べた惚れだからな
「年明けたらパーティ組むと言ってたがどんなやつだ?」
「今、エスタートって国のギルマスしてるトーマスって人」
「強いのか?」
「元Aランクって言ってたよ」
「まさか勇者とパーティ組んでたトーマスか?」
「あっ、そうそう。勇者達に捨てられたって言ってたけど」
「いや、勇者達は評判良くなかったから嫌気さして離れたって噂だがな」
「どういうこと?」
「勇者は強いけど女癖が悪かったらしくてな。強いからモテるし、遊んではポイをあちこちでやってたらしいぞ」
まぁ、いきなりクロノをものにしようとしたぐらいだしな。
「でも寄ってくる女の人なら問題ないんじゃない?」
「寄ってくるやつならな。困ってる村とかの娘を差し出させたりしてたって噂だ。金は強けりゃどうとでも稼げるから金じゃなしに女を要求してたったてわけだ」
これを聞くと亜空間に捨てて良かったのかもしれないな。と叶多の心の負担が少し軽くなった。
「しかし、現役を退いてギルマスになったのに復活か。エスタートって始まりの地と呼ばれるとこだろ?」
「そう。魔物もあまり出ないからハンターもしょぼくてね。クロノがギルドで拐わせた時に誰も守ろうとしなかったんだよ」
「ギルド内で拐われた?」
「こいつが蒔いた種なんだけどね、ジェイソンって知ってる?」
「ブラッディジェイソンか?Aランクじゃねぇか」
「そいつに拐わたんだよ。ギリギリ間に合ったから事なきを得たけど」
「お前がやったのか?」
「いや、魔族領に連れてって放置した。魔王を倒せるとか言うからさ。じゃあクロノが欲しかったら倒してこいってね。すぐにボロボロになったから連れて帰って助けたけど」
「無茶すんなお前。あいつ相当強いんだぞ」
「トーマスもそう言ってたね。俺は戦いなんてほとんど無い世界から来たから強さとか分かんないんだよね」
「まったくビビらなかったのか?」
「あいつを見る前に魔王を見たからね。魔王と比べたら全然怖くなかったんだよ」
「魔王を見たのか?」
「あぁ、見ただけで動けなくなったよ」
と、来た時の話をした。
「カナタ、年内は私達とパーティ組もうよ」
「商売があるから毎日は無理だよ。週2日くらいならいけるかな?」
「よし決まりっ。依頼受けまくって稼ぐよみんなっ」
「リズがリーダーなの?」
「うちはテトラ。フランクのとこはパーティというよりペアだからリーダーとかないんじゃない?」
「二人は夫婦なの?」
バッと赤くなるフランク。
「ちっ、違うわっ」
「カナタ、コイツ意気地なしなのよ。Aランクになるまではとか言いやがって。こっちがババアになるっての」
ナタリーはサバサバしてんな。
「そっちはみんな付き合ってたりするの?」
「付き合ってなんかないわよっ」
「パーティ内は恋愛無しってところが多いんだ。揉めて解散になることも多いからな。だからうちはペアなんだ。」
なるほど。
「エルメスは神官だけど、結婚は出来るの?」
「一応出来ますよ。神官の中には一生女神に仕える者も多いですけど」
「無駄な事するね」
「何よ無駄なことって」
クロノが自分を祀ってることを無駄と言われて怒る。
「だってお前ルルブ聖国って知らなかったろ?」
「知らないわよ」
「な、一生懸命祈りを捧げても届いてないんだよ」
「そ、そんな・・・」
「基本、こいつは自分勝手だからな」
「そっ、そんな事ないじゃないっ。心配してパジャマ掛けてあげたりしてるじゃないっ」
こら、いらんこと言うな。
「パジャマを着せるんじゃなくても掛ける?」
「カナタは私か私が身に付けてた物が無いと眠れないの」
言いやがったコイツ。
「お前もしかして女神さんの脱いだパジャマ嗅ぎながら寝てんのか?」
「嗅ぐというかまぁ・・・」
「変態だな」
と皆の声が揃った。
「ご、誤解しないでね。初めて人を殺した後から血の匂いがこびりついてるような気がして眠れなくなるんだよ。クロノがいるとそれが出ないから仕方がなくね」
「それって女神様が直接浄化してるとかですか?」
「浄化?」
「はい、神は悪しきものを浄化してくれると言われています。祈りを捧げた聖なる水を悪しき心とか悪夢を見る者にふりかけるです」
「クロノ、お前そんな力あるの?」
「知らない」
「でしょうね。ということで聖水も偽物じゃない?まぁ思い込みで治る事もあるから信じて効くならいいけど。それプラシーボ効果っていうんだけどね」
「なんですかそれ?」
「これはお腹痛が治る薬ですよと、名医が信じ込ませて小麦粉を飲ませたら治ったりするんだよ。多分それと同じ。クロノにそんな力ないからね。こいつは時間と空間を司る神だから。俺の能力はクロノの力そのものなんだよ」
「そ、そんな。聖国の教義が間違ってるなんて」
「それでみんな幸せならいいんじゃない?宗教ってそんなもんだし。信じる者は救われるってやつ?」
「で、でも・・・」
「クロノも問題ないだろ?」
「好きにすればいいんじゃない?これお代わりっ」
「肉はもういいのか?」
「硬いからもういらない。カナタのサンドイッチ頂戴」
あ、そうだ。
「ここ持ち込みして怒られない?」
「俺達は常連だから大丈夫だ」
ということでクロノにサンドイッチを出すとンアっと口を開けるので食べさせた。
「いっつもそんなんなのか?」
「もうコイツ酔ってるんだよ。その瓶一人で飲んだんだろ?」
「カナタって下僕なの?」
「違うわっ」
「それちょっともらっていい?」
リズはクロノが旨そうに食ってるサンドイッチに興味があるようだ。
「どうぞ。みんなの昼飯と思って持ってきたやつだから。簡単なサンドイッチだけどね」
「いっただき!」
ムグムグ
「うわ、うっま。なにこれ?」
「だからサンドイッチっていったじゃん」
「それはわかるけど、こんな旨いの初めてよ」
「たくさんあるから好きに食べていいよ」
どれどれとみんなも食べて絶賛する。この世界で食べる飯とそんなに変わらんのだが、シンシアもそんなのことを言ってたな。異世界マジックてやつか?
