元気100倍!
朝から機嫌の悪いクロノ。
「何怒ってんだよ?」
「別に」
そんな会話をしながらベリーカの家に戻るともう昼過ぎだ。
仕事は明日からにして街へお買い物。
「何買うの?」
「食材。あとジュース。南国の酒そのままだときついし美味しくないだろ?ジュース買っておけば家で作れるじゃん」
と買い物をするがパイナップルジュースは無いのでオレンジジュースだけ購入。
それだけ買いに南国に戻り、夕食に魚とジュースと生のパイナップルをいくつか買った。
マヒと呼ばれる大きな魚をムニエルに。これ、シイラだよな?と思いつつ作っていく。
叶多は酒無しで食べる。
「飲まないの?」
「最近飲んでばっかだったからな。チョット飲まない日を作ろうと思って。ほら、元の世界じゃまだ飲めない歳なのにこんなに飲んでていいのかなって」
「こっちの世界だと成人してるんだからいいじゃない」
「お前は大丈夫かもしれないけど、人間はアルコール中毒って病気になるんだよ。だから飲まない日作らないとね」
そういった日から叶多はあまり飲まなくなった。クロノのもそれに付き合ってあまり飲まなくなり、風呂にも一緒に入らなくなってしまった。
クロノの服を持って寝るのはかわらないが抱き締めたりとかもない。仕事を頑張ってやり、またゴーレンでハンターの臨時パーティを組むことに。
「そろそろ始動?」
フランクとそう話す叶多。
「おう、今度は賊討伐だ」
「こっちにもいるんだね」
「そうだ。隣街との街道に商人を襲うやつが出だしてな、この前とうとう死人が出た。魔物も出る場所だからギルドに依頼が出てたから受注した」
「了解。明日出発?」
「いや、今夜出たい。いけるか?」
「いいよ」
「場所はこの当たりなんだけどよ」
と、フランクの地図と自分のマップを照らし合わせる。人の足で行くと1日くらいの場所だ。宿場町がなく元々盗賊に狙われやすい場所。みな護衛を雇うが、今回護衛ごと殺られたらしい。ゴーレンの護衛を殺るぐらいだから数が多いか強いかその両方だ。
「リズ達は?」
「他のクエスト受けてるから、俺達だけだな」
「わかった。後でまた来るよ」
叶多は仕事を終わらせて夕方ゴーレンに到着。
「さ、行くぞ。俺とナタリーが前衛で戦うから、後ろを守っててくれ。基本は俺たちがやるがヤバそうなら撤退かサポートを頼めるか?」
「了解」
細かな打ち合わせは不要。連携が取れるわけでもないので叶多達は守りに専念してくれとのこと。
現場に到着してフランク達は気配を探った。
「フランク、あっちから血の匂いがする」
「そうか、また誰か殺られてるのかもしれん」
そっとそちらに歩いて行くとより血の匂いがしてくる。叶多はクロノがいるから気分は悪くならないが殺気だっていく。
「カナタ、ここで待機していてくれ」
「いや、もっと近くまで行く。お前らが囲まれたら撤退も出来なくなるからな」
「女神さんが危ねぇだろ?」
「俺が命を掛けてでも守るから大丈夫。クロノには何もさせない」
ゴクッ
すでに臨戦体制に入っている叶多から出る雰囲気は強者その者。狩る側のそれだ。
「わ、わかった。なら頼む」
その雰囲気に飲まれたフランクはそう答えた。
少し歩くと壊れた馬車と血だらけの死体。もう少し早く来たら助けられたかもしれない。叶多の髪が逆だっていく。
クロノは叶多の腕にぎゅっとしがみつく。
「大丈夫だ。クロノは守るから」
と、その近くに人影が見えた瞬間、フランクとナタリーが突っ込んだ。
「なんだっ」
ザシュッ
ナタリーが斬りつけそのまま走り込み、フランクが声を上げる。
「うぉぉぉぉぉっ」
「襲撃だっ!」
戦闘開始だ。敵の方が人数が多いがフランク達は強い。フイを突かれた盗賊達は防戦体制になる。
叶多もそちらに走り込んで、逃げる盗賊を狩っていく。
「カナタはやる必要ないじゃないっ」
「逃したらまたコイツラは同じ事を繰り返す。逃がす訳にはいかない」
クロノを抱き上げた叶多はフランク達の所に走り込んだ。チラッと叶多を見たフランクは後ろを任せたという感じで前に専念する。
ヒュッという音と共に矢が飛んで来たのかフランクがそれを振り払う様に剣を振ったあと、横から賊が斬りかかってきた。叶多はそいつを空間に落として生首にする。次は大量の矢が飛んで来たので前面にゲートを出して吸収した。
「助かったぜ」
「5m前方空中ににゲートを出してあるから矢は大丈夫。横からは防げないから」
と伝える。賊は打っても打っても消えてなくなる矢に逃走体制に入った。
「フランクとナタリーは横お願い。前は俺がやる」
と叶多は前にワープして敵の近くに出た瞬間に一網打尽にした。この近くにはもう居ない。
フーッ フーッ
叶多は恐ろし顔をして獲物を倒した獣の様になっている。クロノはそんな叶多にしがみつく。叶多も抱きかえした。
「大丈夫か・・・」
フランク達が見たのは髪の毛が逆立ち、野獣のような顔をした叶多が女神を抱き締めている姿だった。足元には無数の生首が転がっている。
