あんなのじゃなかった
風呂から上がっても顔の赤いクロノ。
「ほら、のぼせたんじゃないか?」
「だ、大丈夫。お、お休みっ」
と、クロノはそそくさと寝に行った。叶多はクロノの服を持ってこようかと思ったが、討伐に同行してたから血の臭いが移ってるかもしれないと洗濯した。
大丈夫だとは思うけど、クロノのバスタオルでももらいに行こう。
コンコンっ
「入るぞ」
「なっ、何か用かなかな」
なんだよかなかなって。ヒグラシか?
「ごめん、服洗ったからバスタオルもらえるかな?」
「ど、どうぞっ」
なんか変だな。やっぱり今日怖かったんだな俺。
「じゃお休み」
クロノはまだドキドキしていた。
もし、叶多とああなったらあれが私の中に・・・
どうしよっ、どうしよっ
クロノは一晩中ドキドキしていた。
翌朝も顔の赤いクロノ。
「湯冷めして風邪引きでも引いたんじゃないか?」
と、叶多がクロノのデコを触る。
ビクッ
あー、相当怖がってんな。ちょっとショックだけど仕方がない。
「クロノ、俺はゴーレンに行くからお前はエスタートのギルドにいてろ」
「えっ?」
「昨日の討伐の話もしないといけないし、場合によっては奪われた馬車と荷物の確認をしにいかないといけないし、動き回るからな。体調悪いならあそこでゆっくりしてろ」
と、叶多はクロノをエスタートに連れて行った。
「カナタさん、お帰りなさいっ」
「ただいまシアちゃん。悪いけどクロノを預かっててくんない?」
「どうしたんですか?」
「体調悪そうなんだよね。俺はゴーレンにいかないといけないし」
「ギルマス呼んで来ますね」
と、呼びに行き、トーマスに昨日の事を話した。
「勝手に依頼受けんなって言ってあっただろうが」
「成り行きでね。ゴーレンのBランクの人達と臨時で」
「まぁ、Bランクなら大抵のこと大丈夫だとは思うけどよ」
「俺達が活動しだしたら紹介するよ。いい奴らだよ」
「そうだな。そのうち連携出来そうなら連携してもいいかもしれん。で、女神さんを預かってたらいいんだな」
「後さ、もうすぐ家のリフォームするんだよ。一ヶ月ぐらい掛かりそうだからここに来ててもいいかな?」
「構わんぞ」
ということでクロノを預けてゴーレンに叶多は行った。
「女神様、神様って体調悪くなるんですか?」
「えっ、あぁ、うん。ちょっとね」
とクロノは誤魔化した。
「おはようフランク」
「お、いつものカナタだな」
「俺、昨日そんなに怖かった?」
「あぁ、別人だったぜ。あれ?クロノちゃんは?」
「体調悪そうだったからエスタートのギルマスに預けてきた」
「まぁ、賊の討伐現場にいたらしょうがねぇな」
「あの襲われた馬車とか調べにいく?被害者の身元分かった?」
「あぁ、隣町の商人と護衛だ。護衛は向こうで雇ったやつだったわ」
「もっと早く行けばよかったよね」
「タラレバの話は無しだ。ちゃんと遺体を持って来てやっただけ良かったってもんだ」
「賊はどんな奴らか分かったの?」
「いや、まだ調べ中だ。で、あの馬車の調査に参加してくれんのか?」
「そのつもりだったからいいよ」
「今んとこ依頼料でないぞ。その代わり荷は俺達が貰えるけどな」
「そうなの?」
「持ち主が死んだからな。こういう時は貰えんだよ」
そんなシステムなんだ。
「その代わりギルド職員が立ち会うが構わんよな?」
「大丈夫。荷物持って帰るなら荷車とって来るよ」
「あの荷車でいいぞ。どうせ全部換金だ。他の奴らはそんなの気にしねぇからな」
ということであの荷車で現地に向かう。ギルド職員はメガネのお姉さんだった。
ワープに目を白黒させながら現地に到着すると黒くなった血から異臭を放っている。
スーハー スーハー
叶多はクロノのスカーフで臭いを浄化する。
「何やってんだ?」
「ちょっと鼻がむず痒くてね」
と、馬車の荷を調べていく。運んでいたのは衣類とかのようだ。冬服を納品か売りにいくつもりだったのだろう。
他に無いか調べに盗賊どもが溜まっていた場所までいくと、テントみたいな物がいくつか並んでいた。
「こいつら流れの盗賊だな」
「流れ?」
「ある程度稼いだら移動していくんだ。衛兵やギルドに討伐依頼が来るのは女子供が拐われたり人を殺された時だ。普通は金目のものだけ奪って終わりだ。殺しをやると捕まるリスクが高くなるからな」
「でもこいつら殺したんだよね?」
「もうずらかる寸前だったんだろ。恐らく、ここでの初めの殺しはハンターと戦闘になって殺し、今回はもうずらかるからついでにって感じだな。殺されたハンターはさほど強いやつじゃなかったらしいからな」
「弱いから殺されたんじゃないの?」
「護衛は自分たちで敵わないと思ったら荷主に金目の物を出すように言う。荷主の命最優先だからな。が、今回殺されたって事は問答無用で殺られたのさ」
