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カーニバル  作者: キキカサラ
七月八日
10/21

7月10日 小松川徹 慌しい寝起き編

「あ……え?」


 目が覚めたら、目の前に女性の寝顔があった。

 あり得ない状況に、頭をフル回転して、思い出そうとする。確か昨日は新歓コンパだった。

 そうだ、酔い潰れた結菜さんを、家に泊めたんだった。

 いやでも、何で隣に寝てるんだ?確か昨日は、結菜さんをベッドに寝かせて、僕は床で寝てたはずなんだけどな。

 あれ、もしかして、僕が間違えてベッド入ってしまったのか?

 周りを見てみると、確かに床だ。

 いやいや待て待て、冷静に考えてる場合じゃない、今この向かい合っている状況はヤバすぎる。早く起きないと。


「だめー、行かせない~」


 起き上がろうとしたら、捕まった。そのまま背中に抱き付かれる。

 胸が背中に押し付けられて、鼓動が早くなる。


「起きてたんだ。ってか、まだ酔っぱらってるの?」


 冷静を装う。もう、心臓が爆発するんじゃないかというくらい、鼓動が早い。

 でも、素で、こんなことするはずがない。酒が残ってるか、寝ぼけているのだろう。


「お酒は抜けてるよ~。でも、頭痛い~」


 背中に顔を埋めながら話す。言葉を発する度に、熱い息が背中に感じ取れる。

 今まで経験したことのない状況に、僕は身体を強張らせてしまった。


「そういや、ここどこ?」


 え?今まで分からないで話してたの?


「僕の家だよ。そういえば、結菜さんのことはベッドに寝かせたはずなのに、何で床に寝てるの」

「徹君が床に寝てたから、一緒に寝たくてー」


 何でそう恥ずかしいセリフを簡単に言うのだろうか。

 一瞬、春花さんが言っていた、僕に気があるという言葉が、頭に浮かんだが、振り払った。


「とにかく、僕は起きるよ」

「あーん、徹君冷たい~」


 抱き付いてくる結菜さんを引き剝がし、僕は冷蔵庫から麦茶を取り出し、二つのカップに注ぐ。そして、片方はレンジにかける。


「そういえば、ここが徹君のウチってことは、私、お持ち帰りされちゃったの?ヤっちゃった?」

「ぶっ!」


 盛大に麦茶を拭いた。シンクに麦茶がぶちまかれる。キッチンで飲んでて良かった。


「し、してないよ!」

「そうでしょうね。私今、生理だし」

「んな…!」


 そんな、あけっぴろげに言う?

