雷鳴
「エリナ、みんながいるのにそんな冗談言うなよっ」
「あら、本気よ。間違いが起こるよりいいんじゃない?」
「スッキリするってなに?」
「クロノさんはわからなくてよろしい」
クロノは上機嫌でフンフンと鼻歌を歌いながら身体を揺らす。それがまた刺激を与えるので叶多は少し腰を引くが、クロノはお尻が暖かいのが嬉しいのかままたくっついてくる。
エリナの言う通り本当にまずいかも。
ええーい、飲め。ぐでんぐでんになるまで飲んでやる。
煩悩を振り払うように飲む叶多は酔っていく。
「カナタ、お前結構飲めるタチなんじゃの?」
とザイルが注いでくれる。
「おうっ、今日は飲むっ」
「ガッハッハっ。いい飲みっぷりじゃ。火酒もいいが、ここの酒も旨いの」
「おっ、そうだ。ゴードン、お前と飲み潰してやらんとダメだったんだ。部屋で飲み比べすんぞっ」
「ようし、受けてたつ。英雄に勝つにはこれしかないからなっ」
「よし、俺達も参加だ」
ドグもノリノリになってきた。
「カナタ、お前も参加しろ」
「ドワーフに勝てる分けないだろがっ。俺はゲームコーナーに行ってくるから勝手に飲んでて」
叶多は結構酔ってて、ご機嫌のクロノを肩ぎゅっと抱き、もう片手で酒を飲んでいる。会話に加われないシンシアは密かにクピクピと飲み、目が座っていっていた。
焼き蟹も食べ終え、部屋に一度戻る事に。
外に出ると寒い。
「カナタ、さむーい」
毛布を持っていってもいいみたいなので、クロノに毛布を着せておぶってやる。俺も背中が暖かい。
「私も寒いな」
「じゃ、私も寒いっ」
とシンシアとエリナも腕を組んできた。
エリナさん、わざとポヨンを押し付けて来るのやめて下さい。
ニヤニヤしてそんな事をしてくるエリナ。
シンシアも真っ赤になって同じ事をしてきた。
「トーマス、カナタはあれ耐えてんのか?」
「あぁ、拷問だろ?」
「可哀想に・・・」
ゴードン達は叶多の事情をトーマスに説明されていた。普通は羨ましいとか思うが、叶多に対しては同情しかでてこなかったのである。
部屋に戻ると蟹の鍋だけが残されており、雑炊はどうするか聞かれた。もうお腹いっぱいだけど、もちろん食う。蟹鍋の雑炊は天下一品なのだ。
腹がはちきれそうになり、食休みに寝転ぶ。そこにクロノもくっついてきた。
「クロノ、浴衣で寝っ転がるとパンチラすんぞ」
そういうと慌てて目の前に座る。
「カナタ、あれやりにいこっ」
アレとはエアホッケーの事だ。
「カナタくん、アレって何かしら?」
「エアホッケーっていうゲームだよ。一緒にやりにいく?他のゲームもあるし、売店で酒買えば風呂で飲めるよ」
じゃ行くとのことで、缶詰をつまみに飲み比べを始めたオッサン連中を放っておいて遊びにいく。
「ちょっと部屋に戻るから先に行ってて」
と、叶多はクロノを連れて部屋に。
「これを中に着とけ」
と、シャツとスパッツみたいな物を渡す。クロノに人前でポヨンもパンチラもしてほしくないのだ。
「着ればいいのね?」
と酔ってるクロノは浴衣を脱ぎ出した。
慌てて後ろを向く叶多。
「着たわよ」
「じゃ行くぞ」
と、ゲームコーナーに行くともうエリナとシンシアがカコンカコンしていた。
「勝負する?」
「ペアでするの?」
「クロノはハンディだよ。こいつありえない自爆とかするから」
と2対2で勝負することに。
カコンカコン
「食らえつ」
カション
「あーっもうっ。なんであれで自爆すんだよっ」
「うるさいわねっ」
次もカショッとなってスーッと真ん中に玉がいく。
「エイッ」
それをエリナが打とうと台に乗り上げる。
ポヨン
エリナがちょっぴりポヨンした。なんで下着付けてないんだよっ。
慌てて周りを見渡すと誰も見てなかったようでホッとする。
エリナはキャッと言ってたがこっちを見ていたのでわざとだ。あんたなんて事をしてくれんだよっ。
ひっひっふー ひっひっふー
エリナとそういう関係になりたいとかはないが本能的に反応してしまう。
ニヤニヤ笑ってなにやらコソコソとシンシアに告げている。
そしてエアホッケーはクロノの自爆で負けてしまった。
「さ、敗者には何をしてもらおっかなぁ」
「なんにも掛けてなかったろ?」
「あら、敗者は勝者の言うことを聞くものなのよ。それがこの世界の常識」
そう言って風呂で飲む用の酒を奢らされた。まぁ、元々俺がお金出すつもりだったからいいんだけど、エリナは奢りより戦利品の方がいいらしい。
ついでにジュースとかも買っておいた。
部屋に戻ると大声でガーハッハッハと笑ってるオッサン連中。宿の酒が無くなるんじゃなかろうか?
