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叶多とカナタはベッド

クロノは力を込めて叶多の身体を抱き上げた。


「女神さん、どこにいくんだ?」


クロノは叶多を忘れてしまったトーマス達に返事もせずに叶多の身体を持って自分の世界に帰った。


ここなら叶多を腐らせずに済む。



何もない世界に横たわって動かない叶多。


「うっ、うっ、うっ、うっ」


クロノは悲しみが止まらない。元の世界に叶多の本体はいる。


叶多の書いた手紙には寂しくなったらもう一度自分を召喚しろと書いてはある、書いてはあるが、あれは叶多であってカナタでは無いのだ。



「ねぇ、起きてよ」


そう話し掛けても返事をしない叶多。


クロノは服を脱いで叶多に近寄る。


『お、おま、お前は何してんだよっ』


「そう言ってよカナターーーっ」



クロノはしばらく泣き続け、そのあと、もしかしたら、元の叶多にカナタの記憶があるのではないかと思いつく。


行ってみよう。


クロノは叶多の世界に行ってみることにした。




キーンコーンカーンコーン


学校の終業ベルが鳴り、ぞろぞろと生徒達が出てくる。


ざわつく男子校生。


(誰だよ?あの可愛い娘は?)

(あんな美少女見たことないぞ)

(誰か待ってんじゃねーか?)


ヒソヒソとそんな話をしているなか、一人男子校生が思い切って声をかける。


「ねー、ねー、誰か探してんの?」


クロノが顔をあげるとぎょっとする。この美少女は涙を流してるのだ。


「どっ、どうしたのっ?」


「カナタ・・・」


「えっ?」


「カナタはどこ?」


その男子校生は誰かカナタってヤツ知ってるかぁ?と声を掛けた。



「おいおい、校門の所で有り得ないぐらいの美少女がカナタって奴を探してるらしいぞ」


「マジか?」


だっと、ダッシュしてカナタはクロノがいる校門に走った。


「お、俺、彼方カナタ。なんで僕を探してんのっ」


「誰、アンタ?」


「え?夢野彼方。僕を探してたんだよね?もしかして女神様?ねぇっ、女神様になんだよねっ」


と、クロノの手を握る彼方。


「触んないでよっ!アンタみたいな奴探してなんかないわよっ。私が探してるのはカナタっ」


「俺、彼方なんだけど?」 


「うるさいっ!お前じゃないっ」



叶多はもしかしたら自分かもと思って様子を見ていたら、彼方が死ぬほど怒鳴られている所を見た。


(確かに可愛いけどクソ女だな。これは関わらないのが吉だ)


