魔族討伐
「少し、魔族領と似た感じがするね」
「そうだな。もういつ襲われてもおかしくないから気を付けろ」
と、トーマスに言われて気を引き締める。この世界に来た一番初めの地が魔族領だったのであまり違和感がないが、フランク達は違和感ありまくりのようだ。
「ここ、魔力が多いな。力がみなぎってくる感じがする」
と、リズが言うとシンシアもエルメスもうなずく。魔法使いにはそういうのが分かるようだ。が、力がみなぎると同時に気分も悪くなるとも言う。魔力過多ってやつなのかもしれない。
斥候のニックが戻って来た。
「魔物がうじゃうじゃいやがる。どうする?」
「どうするもこうするもねぇよっ!来やがったぜ」
とニックが戻ってくるや否や魔物達が襲ってきた。朝っぱらからこんなに活発に動くとはなと言いながらナタリーと魔物の群れに突っ込んでいく。
リズとシンシアが魔物の中心に魔法を打ち込んでフランク達を援護する。
トーマスはフランク達が打ち漏らした魔物をこっちへ近付けないように倒す。
叶多は出番がないからクロノを背中にやり、襲撃に備えながらフランク達に合わせてジリジリと前進していく。魔物達がやってくる方角が魔族の住処なのだ。
最前線のナタリーが疲れて来たらニックと入れ替わり、フランクはトーマスと入れ替わる。初めての共闘なのに阿吽の呼吸だ。もしかしたらトーマスが指示を出しているのかもしれない。
魔物が減って来たところで離れかけた叶多達はぐっと集まって魔族の所へ行こうとした瞬間にドドドドドっと上空からクロノ目掛けて火の玉が飛んで来た。
「逃げろっ」
テトラが叫ぶがこんなの逃げようがないのでゲートを出して吸い込む。
「こっちは大丈夫。テトラはリズ達を守って。対魔族になるから後方をお願い」
と叶多達は真ん中に位置取る。恐らく魔族はクロノを執拗に狙うだろう。
叶多はクロノを抱き上げて魔族の襲撃に備えた。
と、魔族が上空から現れて火の玉をバンバンと打ち出した。敵が上空にいると皆は手出し出来ない。
「おいフランクっ!飛べるなんて聞いてねーぞっ」
魔族が姿を表した時に周りからも魔物が出て来て完全に方位されてしまった。
「カナタ、退避だっ」
「今、ゲートを開けたらゲートの中に魔物もなだれ混んでくるっ。魔物はお願い、魔族は俺がやる」
と、叶多は皆からドンッと離れた。
これで、魔物も魔族もこちらに来る。トーマス達は魔物を背後から攻撃出来るはずだ。
思った通り、魔物も魔族も離れた俺達を追う。
上空からの攻撃はゲートで防いでいるが新たな魔物が出て来たら両方の相手をしなければならない。
落としてキャンセル、上空からの攻撃を吸ってキャンセル。なかなか魔族への攻撃を仕掛けられない。
「クロノ、スピードをあげるからもっとしっかり捕まってて」
しかし執拗にクロノを狙う魔族に叶多はだんだんとムカついてくる。
そして、火の玉の軌道を変えて上下左右からの攻撃に変わったあと、一発が足元に着弾した。
「熱っ」
クロノが声をあげた。
「このクソ野郎っ!クロノに何をしやがるんだっ」
一気に髪の毛が逆だって殺気が溢れた叶多。ゲートを出して、魔族のすぐ近くにワープしてそいつを蹴り飛ばした。落ちる所にゲートを出して着地。
地面に落ちた魔族を首だけ出る様に罠に嵌めた。
「クロノ大丈夫か?」
「うん、平気」
「もうちょっとだけ我慢してくれ」
叶多はそう言って魔族を首だけにした。顔をよく見ると漫画でよく見たようなレッサーデーモンみたいなやつだった。
トーマス達がまだ魔物と戦ってくれてもいるので、反対側にゲートを出しておいて、クロノの足にポーションを掛けた。
「もう、大丈夫だって言ってるのに」
カナタはフーッ フーッと殺気を落ち着けて行く。
「こうしてたら大丈夫?」
と、クロノが首元に手を回して抱きついてきたので、叶多もぎゅぅと抱き締めて元に戻っていった。
「おいおい、人に戦わせておいてこんな所でイチャつくなよ」
と、フランクが呆れてそういう。魔物も片付いたらしい。
「あー、ゴメン。こいつがクロノに火傷させたからキレちゃって」
と、魔族の首をゴンっと蹴った。
「あぁ、見てたぞ。空中にもワープ出来るんだな」
「見える範囲ならね」
もう何もいなさそうなので、警戒しながら魔族の住処に行くとお宝は何もなくがっかりするフランク達。
戻って魔物の討伐証明を剥ぎ取り、デスボアは持って帰ると言うので荷車を取りに行って何往復かした。
「うぉぉぉおっ。お前ら本当にあの魔族を討伐したのかよっ」
と盛り上がるゴーレンギルド。
魔族の討伐報酬は金貨500枚。クロノの分はいらないといったが、パーティで山分けと言って聞かないので、魔物討伐分は放棄した。クロノと二人で暮らすにはもう十分なお金があるのだ。クエストの報奨金だけでいい。俺達の目的は金じゃないからね。
「じゃ、魔物討伐の金で祝杯あげようぜ」
「どこにする?」
「ここだと皆にたかられるからベリーカかハポネにしようぜ」
とフランクが言うのでベリーカに移動した。今日は肉が食いたいらしいからね。
ベリーカの街の食堂に行く。俺は初めてだけどトーマス達は何度か行った事があるらしいお店だ。肉を自分達のテーブルの鉄板で焼くスタイルだ。お好み焼きとか出来そうだね。
かんぱーい!
