プロローグ【ある存在の誕生】
どこまで続けられるかわかりませんが、毎日投稿したいです。
「彼」は困惑していた。
「彼」は今、初めて個を認識したのだ。
悠久とも言える長い年月、「彼」は主人に従い宇宙を守護した。
「彼」は秩序のための尖兵だった。秩序の神たる主人に仕える名も無き尖兵、
自我など持たぬ究極の「機構」、炎で構成された秩序の守り手の軍勢の中のユニットに過ぎなかった。
だが今彼は、その調和から取り残され伏していた。
理由はわかっている。損傷したユニットがパージされた、それだけのことだ。
主人に遣わされ、秩序を守る。その任務の最中「彼」は負傷し軍勢から切除された(それは軍勢にとって、壊死した患部を切るくらい当然のことなのだ)。
目を覚まし、朽ち行く身体と、初めての個を認識した「彼」は泣いた。
”なんということだ”
”ああ、なんということだ”
”おわりたくない”
”生きたい”
恐怖、悲しみ、渇望。初めて覚える感情に振り回されるがまま、彼は生きるため叫び、自信の構成物質を伏したフィールドに適応させようともがいた。
”ああ嗚呼アア”
”ああああああ”
”ああ”
叫び、自信を構成する素を周囲から、この地表の生物種情報から、刻まれた星の記憶からかき集め存在を確定させていく。
本来群を成して概念を保っていた「彼」には、なにか借り物の器がなければ個など保てなかったのだ。
「彼」は必死に叫び、身体を、記憶を、記録をかき集め……
力尽きた。
非常に先の展開が「読める」優しい仕様になっています。