 春花さん、彼女は僕のことを好きなんじゃなくて、ただの気の許せる友達と思ってるんじゃないかな。


「あ、ごめん、頭痛薬切らしてるわ」


 僕は薬箱をあさりながら言った。直ぐに用意出来たらよかったんだけど、申し訳ないな。


「あ、大丈夫。自分で持ってるから」

「へえ、用意がいいんだね」

「女の子は、みんな持ってるもんよ」


 そういうものなのか。まだまだ知らないことが多いな。


「はいこれ。頭痛いなら、冷えてる麦茶より、ぬるい方がいいでしょ」

「ありがとう。こういうところなのよね~」

「こういうところ?」

「ううん、何でもない」


 結菜さんは、そっぽを向いて薬を飲んだ。一体何だったんだろう?


 ~~~♪


 スマホの着信が鳴った。表示を見ると、竜司だった。


「もしもし、こんな朝早くに、どうしたの?」

「早くねえわ、もう十一時だぞ」


 もうそんな時間だったんだ。いつも通りの起床時間だと思ってた。やっぱり、お酒を飲むと、早く起きれないもんなんだなあ。


「これから、出かけるぞ。後十分で到着するから、用意しといてくれ!」

「え?僕に選択権なし?」

「そうだ、じゃあな!」


 言うなり電話を切られた。何か焦っているみたいだったけど、何なんだ。

 それに誘いが強引過ぎる。

 スマホから顔を上げる。あ、そうだ、結菜さんがいるんだった。


「結菜さん、竜司に誘われたから、出かけるね。これ鍵」


 結菜さんに鍵を手渡す。


「鍵はポストに入れといて。調子が良くなるまで、ここにいていいからさ」

「えー、徹君は具合の悪い私より、友達の誘いを取るの~?」

「具合が悪いのは、自分のせいでしょ」


 結菜さんが頬を膨らませる。


「一杯で、あんなに酔うはずないんだけどなぁ~、おかしいなぁ~」


 腕を組んで、悩んでいるそぶりを見せる。


「結菜さんを看病してあげたいのは山々だけど、竜司も何か急いでるみたいだから、行ってくるよ。ごめんね」

「ううん、さっきのは冗談よ。こっちこそ、ごめんね」


 また駄々をこねるかと思ったら、急にしおらしくなった。どうも調子が狂うな。


「好きなだけいていいから、ゆっくり休んでよ。飲み物は冷蔵庫に、カップ麺はキッチンの上の棚に入ってるから、食べたかったら勝手に食べていいからね」

「ありがとう、ごめんね」

「謝る必要はないよ。じゃあ、行ってきます」


 僕は結菜さんに布団をかけ直し、急いで用意して家を出た。


 家を出ると、階下に竜司の車が停まっていた。


「おう、タイミングばっちりだな」


 車のところに行くと、開け放たれた窓から竜司が言った。


「呼び出しが雑だよ。一体何なんだ」

「それは移動しながら言うわ」


 仕方なしといった感じに、僕は車に乗り込んだ。


「あ、そうだ、結菜さんは?」

「まだ家にいるよ。頭が痛いんだって」

「そっか、大丈夫か?」

「結菜さんの看病しないで来てやったんだ、有り難く思えよ!」

「すまなかった」


 随分素直だな。


「結菜さんにも、謝ってね」

「そうだな、謝っとく」


 竜司が車を出発させた。


「それで、何を急いでるんだよ?」

「これからダブルデートをする」

「は?」


 竜司の予想外の発言に、間抜けな声が出てしまった。


「え?そんなことのために、結菜さんを放らなきゃいけなかったわけ?」


 頭にきた。家には具合の悪い女性がいるのだ。デートとかいう遊びなんかよりも優先すべきだろう。

 しかもダブルデートを勝手に設定されている。一体竜司は、何を考えているんだ。


「そんなことなら、僕は帰るよ。結菜さんが心配だ」

「相手は、徹をご指名だったんだ。すまない、交換条件だったんだ。俺を助けると思って協力してくれ!」


 僕の帰る発言に、竜司が必死に止めてくる。何故、ここまで必死になるのだろうか。


「落ち着けって!きちんと説明してくれよ。納得したら、ちゃんと一緒に行くから!」

「有益な情報をくれる交換条件として、徹とダブルデートさせろって言われたんだよ」

「だから誰に?」

「沢渡愛美だよ」


 何で沢渡さんが?いや、思い当たる節はあった。

 確か、沢渡さんは七瀬さんの幼馴染だ。

 昨日、七瀬さんは、僕とデートしたいと言っていた。しかし、結菜さんの件があって、連絡先は交換していなかった。


「それって、僕と七瀬さんをデートさせたいって話じゃない?」

「え?何で分かるんだ?」


 竜司は面食らっていた。当然だ。沢渡さんと話していたあの時に、僕と七瀬さんの会話が分かる筈もない。


「昨日、七瀬さんにデートしようって言われたんだ。でも、連絡先を交換してなかったからさ」

「なら、話が早いじゃねえかよ!あんな美人に好かれて、徹だって嬉しいだろうよ!」