叶多はそう思ってコソッと横を通り抜けようとした。



「カナタっ」


いきなりそう言って目の前にくる美少女。


ゲッ、バレた。


「誰だよお前?俺は知らねーんだけど?」


「私よっ!クロノ。女神クロノっ」


「あー、女神様ねハイハイ。俺はそういうの信じてないから」


なんだ、新手の宗教勧誘かよ。なんで俺なんかをターゲットにするんだよっ。


「ねぇ、私の事を覚えてないのっ?」


「知らねーって言ってんだろ」


「一緒にお酒飲んだり、お風呂に入ったことも覚えてないのっ?」


ざわっ


周りで聞いていた生徒たちがざわついてヒソヒソ話を始める。


「お、おまっ、おまっ、お前はなんてことを言い出すんだっ!俺はそんな事をしたことはないっ」


「私のポヨンを見たことは?夜痛いぐらい抱きしめて寝たことは?」


ざわざわ


「知らねぇっていってんだろがっ」


ぐすっ ぐすっ


やはり本体の叶多には記憶が飛んで来ていない。これは叶多であってカナタでは無いのだ。そう思うとクロノは涙が止まらなくなった。


「時野君って、あの娘を弄んで知らぬ存ぜぬなんだって」


「うわっ、サイッテー」


「あんな可愛い娘を泣かせてるぜアイツ」


周りから白い目で見られる叶多。


「俺はなんにもやってないって。こんなヤツ知らねーんだよっ」


「き、君は叶多のなんなの?」


と彼方がクロノに聞く。


「お嫁さん・・・。カナタは私の旦那様」


「お前いつの間にっ」


「俺はまだ17歳なんだぞっ。結婚なんかしてるかっ。こんなおかしい奴の言うことを信じんなよっ」


めちゃくちゃ怒る叶多。そこにクロノはガバっと抱きついてみた。


キャーーっ


女の子達から悲鳴に似た歓声が上がる。


「こうやったら、落ち着く?」


「お、お、お、落ち着くわけねーだろがっ」


より怒る叶多にクロノは呟く。


「甘い匂いがする。いつも私の服を持って寝て、お前がいないと俺はダメだと言ったくせに・・・」


きゃー、変態よっ


あちこちからそんな声が聞こえてくる。


「いつ俺がお前の匂いを嗅いだんだっ。いい加減にしろっ!」


叶多はクロノに怒鳴った。


「わかった。覚えてないならもういい」


そう言い残してクロノはそこから消えたのであった。



自分の世界に帰って来たクロノ。


動かなくなった叶多を見て涙が込み上げてくる。


本体をもう一度召還したら、初めは怒鳴るかもしれないけど、またお前を好きになる。


手紙にはそう書いてあったけど、自分が好きな叶多はこのカナタなのだ。


「カナタ、目を覚ましてよ・・・」


クロノは動かないカナタに抱きついて離れようとしなかった。もしかしたら本体のいる世界の時間を止めたら目を覚ますんじゃないかと思い、時間を止めてみる。


が、叶多は動かない。


クロノは動かない叶多にずっと抱きついてそのまま過ごす事にしたのであった。





エスタートでは魔王討伐パレードが開催れていた。


「勇者トーマス、勇者シンシアバンザーイ」


街中の人達から感謝され、祝福されるトーマス達。


宴会が開かれ、みな大喜びで騒いでいた。


「エリナ、どうした?」


「ううん、なんでもないわ」


一人悲しげなエリナ。


カナタくん、ごめんね・・・


「エリナ、なんか言ったか?」


「いいえ、何も言ってないわ」



トーマス達は三日三晩続いた宴会が終わり、ベリーカの家に戻って来た。


「ねぇ、ギルマス。女神様はもう来ないつもりかな?」


「魔王がいなくなったからな。もうここに来る必要ねぇだろ?」


「そうだね」


「どうした?」


「なんかちょっと寂しくて」


「まぁ、そうだな。俺もなんだか寂しいわ」





フランク達は護衛クエストを受け移動をしていた。片道2日の道のりだ。

目的地まで着いて宿の大部屋に泊まっている。数日ここに滞在して帰りも護衛だ。


リズはコソコソと隠して着替えている。


「どうした?」


「テトラ、み、見んなよっ」


「お前が隠くしたからなんかあったかと思うだろうが」


「だから、着替え覗くなって言ってんだろっ」


ガスッ


「この前まで俺達の前で着替えただろうがっ」


「うるさいっ!見んなっ」


「どうしたのよリズ?普通の女の子みたいなことして?」


「エルメスもうるさいなっ。あいつが・・・」


「あいつって誰よ?」


「あれ?誰だっけ?」


そして、風呂から出て街を出歩くのにワンピースに着替えた。


「それ着ていたら女に見えるよな」


「私は女だっ!これを買ってくれた・・・」


「誰に買って貰ったのよ?」


「エルメス、これ買ったのエスタートだよな?」


「そうよ」


「どうしてエスタートになんか行った?それに自分で払った記憶がねぇ」


「トーマスが連れて行ってくれて払ってくれたんじゃない?」


「そうだったっけ?」





「リンダ、元気を出せ。結婚する前にわかっただけでも良かったじゃないか」


「うん、父ちゃんありがとう。もう大丈夫だよ」


「そっか。あいつに嫁さんがいなかったら良かったんだがな」


「あいつ?誰のこと言ってんの?」


「え?あ?トーマス?」


「なんで、あんなオッサンの話が出てくるのよ?」


「そういや、そうだな」 




「シンシア、ちょっとゴーレンに行ってみるか」


「うん。リズ達どうしてるかな?」


「魔王討伐の話を聞きたいかもしれんからな」


と、トーマス達はゴーレンギルドに向かった。



「あいつらなら護衛に出てるから数日戻らんぞ」


「そうか、なら出直す」


「それよりよ、これを仕入れて来てくれよ」


「俺がか?」


「あれ?いつもお前が・・・あれ?」



「おっ、トーマス。来てたのかよ。とうとう魔王を討伐したんだってな。さすがだぜっ」


「おう、フランク。お前らはここに居たか。まぁ、討伐ったってな、魔族もやたら少なかったし、魔王も弱っててな。拍子抜けした感じだ」


「おーおー、魔王相手に拍子抜けとは勇者は言うことが違うぜ」


「勇者?」


「あれ?英雄だっけか?」


トーマスはふとなぜ自分がワープスキルと勇者スキルを持っているのか疑問に思いだした。


あ、女神に魔王討伐を依頼・・・されたか?


いや、エスタートでスキルを付けて貰って魔王討伐に行ったんだ。そうだったな。



叶多と深く関わった人々はふとした拍子に違和感を感じるがそれ以上は考えてもわからなかった。



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