それは私にもよくわかる。気遣いもできる。
酔い潰れていた人の介抱をお願いするには、うってつけなのは確かだろう。
「それなら良かったわ」
「ところで用は何なの?電話してきたからには、何か用事があったんでしょ?」
さすがに、ただの生存確認ということはないだろう。
「あ、そうだった。これから肝試しの下見に行くんだけど、結菜も行かない?」
「突然ね。というか、肝試しって何の話?」
「あ、そうか。結菜は酔い潰れてたものね」
春花にはっきりと言われて、再認識する。
そうだ、私は飲み会が始まってすぐに酔い潰れてしまったのだ。
何をやったか、あまり覚えていないけど…あれ?もしかして私、徹君に抱き付いてた?
そのシーンだけ鮮明に思い出し、顔が熱くなる。そりゃあ、私が徹君に好意があると思われても仕方がない。
そういえば、さっきも抱き付いちゃった。やばい、どうしよう。徹君に好意があると勘違いされてしまう。いや別に勘違いされてもいいんだけど。う~ん。
私は数々の自分の軽率な行動を恥じた。
「それで、肝試しって」
酔い潰れていた話を広げても仕方ない。話を戻そう。
「ああ、そうそう、肝試し。昨日、隼人先輩から発表があって、部のみんなで肝試しをするんですって」
「何で肝試し?」
「何か、悪い噂を挽回したいとか?まあ、色々あるんじゃない?」
隼人先輩は隼人先輩で、部について色々と考えなくてはならないのかもしれない。部長って大変だな。
「あと、夏だから?」
まあ、それもあるでしょうね、安直だけどね。
「なるほどね。で、その下見に、何で春花が行くの?」
「隼人先輩が、驚かすにあたって、女性の意見も聞きたいんですって」
「そういうことなのね。それで、誰が行くの?」
「三年生の先輩四人と、私」
「え?」
まさかの男性の中に女性が一人?それはどうなのかしら。
春花って確か彼氏持ちだったわよね、ちょっと問題じゃないかしら。
「あなた彼氏持ちでしょ。何、承諾してるのよ」
「あ、違う違う、さすがに私一人では行かないわよ。だから一人にならないために、結菜を誘ってるんじゃない」
「ああ、なるほどね。早とちりをしたわ、ごめんなさい」
「ホントよ、もう」
ため息交じりに春花が言う。
「行ってもいいわよ。他に誰か誘うの?」
「徹君たちも誘おうと思ったけど、結菜の話だと、用事があるんでしょ?」
「そうね、二人で出かけたわ」
「じゃあ、誘えないわね」
「まあ、私がいて、彼氏が納得するなら、それでいいんじゃない?」
「そうね、ありがとう結菜」
そもそも部活動なのだ、そこまで気を張ることもないだろう。
「それで何時集合なの?というか、今何時?」
時計を確認していなかった。徹君が出て行ってから、どれくらい寝ていたのだろうか。
「今は十七時ね。集合は十九時」
「あと二時間か~、あまり時間ないわね」
「ごめんね、直前の誘いになっちゃって」
「いいわよ。どうせ早く電話をくれたところで、潰れてただろうし」
それにしても、徹君の家は、どこの位置なのだろう。私の家まで、どれくらい掛かるのだろうか。
「服が昨日のままだから、着替えたいなぁ。シャワーも浴びたい」
「ああ、そうよね…」
私も女だ。昨日のままというのは、さすがに嫌だ。
「じゃあ、今から徹君家に迎えに行くわ。それで、そのまま結菜の家まで送ってあげる」
「え?いいの?」
それは願ってもない申し出だ。
「あれ?でも春花、車持ってたっけ?」
「史也先輩にお願いする」
「いやいや、どうなのよ、それ」
先輩を足に使うって、この子、本当に思い付きで行動するタイプなのね。
それに私、昨日の格好で男の人に会うのは、嫌なんだけど。
「そもそも、何で史也先輩の名前が出てくるのよ」
「隼人先輩が、史也先輩に送迎させるって言ってくれたのよ」
「至れり尽くせりなのね」
あの先輩、顔がいいのに、女性に気配りもできるなんて、パーフェクトな人なのね。凄いわ。
「だから、結菜を送り届けるくらい、やってくれるかな~と思って」
「いいのかしら」
「いいんじゃなかなあ」
まあ、そこは春花に任せよう。もう、時間もないし、ちょっとくらい昨日のままの姿を晒してもいいかな。恥ずかしいけど。
「春花に任せるわ」
「わかった。……史也先輩、お願いできますか?」
そこにいるのかい!