「う~ん…」


 歯切れの悪い僕に、竜司が不思議そうな顔をする。

 僕は、昨日の帰りに、路地裏で深山先輩とキスをしている七瀬さんを目撃している。

 深山先輩とそんなことをする人が、僕とデートをしたいという気持ちが、素直に分からないのだ。


「何かあったのか?」


 昨日のことを言うべきかどうか悩んだが、七瀬さんがどういう状況で、あの様なことになったか分からなかったので、一端、話すのをやめた。


「ううん、何でもない。いいよ、行くよ」


 昨日のことを話さずに断ることは出来ない。取り敢えず、七瀬さんに会って、真意を確かめようと思った。


「ど、どうした?いや、一緒に行ってくれるのは、ありがたいけどよ」

「うん、まあ気にしないでよ。それより、有益な情報って、何の?」


 今度は、こちらが訊く番だ。急に切り返されて、珍しく竜司が狼狽えているのが分かる。


「……分かった、無理に連れてきたんだ、いい加減に話すよ」


 素直だ。腹が決まったという感じだ。以前言っていた、深山先輩の気になる話と関係があるのだろうか。


「学内で失踪者が出てるのは、この前の春花さんとの話で知ってるよな」

「ああ、廃病院のカナコさんの話?」


 竜司が一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をした。何だ?カナコさんが嫌なのだろうか?怖いのかな。


「怪談話が広まる前に、既に失踪者の話は出てたんだよ。だから俺は、失踪者の件は知っていても、カナコさんの噂は知らなかった」


 確かに、竜司はカナコさんの噂を知らずに、失踪者のことは知っていた。それは春花さんと話している時に明らかになった。


「それで?」


 竜司が奥歯を噛み締めているのが分かる。そこまで話したくないことなのだろう。竜司にとって、辛い話なのかもしれない。


「俺の友達の友達も被害に遭ったんだ」

「え?」


 春奈さんの時もそうだが、また、友達の友達だ。本当に、怪談話の様だ。


「友達の友達って…竜司は面識あるの?」

「ない」

「はぁ?」


 竜司の回答に、耳を疑った。面識ない人間の話に、何でそんな神妙な顔をしているんだ。失踪したかどうかだって怪しいじゃないか。


「面識ない人間が失踪したって話、なんで信用できるんだよ」

「俺の友達が、嘘を言う人間じゃないからだよ」


 正論だった。仮に、竜司が同様に友達が消えたと言ったら、僕は信じるだろう。それほどに信用できる友人なのだろう。


「それで、深山先輩が関わっているってことも本当なの?」

「ああ、これも確実だ」


 何なんだ一体。僕の周りで何が起きてるんだ。


「あ…」


 深山先輩が神隠しの原因という話で、急に頭の中の情報が繋がり、部会の時の違和感の正体が分かった。


「僕たちの部活って、勧誘した部員には女性がいるのに、三年生には女性がいない…」

「徹も気付いたか」


 この様子だと、竜司は既に気付いてたんだな。まあ、深山先輩をはじめから疑っていたのだから、そこに気付くのも当たり前だろう。


「春花さんから聞いたんだ、春花さんの知っている失踪した人も女性だって。そして、俺の知っている人物も女性だった。加えて、勧誘された新入部員の大半が女性。そして失踪者に確実に関係している深山先輩。これら全てが、別々の問題とは思えない」

「そんな大それた推理を…」

「俺は、深山先輩が、女性たちを食い物にしてると思ってる。いや、深山先輩たちがと言った方がいいのかもな」

「そんなバカな…」

「違う、言い換えるぜ。食い物にしていると断言する」

「何でそんな…」


 その先の言葉を言おうとして、飲み込んだ。

 竜司が、深山先輩が関わっていることは確実だと言った。その情報は、さっき言っていた友達の友達が関係しているのだろう。

 そういえば竜司は、()()()()()()()()()()()()という言い方をした。つまりこれは、その友人が深山先輩に食い物にされたことを意味している。

 情報が全て繋がり、僕は何も言えなくなり、口をつぐんだ。


「お前は昔から、頭の回転が良いよな。抜けてるところもあるけどさ」


 竜司が悲しそうな顔で正面を見ている。

 知られたくなかった。でも知って欲しかった。そんな葛藤を現しているのような表情に見えた。


「だからさ、どうしても情報が欲しかったんだ」


 ぽつりと言った。

 情報を得て、竜司はその後何をするつもりなのだろう。

 何も知らない僕には、止める資格はない。言いようのないモヤモヤが胸の内に残った。

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