トーマスもまた
商業ギルドでディックの事務所を教えてもらい、トーマスの家の建築をお願いする。
「このクラスの建物は2年は掛かるぞ」
「酒があったら?」
「10ヵ月でやってやる」
素晴らしい。
「あんなところで飲み屋をやるのか?」
「暇つぶしよ、開いてない日も多いかもしれないけど」
「道楽か?」
「そ、そんな感じ」
厨房の設備は除いて金貨30枚〜40枚くらいで出来るらしい。トーマスは問題ないと言っていたので貯蓄たくさんあるんだろうな。
早速工事に取り掛かるということで職人達を集めてくれるらしい。
そして翌日からトーマスによる地獄の特訓が始まった。
叶多は基礎体力というのが全く足りないとの事で走り込みと筋トレをやらされる。レベルが上がったとはいえ、ようやくこの世界の並より少し上ぐらい。これをA級並に伸ばしてやるとの事。
シンシアも同じく基礎トレ。魔法使いなんだからそんなに体力必要ないとゴネたシンシアは余計にしごかれていた。
「もうダメだっ。そう思ってからが本当のトレーニングだ。倒れるなっ、そこから全力疾走だ」
こいつ、本当に鬼だ。中学の理不尽な部活のしごきより酷ぇ。
「ほら、ほら。疲れて倒れた時に女神さん襲われっぞ」
「クソっ」
そうだ。クロノが危ない時に疲れたとか言ってられない。
「うぉぉぉおっ」
毎晩、筋肉痛だ。肉離れとか筋を痛めたらポーションを飲まされトレーニングが続く。帰って飯を作る気力も無いので、トーマス達の宿で飯を食って帰る日々。酒も全く飲んでない。
家に着くとジェット風呂で身体をほぐしながら寝てしまいクロノに起こされたりしている。
「カナタ、大丈夫?」
「もう寝る」
と、叶多は自分の寝室に行って爆睡する。クロノがこっそりと布団に潜り込むと叶多は抱き締めてきて時々クロノの名前を呼びながらポヨンを触ったりする。
初めは驚いだけど、無意識のようだ。
恥ずかしいけど、触られても嫌ではない。というか夢の中だと自分にこんな事をしてくるのだと思うとなんか嬉しい気がする。
朝起きると叶多にはその記憶がない。
そんな生活が一ヶ月続き、武器が出来た頃に武器屋に行った。
防具の見た目は簡易的に物に見えるけど、機動力重視で軽く、魔法防御もしてくれるものらしい。
「坊主にはこれじゃ」
腕の防具と拳の防具も追加されている。
「一瞬でも守られたら、あのスキルとやらがあるから大丈夫じゃろ。それとこの靴と防具には仕掛けが施してある」
「仕掛け?」
「それは後で試せ。で嬢ちゃんの武器はこれじゃ」
「何この棒みたいなのは?」
「嬢ちゃん、これを握ってみろ」
とクロノに持たせる。
「こいつに魔力を流せば伸びる」
「魔力なんてどうやって流すの?」
「お前は魔力メーター吹き飛ばしたじゃろ。あれと同じじゃ。これが伸びるイメージを強く持って伸びろと念じろ」
と、クロノは棒を持って念じた。
ギュイイイイッン
物干し竿のように伸びる棒。
「これだけじゃとただの丈夫な棒じゃからの、先から雷が出るようになっておる。ほれ、嬢ちゃん。先から雷が出るイメージを持って念じろ」
ビシャンっ
「うむ、上手く行ったの」
「これ凄いね」
「この嬢ちゃんの魔力は底なしみたいじゃからの。嬢ちゃんぐらいしか使えんじゃろ」
「シンシアでもダメ?」
「伸ばすのは可能じゃが、雷は一発打ったら魔力が根こそぎ無くなるぞ。試すなら試してもいいがな」
シンシアは魔法使いのアイディンティティを掛けて やってみたいとの事で、やってみるとその場でヘタリこんだ。
「な、戦いの場で魔力が根こそぎ無くなったらそれでしまいじゃ」
全身の力が抜けて立てないシンシア。
トーマスが抱き上げて椅子に座らせる。
「で、坊主の仕掛けじゃが、まず何もせずに走ってみてくれ」
毎日走り込みをさせられている叶多はソコソコ脚力が上がっていた。
「普通じゃな。で、お前は嬢ちゃんを守りながら戦うんじゃろ?嬢ちゃんを抱き上げて走ってみろ」
と言われたので叶多がクロノを抱き上げて走る。
「うわっ」
足にエンジンが付いたかと思うぐらいの爆発力で走れる。
「そいつは嬢ちゃんの魔力を吸って威力を出す。別に嬢ちゃんが坊主のどっかに触っとればいいが、走ったりするのには抱き上げるかおんぶしなきゃならんの。腕の防具も範囲を超えて防御出来るから、立ち止まって防御体制なら後ろに攻撃はいかん」
「これ凄いね」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
「いくら払えばいいかな?」
「お前らの装備の金はいらん。お供えじゃ」
「いやいや、そんなわけにはいかないよ」
「構わん。ワシの武器で魔王を倒したとなったら、それはこの世界でワシの武器が一番じゃという証じゃからな。頑張って倒してくれ」
というわけで装備一式を貰ってしまった。
今日はシンシアがもう使い物にならんということでお休みに。
皆を宿に戻してから、ベリーカの飲み屋、商業ギルドに注文を取りにいく。月イチで顔を出さねばならないのだ。また酒の注文と荷車の注文を受けたのでドワーフの国にへ。続いてハポネでも酒を仕入れて、あちこちへと飛び回る。
「休みじゃないよねこれ」