中居さんを呼んで、飲み放題とはいえこんなに飲んで大丈夫かと聞くと苦笑いをしていたので、明日は酒を持ち込んでいいか聞くと、どうぞどうぞと言ってくれた。二日連続でこんなんされたら商売上がったりだからな。
クロノはおねむのようなので布団を敷いて寝かせておく。
「カナタくん、ちょっと肩揉んでくれない?」
「なんでだよ?」
「敗者は勝者の言うことを聞くものよ」
「酒買っただろ」
「じゃ、これでおしまいにするから。今なら気持ちよくほぐれるんじゃないかなって」
と言われて揉む事に
「もう少し強くてもいいわよ。上からぎゅっと押してみて」
と言われたので立ち上がって中腰になる
ブッ
「ふふっ、えっち。いま見たでしょ」
「なんでそんなに胸元緩々にしてんだよっ」
「触ってもいいわよ」
「も、もう肩揉みも終わりっ」
「あら、残念」
と、スッと耳元にきて
「スッキリする?」
「しっ、しませんっ!」
あーっもうっ。俺をからかって遊んでやがる。
「カナタくん」
「なんだよっ」
「本当にそのうち間違いを犯すわよ。クロノか他の娘かわかんないけど」
「犯しませんっ」
「いい?こいうのはね、旅の恥はかき捨てって言うのよ。旅行が終わったら無かった事になるの」
そんなわけあるかっ。
「クロノとはそうなったら大変な事になるし、他の娘でも後腐れがある娘なら面倒臭いことになるわよ。その点、私はわきまえてるし、近くにいるからすぐ出来てちょうどいいんじゃない?」
辛かい半分、心配半分ってとこなのか?エリナの言う間違いを起こさないようにと言うのは正しいかもしれないけど。
「ご厚意だけ頂くよ」
「もうっ、頑なねっ」
「じ、じゃ私ならどうですか?」
シンシアが赤い顔をして聞いてくる。
「だってカナタくん。もう一人お嫁さんに貰ったら?」
「ダメです。シアちゃんはそんな事を言ってはいけません」
子供扱いされたシンシアはショックを受けていた。
もうここにいると危険なのでクロノを抱き上げて部屋に退散することに。
部屋に戻るとクロノがクスクスと笑いだした。
「なんだ起きてたのかよ?」
「うふふふふっ」
「なんだよっ」
「別にいぃ。二人で飲もっ♪」
と、冷蔵庫を開けると発泡ワインが入っていた。中居さんが気を利かせてくれたのだろうか?