「カ、カナタ・・・」
フランクが声を掛けると叶多はフーッと息を吐き、逆だった髪の毛も元に戻った。
「大丈夫だった?」
「あ、あぁ。カナタも女神さんも怪我はないか?」
「大丈夫。この首持って帰るんだよね?」
「あぁ」
「殺られてた人はどうする?焼くの?」
「いや、誰が殺られたかわからんから出来れば遺体を持って帰ってやりたい」
「わかった。荷車取ってくるから悪いけど首集めお願いしていい?」
と叶多はギルドに預けてある荷車を取りに行った。食堂はまだやってるからそこに声をかけろとのこと。
荷車を取ってきた叶多はまず殺されたであろう人達を抱き上げて荷車に乗せる。
「この人達もギルドに運べばいいんだよね?」
「そ、そうだ」
なんの躊躇もなく血塗れの遺体を抱き上げる叶多。
「首も一緒に・・・」
「ダメだっ!そんな奴らと一緒に乗せるわけにはいかない。そいつらはまとめて乗せる」
被害者の遺体と一緒に首を乗せようとしたフランクに怒鳴る叶多。
そしてゲートに消えて行った。
遺体を乗せて血がべったり付いた叶多を見てギルドの食堂が騒然となる。
「食べてるところごめん。この人達はどこに運べばいいかな」
解体所の中に遺体を安置する場所に案内されたのでそこに抱き上げて寝かせていく。
「賊の首はどこに置く?」
「それはあっちにおいてくれ」
「了解」
戻って、首を積み、身体が残ってる賊を淡々と生首にしていく叶多。
「じゃ、戻ろっか」
4人はギルドに戻り首を置いた。
叶多は荷車に付いた血を洗い流して、その場で服を脱ぐ。
「悪いけど、これ捨てといてもらっていいかな?」
パンイチになった叶多はフランクにそうお願いして、また明日ねと言って帰って行った。
叶多はクロノを血の匂いが付くからとそばに寄せ付けず家に帰るとすぐに風呂に入りに行った。
その頃のフランクとナタリー。
「カナタってあんな恐ろしいの・・・」
「あぁ、まるで違う奴だったな」
二人はギルドの酒場でビールを頼んでいるがまだ緊張していた。叶多の放った殺気がまだ二人の身を強張らせているのだ。
「よう、お二人さん。上手いことやったな。えれぇ大量じゃねーか。あのカナタってやつ転移魔法の使い手なんだろ?俺らも頼もうかと思ってんだ。お前ら正式にパーティになったわけじゃねぇんだよな?」
「臨時だ。が、やめとけ。お前らならブルって動けなくなるぞ」
「は?あいつまだ新人の運び屋だろ?」
「いや、あいつは魔王を倒すやつだ」
「は?なんだよそれ」
風呂を貯めながらシャワーで身体を洗う叶多。
カチャ・・・
「おいクロノ入ってくんな。お前に血の匂臭いが付く」
「そんな臭いしてない」
「俺は水着も着てないんだぞ」
「私も着てないからあいこ」
そう言ってシャワーを浴びてる叶多の横に座るクロノ。
「ポヨンしたらどうすんだよっ」
叶多は目を瞑ってシャワーに打たれている。
「してもいいもんっ。何なら今バスタオル取ってあげようか?」
「ばっ、馬鹿なにいってんだよっ」
慌てる叶多。
良かった。少し元に戻ってきてくれた。
まだ叶多から少し出ていた殺気が収まっていく。
シャワーを止めてクロノが叶多に声を掛ける。
「カナタっ」
「なんだよっ」
「じゃーんっ」
バッとカナタの前でバスタオルを取るクロノ
「馬鹿っ何やって・・・。水着着てんじやねーかよっ」
「取ってもいいよ♪」
叶多は水着とはいえ明るい所でもろに半裸のクロノが目の前にいることで硬直する。
叶多にガン見されてると思ったクロノは急に恥ずかしくなり、手で水着を隠した。
「そ、そんなにマジマジと見ないでよっ」
ポテッ
その場で倒れる叶多。
「きゃーーっカナタっ カナタっ」
クロノは倒れた叶多の元気いっぱいの姿を思いっきり見てしまう。
あわあわあわあわあわっ。
真っ赤になって慌ててタオルを巻いてジャボっとジャクジーに入り、叶多に水を掛けた。
「冷てっ」
クロノは後ろを向きながら、
「カ、カナタの水着は扉の前に置いてある。あとお酒も」
「お前、俺を殺す気かよ。心臓止まったじゃねーかよっ」
と怒りながら出て水着を着てお酒を持ってきた。
叶多がお酒を注いでクロノに渡す。
「ほら」
「あ、ありがと」
クロノは叶多の方を向かない。
「そんなに恥ずかしいならあんな事すんなよ」
「ご、ごめんなさい」
素直に謝るクロノ。
「怒ってはないけど。俺が殺気だってるからあんな事をしたんだろ?」
「う、うん」
「悪かったな。自分でもわかってる。もしクロノがあんな目にあったらとかどうしても想像しちゃうんだよ。怖がらせて悪かったな」
「怖くはないけど、いつものカナタの方が好き」
「もう大丈夫だからこっち向いてくれよ」
「う、うん」
真っ赤な顔をしているクロノ。
叶多は少しも飲んでジェットバスに寝転んだ。
グボボボボボとジェット水流が叶多を包み込む。
見てはいけないと思いつつ、クロノは叶多の元気いっぱいだった所をじーっと見ていた。