遠くから、いいよ~と、軽い返事が返ってくる。
「いいってさ」
「ええ、聞こえたわよ。というか、一緒にいるなら言いなさいよ」
「言ってなかったっけ?」
「言ってないわね」
直感で行動するくせに、天然なのね。恐ろしい子。彼氏も苦労してそうね。
「でも私、この家の場所分からないんだけど」
「あ、それなら大丈夫。耕太に聞いて、場所知ってるわ」
本当に行動力は速い。
「ここからだと、十分くらいで着けるって史也先輩が言ってる」
「ホント?じゃあ、待ってる」
「うん、直ぐ行くね」
そう言って電話が切れた。
取り敢えず、来るまでの間に、できる限り身なりを整えておこう。
布団も整えておこう。寝床を借りておいて、散らかして帰ったら失礼だ。
それと、大丈夫よね、私の汗の匂いとかついてないかしら。
気になって布団の匂いを嗅ぐが、異臭はしない。多分大丈夫。
そういえば、四時間くらい寝られたのかな。すっかり頭痛も消えている。
そうこうしていたら、着信が鳴った。
「着いたよ。出てきて~」
言う通り近かったのね。
私は、徹君から受け取った鍵を持って家を出た。しっかりと扉に鍵をかけ、階段を降りて、徹君に言われた通り、階下にあるポストに鍵を入れておく。
「おはよう、結菜」
車の前に春花がいて、手を振ってくる。
そして、駆け寄ってきて、薄い上着をかけてくれた。
「これで、少しは姿を見せなくて済むでしょ」
そう言って、帽子を被せてくれた。
「あ、ありがとう」
こんな気配りもできるんだ。女子力高いな。やっぱり彼氏持ちは違うなぁ。
その行動力に感心した。そして、私も見習わなくてはと思った。
「さあ、どうぞ乗って」
いつの間にか車から降りていた史也先輩が、車のドアを開け、エスコートしてくれる。
「ありがとうございます!」
元気にお礼を言うと、春花は先に車に乗り込んだ。
「すみません、先輩」
「いいんだよ~」
車に乗り込む間際に、史也先輩に謝った。先輩は気にすることなく、笑顔で返してくれた。
この人は、いつもニコニコしているイメージがある。
「それで、家はどこかな?」
車に乗り込んできた史也先輩が訊いてきた。
そうだ、送ってもらうということは、私の自宅を教えなくてはならない。
ちょっと気が引けるけど、今更断れない。後先考えてなかったなあ。
今日は私も少し抜けているみたいだ。いや、昨日酔い潰れた時点で、抜けているわ。
「ここです」
私は、スマホに地図を表示して見せる。
「ああ、ここね。近いね。十分くらいで着くよ」
「え?そんなに近いんですか?近所ですね」
「あはは」
私の言葉を聞いて、史也先輩が笑い出す。そんなに可笑しいこと、言ったかしら。
「確かに車では近く感じるけど、徒歩だと一時間以上かかるから、近所とは言えないよ」
そんなにかかるんだ。車を持っていないから、距離感が分からなかった。
「そういえば結菜ちゃん。徹君の家にいたってことは、ヤっちゃったの?」
「は?」
史也先輩の無神経な言葉に、角が立った。
ニコニコしながら言うその姿に腹が立った。
いや、勘違いしていた。先輩はニコニコしているんじゃない、ただのニヤケ面なんだ。
こんなふざけた奴に自宅を教えて大丈夫だったのか。今更気付いても後の祭りだ。
そう思うと、途端に苛々が込み上げてくる。
「お前何言って…」
「私が、徹君の家に泊めてくれるよう、お願いしたんですよ」
私の言葉に被せる様に、春花が言った。
危なかった。つい頭に血が上って、先輩ということを忘れて、汚い言葉を吐くところだった。
冷静になろう。今揉めても、何もいいことはない。
「そうなんですよ~。いやあ、潰れちゃうなんて、私としたことが、失敗でした」
「そっか。確かに彼、無害そうだから、泊まっても何もなさそうだよね」
こいつは、いちいち私の癇に障る言い回しをする。
基本的に性格が合わないのだろう。とにかく気にせず流すように、気持ちを持って行こう。
まともに聞いていては、いつキレてしまうか分からない。
「お、ここかな」
「ああ、ここです」
車が止まったのは、私のマンションの目の前だった。
「じゃあ、ちょっと着替えてきます。春花、ちょっと手伝って」
私は春花の手を引いて、車を降りた。
「先輩すみません、ちょっと待っててもらえますか?」
春花が、運転席の史也先輩に申し訳なさそうに言った。
「構わないよ~。俺はここで待ってるよ」
「すみません、ありがとうございます」
マンションの中に消えていく私たちに、史也先輩はニコニコしながら手を振った。
「何なんだあいつ、腹立つ!」
エレベーターが閉まったことを確認すると、私は壁を叩いて言った。春花が一瞬ビクリとする。
「結菜って、意外と気性が荒かったのね」
「そう?普通じゃない?」
「頭に血が上ると、口調も荒くなるのね」