と言っても仕方がない。最低限の商売はしないといけないのだ。
ヘトヘトになって宿にご飯を食べに行くとシンシアが身体的疲労も重なってダウンしていた。
「大丈夫?」
「魔力はだいぶ復活したんですけど、身体中が痛くて。カナタさんは平気なんですか?」
「毎晩、ジェットバスでグボボボとしてるからかな。始めた頃より随分とマシだよ」
「ズルいです。私はこんなに痛いのに」
どうやら、長期間宿暮らしなので、グレードの低い部屋らしく、風呂もシャワーだけのようだった。
「ジェットバスに入りに来る?」
「いいんですかっ?」
「うちで身体ほぐしてから寝るとマシだと思うよ。明日からまた特訓だし」
トーマス達はどうする?と聞くとうちは狭いから遠慮しとくと言われた。エリナと二人でゆっくり飲みたいとかもあるかもしれない。
「カナタ、シンシアに変なことしようとは思ってないでしょうね?」
クロノがそんな心配をする。
「するかバカッ」
と、シンシアを家に連れて帰り、風呂の使い方を説明する。
「俺達飲んでるからゆっくり入って来たらいいよ」
そういうと着替一式が入ったカバンを持って風呂にいくシンシア。
「飲むの久しぶりだね♪」
「お前は宿の飯の時に飲んでるだろ?」
「二人で飲むのが久しぶりなの」
「そう言われたらそうだよな。特訓が始まってから飲んでないわ。それどころじゃなかったからな」
缶詰を開けて、それをつまみに飲むな二人。
ん?いつまでたってもシンシアが出て来ない。
「クロノ、シアちゃん寝てないか見てきてくれない?」
と、クロノに見に行かせると寝ているらしい。流石にシンシアを抱き上げて拭いてやるわけにもいかないので、クロノに起こさせる。
シンシアは起こされてようやくパジャマに着替えて出て来たがもうフラフラだ。
「このままここで寝る?」
「うん」
もう寝かけた子供と変わらん。そのままふらつくので抱きかかえて、自分のベッドに寝かせた。
「触ったでしょ?」
「ベッドに連れてっただけだ」
「まさか、あっちで寝るつもりなの?」
「そのつもりだけど?」
冗談でそういうとめっちゃ膨れるクロノ。
「クロノが一緒に寝てほしいならクロノと一緒に寝てもいいぞ」
叶多はクロノが毎晩の様に布団に潜り込んで来ていることをしらない。クロノは叶多が目を覚ます前に自分の寝室にこっそりと帰っているのだ。
「じゃ今夜は暖かいね」
といきなりご機嫌のクロノ。
風呂に入る前にトーマス達の所に行き、シンシアが寝てしまったので、そのまま泊めると伝えに行った。
(カナタ、シンシアに手を出したら責任問題になるからな)
(クロノもいるのにそんなわけあるかっ)
冗談だと言われたけど目が笑ってなかった。父親の目だなあれ。
家に戻ってクロノに先に風呂に入らせてから自分も入り、ダブルベッドで寝る。
叶多は端に寄って寝るが寝静まった頃にクロノはいそいそとくっつきにいったのであった。
ーその頃の宿屋の食堂ー
「シンシアはお邪魔虫しにいったのかしら?」
「いや、相当疲れてたからな。単純に寝ちまったんだろ。あの風呂気持ち良さそうだからな。今よりまで風呂なんて身体を洗う為のもんだと思ってたがよ。あのハポネの宿で違うとわかったぜ」
「そうね、あそこのお風呂気持ち良かったわ。今度二人で行く?」
「やめろっ。また魅了掛けて俺を弄ぶつもりか」
「あら、弄ばれて幸せそうだったじゃない」
「うるさいっ。昔話すんなっ」
「つれないわね。結局何もしなかった癖に」
「うるせぇな。お前が魔族だと知ったらそんな事をするわけないだろうが」
「へぇ。それでも助けてくれたのに?」
「魔族であろうとなかろうと、エ、エリナはエリナだからな。たとえ魅了だったとしても一度惚れた女をほっとけるわけないだろっ」
「ふーん。ならお礼もしてなかったし、シンシアもいないし、しとく?」
「馬鹿言うなっ!俺はお前と違って寿命があるんだ。責任も取れん事をするか」
「そんな事を言ったのトーマスだけよ。他の男は・・・」
「聞きたくないわっ、そんな話」
「トーマスだって娼館に行くじゃない」
「当たり前だ。あれは一種の契約だからな」
「なら、私にもお金払う?」
「お前に金払ってやるとか嫌なんだよっ」
「もうっ、難しいわね。カナタくんといい、あなたといい」
「男はそんなもんなんだ。それより魔王を倒したらお前も自由になれるだろ?」
「魔王が倒されたら私は消えちゃうかもね」
「消えるわけないだろうが。魔王がいなくなって魔族と人間が争う必要がなくなったら、お前みたいな魔族が増えて生きやすくなるだろう?」
「そうね、そうなるといいわね。じゃ、魔王を倒したらお祝いにする?」
「やらんと言ってるだろがっ」
トーマスもまたエリナに対して我慢の神であった。
ー叶多の家ー
朝起きて簡単な朝食を作ってるとシンシアが起きてきた。
「ご、ごめんなさいっ。私寝ちゃったんですよね?」
「よく眠れた?」
「はい。あんなにダルかった身体がとてもスッキリしています」
「なら良かった。家が出来るまで疲れたら風呂に入りに来てもいいよ」
「ありがとうございます」
と、この日からちょくちょくとシンシアは遊びに来るようになったのであった。