なるほど。
テント内を捜索してたら、貴金属類の入った箱を発見。これはかなりの高値になるらしい。
「カナタ、これクロノちゃんにやるやつ先に選ぶか?」
「いや、いらないよ」
こんな曰く付きの宝石なんていらない。
テントも売れるらしく、荷を積んで2往復。壊れた馬車は放置でいいらしい。ここは盗賊が出ますよ、という印にもなるらしい。
「お疲れ様でした。今回の荷から必要な分をお持ち下さい。残りは競売に掛けますので」
ギルドが手数料を取る代わりに代行して売ってくれるらしい。
「カナタ、これ分前どうする?結果出るのに時間かかりそうだ。賊も他で懸賞金掛かってるか調べるらしいからな」
「じゃあ今度会った時でいいよ」
「いつ来る?」
「ここへの納品とかあるから2週間ぐらいあとかな?」
「了解。じゃ、また頼むな」
ーエスタートギルドの宿舎ー
コンコンッ
「は、はいっ」
「体調どう?」
エリナがギルドの朝食タイムが終わった後にクロノにミルク粥を持ってきた。
「あ、大丈夫。ありがとう」
「ふふっ、クロノはカナタくんと一緒にいるようになって変わったわね」
「何が?」
「随分と素直になって、普通の女の子らしくなったわよ」
「初めから同じじゃない」
「もっとツンツンしていけすかない女だったわよあなた」
「そ、そんな事ないもんっ」
「まぁ、いいわ。これ食べられる?」
「うん」
クロノの好みに合わせて、少し甘めにしたミルク粥
「あ、美味しい」
「良かったわ。で、今回どうしたの?女神でも風邪引くの?」
クロノは少し迷って話をすることにした。
「え?見ちゃったって。初めて見たの?」
「前に一度チラッと見たことはあったけど、あんなんじゃなかったの」
「あー、なるほどね。初めて見ると驚くかもしれないわね。でもどこで見たの?襲われそうになったの?」
「お、お風呂で・・・」
「もしかして一緒に入ってんの?」
「バ、バスタオルも巻いてるしっ、中には水着も着てるしっ、時々だしっ」
「でもカナタくんは裸だったんでしょ?」
と、クロノはカナタが賊討伐で怖い叶多になって、それを元に戻そうとしたことを説明した。
「へぇ、あの食堂の時よりもっと怖いんだ」
「うん。髪の毛とか逆立って、動きも速くて、まるで別人なの」
「カナタくんが怖い?」
「ううん。でもいつものカナタの方が好き」
「へぇ。私は怖いカナタくんの方が魅力的に見えるかも」
「一緒にいたBランクハンターもちょっと引いてたぐらいなの」
「それは凄いかもね。カナタくんハンター業務なんてほとんどしていないのに」
「魔物討伐の時はあんな事にならないんだけど」
「そうなんだ。でも大丈夫じゃない?これからはギルマスもいるし、あいつが面倒見てくれるでしょ」
「うん。怖いカナタは私をぎゅっとしたらだんだん元に戻るの。でも今回前より怖くなってたから、驚かせたら元に戻るの早いかなと思ってやったら倒れちゃって、その時にね」
と状況を説明する。
「それ、カナタくんよく我慢強してるわね」
「そ、そうかな?」
「そりゃそうよ。そういうのは蛇の生殺しっていうのよ。カナタくん可哀想に」
「で、でもっ」
「分かってるわよ。どうしようもない事は。でもカナタくんの精神力には感服するわ。好きな娘が裸同然で目の前でそんな事されたらそりゃ倒れるわよ。ちょっと触ってきたりとかもないの?」
「ぎゅっと抱き締めたり、手を繋ぎに来るぐらい。それも怖いカナタになって元に戻る前の時だけ。それか、血の匂いがしてきたり、怖い夢で眠れない時」
「なるほどね、カナタくんはクロノにくっつくことで精神を安定させてるのかもね」
「そうなのかな?」
「そうに決まってるわ。男って内面はナイーブだからね。まぁ、クロノは自分を守ってもらってる分、カナタくんの心を守ってあげなさい」
「何をすればいい?」
「そばにいてあげるだけでいいわよ」
「わかった。ずっとそばにいる」
「でもね、あっちの方はなんとかしてあげないと可哀想かなぁ。クロノがずっとそばにいるから自分でも出来ないでしょうし」
「自分で?」
「あなたは知らなくていいわよ。今度私がなんとかしてあげようかな」
「なっ、何をするつもりっ?」
「ふふふ、ナイショ」
「なっ、何よそれっ」
「あ、二人が課題を乗り越えて一線を超えても大丈夫になったらどうするつもり?」
「そ、それは・・・」
「心配しなくてもちゃんとあなたの身体はあれを受け入れられるわよ。初めは痛いけどね。それもしばらくしたら痛くなくなるから」
「いっ、痛いのっ?」
「愛する人となら幸せの痛みってやつよ。楽しみにしてなさい」
エリナはクロノが何を驚いて何を心配してるのか手に取るようにわかった。かつての自分がそうだったから。