#2【マグナス・プライムコロニー】
滑り込みセーフ
#2【マグナス・プライムコロニー】
オーケー、整理しよう。
昨日、帰り道にコンビニで酒を買ってボロボロに酔った。ここまではいい。
そのあとの記憶がない。これもまあ、潰れたんなら仕方ないだろう。
……なんでそれがこんな事になる?空に都市?どういう事だって。
「なぁ、これって夢?」
おもわず、目の前の女に聞く。
女は可哀想なものを見る目でため息をつく。
「アンタ、余程記憶をやられてるみたいね……」
そういえばこの女の格好も奇妙だ。美人だが、SFコスプレみたいなアーマーに、真っ青な髪の毛に白いメッシュ。映画に出てきたら惚れてた……じゃなくて!
どうしてコスプレみたいな恰好でここにいる?酔っぱらってるうちにコスプレアニクラにでも参加しちゃったか?田舎にそんなとこあったか?」
「途中から声出てるよ、火威クン。いい?落ち着いて聞いて」
考えを巡らせていたのが漏れていたらしい。
「まず、私はマグナス・プライムコロニー軍警察のマナ・シェメシ特務中尉。軍警察は解るよね?」
「いや、その前のコロニーからわからない」
「ウワァ……聴取が終わったら病院に連れてくから、アンタマジで全部わからないのね?」
「ごめんなさい」
癖で、つい謝ってしまう。だが本当にわからないのだ。今は何でも、状況を整理してほしい。
「アンタもしかしてすぐ謝るタイプでしょ。いいよ、私だってぶっ倒れてた人間に怒るほど人間小さくないよ」
マナと名乗る女はクスリと笑い、説明をしてくれた。
ここは、マグナス・プライムコロニー。ベテルギウス星系に製造された最大の都市コロニーで、周辺の惑星/コロニー群を含めたベテルギウス人類繁栄圏の「首都」に当たるらしい。
彼女はコロニー自治のための軍警察の特務所属で、「火が降ってきた」との通報を受け、この所コロニーを騒がせているテロ集団を疑い調査をしたところ、俺を救助した……とのことだった。
「……突拍子もない話だ」
なんだそれ。映画か、やっぱ夢じゃねえかこれ?
「現実を受け入れてよ……はい、私の話おしまい。今度は火威クン、今度はあなたの認知上の、ここに至るまで訪れた場所、行動、それから身分を証明できるもの持ってたら、出してくれる?」
「わかった。俺の認識上の話だぞ?……まず、俺がいたはずの場所は地球、日本、東北。会社帰りに飲んで……気づいたらシェメシさんに起こされてた。正直、ここが宇宙コロニーだって言われても実感がないし、俺の知ってる限りじゃコロニーなんて映画の中の話だ。んで身分証明書だけど……ほら、免許証」
ポイントカードに紛れ、唯一財布に入れていた写真付きの免許証を渡す。
「あー……その財布、小銭入ってる?」
所持品の検査だろうか、おとなしく従い、財布ごと渡す。シェメシさんは暫くそれを、手持ちのスキャナで読み込み調査していた。そしてこちらをまた見て
「落ち着いて聞いてね?火威クン」
なんだろう、また突拍子も無い事を言わないでほしい。
「詳しくは科学捜査官の調査待ちになるけどアンタ、いたずらじゃなきゃかなり前に行方不明になってる。それも数年単位じゃない。ざっと――」
シェメシさんは拳をこめかみにあて、苦々しい顔で告げる。
「2000年くらい」
「は????」
#3【ま、いいや】
おいまて、もっと聞いてないぞ。
つまりこうか。
「酒によってタイムスリップしただぁ?」
「突拍子もない話、だよね」
なんで?誰の思惑で?どんな原理で?
「帰るすべは?」
「解明されてないし、タイムマシンなんて今でもない」
……マジか。
正直、動転している。身寄り無し、所持金は今入っているものと、存在してれば銀行?あるのか?住む場所無し。着るものなし。絶望的じゃん???あるかわからない社会福祉も期待できなければ、頼れる人もいない。詰んでいる。
「そっか……まぁ、でも」
いいや!
動転はしていたが、肩の荷も下りた気がしていた。
地方勤になったせいで彼女には浮気されたし、排他的な地方にはなじめなかったし、もうすぐ30。詰んだオワコン人生と、詰んだ衝撃展開。どっちがいいかと言われたら俺は――
「難しいこと考えないで、俺、ここで生きるよ。だから」
立ち上がった俺に不信感を抱いたか、シェメシさんが怪訝そうな顔をする
「だから?」
もう一度覚悟を決め、しっかりと前を見据え
「俺を保護して検査して身元確認と当面の間生きる保障を下さい」
土下座した。締まらないなぁ。
優の現在の所持品
■ハイブランドのスーツ
・イタリアの有名生地メーカーのスーツ。今も残っているかわからない。初ボーナスで無理して買った。
■財布
・オーダーメイドの革財布。初ボーナスで無理して買った。
・所持金は5万円と、メガバンクのカード(貯金はまだ残ってるんだろうか?)
■靴
・なんてことはない牛革の靴。本人基準で昨日手入れをした。
■???
・まだ、本人も気づいていない。