「それは反省してるわ。春花、フォローしてくれてありがとう」
「別にいいわよ」
「あの男、私ととことん相性が悪いわ。イライラしてしょうがない。本当に嫌いなタイプ」
エレベーターが私の部屋のある階に止まり、扉が開く。私はエレベータを降り、話しながら歩いた。
「じゃあ、下見に行くのやめる?」
「何言ってんの。あんなふざけた奴が参加する下見でしょ?春花一人で行かせるわけないじゃない」
「あはは、ごめんね」
「謝らないでよ、気にしてないから」
部屋の前に着き、鍵を開けて中に入る。
「おじゃましまーす」
「どうぞ。スリッパはそれ使ってね」
私はさっさと部屋の奥へ行き、着替えを探す。
「そういえば、手伝って欲しいって何?」
「ああ、嘘よ」
「嘘?」
「ええ、あの先輩と春花を二人きりにしたくなかったのよ」
「何それ?ふふ、おかしい」
春花が笑い出した。
洗面所に下着を置いた後、冷蔵庫からペットボトルの水を出して、テーブルに置く。
「女性らしくなくてごめんね。私、洗い物嫌いだから、基本的にカップとか使わないのよ」
「いいわよ、気にしないでよ。私はおじゃましている身なんだから」
「違うわよ。私が強引に連れ込んだのよ」
「何それ、こわーい」
二人して笑った。さっきまでの苛々が抜けていくのを感じる。春花と話してると楽しいな。
「じゃあ、ちょっとシャワー浴びてくるわね。適当に寛いでて」
「うん、わかった」
浴室に入る。どうもモヤモヤする。
頭を洗い、体を洗い、考える。
史也先輩のヘラヘラした態度が、どうも気になる。
何か企んでいるのではないだろうか?考え過ぎかしら。
でも、この大きな胸のせいで、好奇な男性の目はたくさん見てきた。だから分かる。彼は何か邪なことを考えている。
しかし、私の胸に向けてではない。別の何かだ。女子力は低いけど、私の女の勘が言っている。
警戒して、やっぱり行かない方がいいのかな。
でも、勘という理由だけで、春花を止めることは出来ない。
シャワーを止め、鏡に映る自分を見る。水滴が髪を伝う。
考えても仕方ない。私が守ればいいだけだ。
決意をし、浴室を出た。
体を拭き、ショーツを履く。
そして、頭を拭きながら、リビングに足を運んだ。
「あら、早かったわね結菜ぁ!?」
春花の声が裏返った。
「何で上、何も付けてないのよ!?」
「あら?女同士だから、別にいいじゃない」
「いやいや、気にしないの?」
「私は別に気にならないわ」
「そうなのね。さっきもそうだったけど、結菜って結構男っぽいのね」
「ごめんなさいね。体つきは女なのに、中身は男で」
「ほんとよ、もう」
「肯定するなんて酷いわ」
二人で同時に笑った。知り合って間もないけど、春花とは気が合う。今では大事な友達だ。
そんな春花を、できれば危険な奴らと関わらせたくない。
「そういえば、肝試しってどこでやるの?」
「黒影山病院。例の廃病院ね」
「ああ、噂のカナコさんの」
「そうそこ」
「危なくないの?」
「神隠しのこと?」
そういえば、カナコさんの姿を見たら、神隠しに遭うんだったっけ。どうも信じがたい。というか、信じていない。
「いや、場所的な話。廃墟ってガラの悪い奴が、よく、たまり場にしてるじゃない?」
「ああ、そのための下見らしいわよ」
「はぁ?そんな危ない下見に、女の子を連れて行くっていうの?ちょっとおかしいんじゃないの?」
史也先輩といい、三年生は、どこかおかしい。明らかに考えられない行動をしている。
「まあ、大丈夫じゃない?たまり場になってるって噂も聞かないし」
この子は随分と能天気だ。少しは、自らの身を案じて欲しい。
「まあ、何かあったら、私が春花を守るわ」
「頼もしいわね。頼りにしてる」
春花が小さく笑う。頼りにしていると言われ、少し嬉しかった。
話している間に、着替えが終わった。
「髪の毛乾かしてくる」
「ええ、どうぞ」
ドライヤーをかけながら、再び考える。
おかしい先輩とはいえ、同じ大学の人間だ。さすがに強引に手を出してくることはないだろう。問題になりかねない。
後は、廃病院だけど、確かに、噂のカナコさん以外の話は聞いたことがない。ということは、春花の言う通り、たまり場にはなっていないのだろうか。
でも、用心に越したことはない。何か起きたら、先輩の車を奪ってでも、その場から逃げよう。
車は運転していないが、免許は持っている。ペーパードライバーだけど、運転の資格はあるわけだ。
何かあったら、春花第一に行動しよう。再度、決意を胸にした。
ドライヤーをかけ終わり、リビングに戻る。
「上着と帽子は、洗って返すから」
「別に気にしなくていいのに」
「私が気にするのよ」
春花に言ってのける。少しは、女らしいところを見せないとね。
「分かったわ。じゃあ、今度会った時に返してね」
私の心を見透かしてか、春花が笑いながら言った。