「カナタっ!家にご飯食べに行ってもいい?」
「別にいいけど、うち狭いんだよ。寝室とリビングしかないし、リビングにもベッド置いてるからね」
「どういうこと?」
「別々に寝てるんだよ」
「夫婦なんだよね?」
「一応ね。まぁ、この結婚はクロノを合法的に守る為のものだから。こいつは神で俺は人間。それにいつかは元の世界に帰らないとダメだし」
「カナタ、帰っちゃうの?」
泣きそうになるクロノ。
「まだ決めたわけじゃないけど、向こうの世界の時間を止めたままってわけにはいかないだろ?」
「いやぁっ。一人にしないでよっ」
グスグス泣いて抱き着いてくるクロノ。
「ごめん、こいつ結構酔ってるわ」
「なんだ、ラブラブじゃん」
「そう。べた惚れなんだよ」
「それで別々に寝てるって、男女の関係ないってこと?」
「そうだよ」
「お互いそんなイチャイチャしてんのに信じらんない」
「まぁ、そういう形の夫婦もあるってもんだよ」
「さすがは女神クロノ様の下僕なだけありますね」
「だから下僕じゃないって」
「これ、カナタが作ったんだよね?」
「そうだよ」
「商売やって家事もやってるの?」
「そうだよ。クロノは何もできないからね。別に苦にもならないからいいんだよ」
「理想の旦那じゃん」
「いい男だろ?」
「うん。私も嫁になろうっかな」
「いや、大丈夫。クロノ1人で間に合ってるよ」
「ちぇっ連れないの。これでも私、結構モテんだよ?」
「そうだろうね。可愛いし、話してても楽しいし」
と素顔に言うと真っ赤になるリズ。
「あ、あんた女ったらしだろ?」
「いや、この世界に来るまで女っ気はまったくなかったよ。ほとんどしゃべったこともないし」
「え?今いくつ?」
「17だよ」
「私とタメじゃん」
「へぇ、それでBランクって凄いね」
「魔法使いはどこのパーティでも誘ってくれるし、剣士とかより有利だからね。私、魔力多いから数打てるし」
「へぇ。俺にも魔法使えたらいいんだけどね」
「魔法は持って生まれた物が大きいからね。その歳で発動してないなら無理だと思うよ」
「だろうね」
「カナタよ、お前自分の能力とか女神さんの事ペラペラ話してたけど大丈夫か?」
「初めは隠して方がいいかなと思ったんだけど、変に隠すと探られたりするからね。商売するにも隠しとくの面倒になったんだよ」
「それで女神さんを利用しようとか悪いやつが来たらどうすんだよっ」
「クロノが利用される? それは無理だよ。クロノに近付く奴は俺がこの世から消滅させるから」
そう言った叶多からはゾクッとするような威圧が出ていた。
クロノは泣きながら寝て、叶多の肩にしなだれ掛かっていた。
「ごめん、クロノがこうなったら起きないから連れて帰るわ。また討伐行く?」
「し、しばらくは休みだ。今日でだいぶ稼いだからな」
「了解。じゃ、2周間ぐらいしたらまた来るよ」
「お、おぉ」
「リズ、うちに飯食いに来るなら風呂の工事が終わってからの方がいいぞ」
「風呂?」
「いいの買ったからね。俺のベッドで良ければ泊まって行くといいよ」
「さ、誘ってんのかよっ」
「バッカ、誤解すんな。俺はソファで寝るわ」
叶多はクロノを抱き抱え、帰って行った。
「あいつ、ひょろこいのに、女神さんの事になったらえれぇ威圧放ちやがんな」
「うん、ちょっとしびれちゃった」
「やめとけ、あいつ女神さんにべた惚れじゃねーか」
「だよねー。強い奴って、一途か女ったらしのどっちかばっかなんだよね」
「俺みたいにな」
「だったらさっさとAに上がっておくれ。もう待ってやらないからね」
フランクは結婚前からナタリーの尻に敷かれていた。