さっきのエリナの辛かいで酔いが覚めて来たので飲む事に。今日はぐでんぐでんにならないとまずいのだ。
テーブルにナッツ類のおつまみも用意してくれてあるのでそれをつまみながら乾杯する。
元の世界と違ってちゃんとした暖房が無いので結構寒い。少し飲んで、風呂で温まる事にした。
「寒いだろ?風呂に入ってこいよ。でも寝るなよ」
「カナタは?」
「クロノが出てきたら入るから」
「じゃ、お風呂で飲もっ」
酔ったクロノは言い出したら聞かないので、灯りを消して風呂に酒を持って行った。
外はしんしんと雪が降っていて外のライトアップがそれを照らしている。雪を見ながら入る風呂っていいな。
クロノの方を見ないように外を向く叶多。
湯の中は温かいが、外に出ている部分は寒い。冬の露天風呂ってこんなんなんだ。
ぼーっと雪を見ながらそんな事を考えていると、頭の上にバシャッとバスタオルを乗せられた。
「ちょっ、ちょっとクロノさん。何をしているのかな?」
バスタオルを外した事に焦る叶多。
「大丈夫。水着着てるからこっち向いて」
と言われて振り向くと水着なんて着てないじゃないかっ。
「な、な、な、何やってんだお前はっ」
「今日、エリナのポヨン見たでしょ」
「あ、あれは事故だ事故っ」
「でも見たでしょ?」
「う、うん」
「だから上書き」
「は?」
「他の人のを見たから上書きしたのっ」
「お前、だいぶ酔ってるだろ?」
と、ボトルを見ると空だ。
俺がぼーっと雪を見ている間に一気に飲みやがったな。
「お前、自分で何やってるかわかってるか?恥ずかしくないのかよっ」
叶多は真っ赤になってそう言う。
「は、恥ずかしいから飲んだんでしょ」
「なら、そんなに無理してやるな」
「あのね、私の裸は綺麗なんだって。エリナが言ってた。カナタもそう思う?」
「そ、そんなにじっくり見てないしっ」
「じゃあちゃんと見て」
「だっ、ダメだよっ」
「どうして?エリナの見たじゃない」
「あれは見ようと思って見たわけじゃないからっ」
「でも見たよね?」
「そうだけどっ。クロノのを見て我慢出来なくなったらどうすんだよっ」
「大丈夫なんだって」
「大丈夫じゃないっ」
「初めは痛いけど受け入れられるんだって」
「は?」
「ちょ、ちょっと怖いけど、大丈夫なんだって。あんな風になるって知らなかったからちょっと怖かったんだけど、大丈夫だって言われたから大丈夫」
「も、もしかして俺を怖がってたのってそれ?」
「うん」
「いっ、いつ見たの?」
「前にお風呂で倒れた時に見ちゃった」
なんてこったい。まさか元気君を見られていたとは・・・。まぁ、一緒に暮らしてたら仕方がないのかもしれない。
「あのな、大丈夫って言っても、俺の言う大丈夫とエリナの言う大丈夫の意味は違う。俺が言ってるのはお前が元の世界に帰れなくなることを言ってんるだ」
「カナタは私とじゃいや?」
「だから違うって言ってるだろ?お前が俺とそうなっても元の世界に帰る事が出来るなら、とっくにそうなってるっ」
叶多は心のうちを吐露した。
「本当?」
「本当だっ」
「他の人とは?」
「考えた事もないっ」
「でも見たでしょ?」
「見たよっ」
「あんな風になった?」
「なった。でもあれは本能的な物で気持ち的なものじゃないっ」
「ならないで」
「勝手になるんだからしょうがないだろっ」
「じゃあ、私のを見たら?」
「なるに決まってるだろっ」
「じゃ見て」
そう言って叶多の顔を自分に振り向かせるクロノ。
その時、ピカッ ドーーーン
と雷が。
「キャァっ」
ムギュっ
突然の雷に叶多の顔を抱きしめるクロノ。
素肌のポヨンを顔に当てられた叶多はもうダメだった。
ビカビカと光り、ゴロゴロと鳴る雷。キャアキャア言いながら裸のクロノに抱きつかれた叶多はぎゅぅぅうとクロノを抱き締めだ。
ええいっ、もうどうなっても・・・
ゴロゴロ ドッシャーーン
「きゃぁぁぁぁっ」
はっ!何をやろうとしたんだ俺はっ。
大きな雷鳴とクロノの悲鳴で我に返った叶多。
キャアキャアいうクロノを抱き上げて、バスタオルを巻いて部屋に連れて行く。
危なかった。あの時に大きな雷が鳴らなかったらどうしてただろうか。
叶多はどんどん自分に自信がなくなっていっていた。