皆はビール。俺とクロノとシンシアは発泡ワインだ。
「やっぱ、魔族討伐はカナタがいるとなんとかなるもんだな。一撃で首チョンパだぜ」
とニック。
「いや、幹部とか魔王みたいな威圧感が全くなかったから魔族の中でも弱いほうなんじゃない?」
「あれで弱いのか?」
「多分ね。一度魔王を見に行って見る?」
「ば、ば、ば、馬鹿言ってんじゃねー!」
そうだよね。ひょっとしたら魔王討伐を皆が手伝ってくれるかと思ったけど、無理だよなぁ。トーマス達はどうすんだろ?
鉄板焼きをジュウジュウしながらそんな事を考える。
パチっ
「熱いっ」
油が跳ねてクロノに飛んだ。
「大丈夫か?」
と叶多はポーションをかける。
「カナタ、過保護過ぎるんじゃね?そんなのツバ付けとけば治るだろ。低級でもポーションってそこそこ高いのに」
とリズに言われる。
「だって女の子なんだぞ?」
「はぁ。私なんか傷だらけだっての。こんなの傷のうちに入らねぇってエルメスも治癒掛けてくれねぇってのに」
「それぐらいで掛けてたらいざと言うときに魔力不足になったら困るでしょ」
エルメスの治癒魔法は上級ポーションと同じぐらいの威力があるらしく、細かい傷には勿体ないそうだ。
でも俺はクロノに痛い目を味あわせたくないので、小さな傷にも使うのだ。
「まぁ、女神さんに傷一つ残したくないってのはわからんでもないな」
「テトラ、なんだよそれ?私の時はツバ付けとけとかしか言わない癖に」
「お前はそれで治るだろ?」
「そういう問題じゃねぇっ。お前らがカナタみたいに優しくしてくれてりゃ、私ももっと女らしくなってたんだよっ」
「お前、初めっからそんなんだったじゃねーか?」
「うるさいっ」
相変わらず仲良いな。
二人の元気なやり取りを見ながら初めて牛タンというのを食べてみる。旨いなこれ。
「カナタ、それ何?」
「牛タン。牛のベロだよ」
と、ベェと舌を見せる。
「いらない」
と嫌そうな顔をしたので、口の中に牛タンを入れてやる。
「なっ、何すんの・・・よ。ムグムグ」
「な、旨いだろ?」
クロノは牛タンを食べだした。
一息付いた所でトーマスとフランクの所に席を移動。
「トーマス、フランク。ちょっと聞きたいんだけどさ」
「なんだ?」
「どこまで俺に付き合ってくれるつもり?」
「どういう意味だ?」
「ほら、最低限魔王から神器を取り返す。で、あわよくば倒す。これが俺のやらないといけないこと」
「そうだな」
「で、トーマスはそれに向けて鍛えてくれてるじゃん。魔王討伐まで付き合ってくれんの?」
「俺はそのつもりだがな」
と、トーマス。
「カナタ、魔王ってどれぐらい強いんだ?」
「ん、見ただけで震えが止まらない」
「なんだよそれ?」
「見た目も怖いんだけどさ、威圧感っての?対峙した訳でもないけど、チラッと見ただけで震えが止まらなかった。まぁ、この世界に来た日のことだから今ならもう少しマシかもしれないけど」
「そんなに怖いのか。自分で体感しないとわからんな」
「今度、見に行って見る?見て逃げるだけならなんとかなると思うから」
「そうだな」
と、トーマスは返事するがフランクは考えている。
「フランクは今日のでAに上がるんだろ?」
「多分な」
「なら、魔王討伐は付き合わなくていいよ。その代わりといっちゃ何だけど、エスタートでクロノを守っててくれない?」
「おい、カナタ。女神さんを連れて行くんじゃないのか?」
「そう思ってたんだけどね、今日の魔族相手に火傷させちゃっただろ?魔王相手に連れて行くわけにはいかないなあって。どれだけ鍛えても危ないし、魔族や魔物はクロノを狙う。守り切れない可能性が高いなと思ったんだよ」
「女神さんとくっついてないと、その防具の効果は発揮しないだろ?」
「まぁね。でもクロノの安全が最優先なんだよ。そのうち神器取り返してくきたらさ、トーマスが勇者になってくれない?」
「は?」
「ほら、俺の能力と勇者の能力があれば確実に倒せると思うんだよね。神器を取り返せたらクロノもあいつらから勇者スキルを取り戻せるから。俺単独でやるより確実だろ?」
「そりゃそうだが・・・」
「ということで、宜しくね」
叶多は勇者スキルを取り戻すには元の世界の時間を動かす必要がある事を言わなかった。元の世界の時間が動く=今の自分が消えるとかもしれないことを。