魔物一撃
翌朝スッキリと目覚めた叶多。
「クロノ起きろ。今日はハンター業務だからな。服もちゃんと着替えろ」
「もう朝?あれ、また一緒に寝たの?」
「ここ誰のベッドだ?」
「連れて来たの?」
「お前が先にここで寝てたんだっ」
「通りで暖かったと思った。うーん、よく寝た」
俺もだ。
急いで軽い朝食と、サンドイッチを作る。メンバー全員分いるよな・・・
と、簡単に出来るベーコンと卵、レタスのサンドイッチを10人分と余分に作り、水筒には紅茶を入れて出発。
ゴーレンのギルドに着いて納品してるとメンバーが集まってきた。
「じゃ行こうか」
「その前に注意事項な」
と、ワープゲートと亜空間の説明をする。
「閉じ込められたらどこに行くんた?」
「さあ?多分元の位置に戻るんじゃないかと思ってるんだけど、フランクかが実験してくれる?」
「やるかっ。そのまま閉じ込められてたらどうすんだっ」
「驚きだよね」
コノヤローとか怒られて出発。あまり他の奴らに知られたくないということで裏口に回りワープする。
「わっ、わっ、何もないっ」
魔法使いのリズがそう言う。
「あっちに赤く光ってるのが出口。俺があれに触ると緑になって外に出られるんだ。出口からは完全に出なければまた中に入れるけど、完全に出るともう入れないからね。逆に入り口は少しでも入るともう中に入るしかなくなるから」
「入り口見えねぇから怖いな」
「俺とクロノには見えるんだけどね。他の人は見えないみたいだね」
とすぐに出口に到着したので、皆から出てもらう。叶多は荷車と共に出る。
「本当にあの場所だぜ」
「俺はここで待ってる?それともそこまで一緒に行ったほうがいい?」
「お前ら二人で待っててデスボア来たらどうすんだよっ」
と言われ付いて行くことに
「カナタ、クロノは歩かないの?」
リズは呆れた顔をしている。
「こいつあんまり歩けないんだよ。すぐに足が痛くなるから」
「で、そうやってイチャ付きながら移動するわけ?」
「そうだよ。何も無いときはおんぶしたり抱っこしたりだね」
「うっわ、恥ずかしっ」
「もう慣れたよ。こいつ軽いから特に問題ないし」
「軽いったって私と身長変わんないじゃん。あんたのひょろこい身体して女おぶって走れんの?」
「大丈夫だよ」
「へぇ」
魔法使いのリズは人懐っこいのかよく喋る。なんか魔法使いのイメージじゃないよな。
「クロノさんが羨ましいですわ。そんなに大事にされて」
と、神官服みたいなのに身を包んでいるのがヒーラーのエルメス。
「エルメスってどっかの神官なの?」
「ハイ、ルルブ聖国の神官でした。魔物討伐のハンターになりましたけど、神官も出来ますよ」
「へぇ、ルルブ聖国っていうところがあるんだ。何の神様を祀ってるの?」
「女神クロノですよ」
「ブッ」
「ど、どうしました?」
「い、いや。こいつ、その女神クロノなんだよ」
「もうっ、同じ名前だからって惚気ないで下さいっ。聞いてるこっちが恥ずかしいですよ」
また俺の女神と思われてるのか・・・
斥候のニックが戻ってきた。
「いるいる。バッチリ寝てやがるからチャンスだ」
俺にはここで待てと言われたので、クロノと二人で見物。楽チンだね。
念の為、後側に大きめのゲートを出しておく。少し離れた森に斥候のニックが入り、フランクとナタリーが追い立てられたデスボアを横から襲い、少し離れた正面からリズが魔法攻撃、で、テトラがリズとエルメスを守るのか。
叶多は初めて見るパーティの連携をゲームみたいだなと見ていた。
ピイッと口笛がなったので合図だろうか?
ドドドッと足音が聞こえて来た。来るな。
横からフランクが斬りつけデスボアがそっちを見た時にナタリーが斬りつけ離れる。もうデスボアは血まみれだ。強いねあの二人。
ぐあぁっと暴れた所にリズの火の玉が飛んでデスボアが倒れた。
ザシュッ
フランクが首を切って終了。
あっと言う間だ。
テトラがズルズルとデカいデスボアを引きずって来る。力持ちだなおい。
そのまま持ち上げドサッと荷車に乗せた。
「あとどれぐらい乗せられるんだ?」
「ここに積めるだけ。上に重ねてくれれば何匹でも大丈夫だよ。それかギルドに毎度毎度運ぼうか?」
「なら、解体所に持って行ってくれ。新鮮なうちに血抜きしてもらった方が高値がつく」
「了解。じゃあ届けてくるよ」
と、叶多はデスボアを運んで10分程度で戻ってくる。
「もう運んだのか?」
「次から解体所に直で行くからもっと早く帰って来れるよ。頑張ってバンバン倒して」
「おうっ」
テトラもいい感じのやつだな。酒も強そうだ。
また口笛がなり同じパターンで狩る。単体だとまったく問題ないな。
あと3匹運んだ時に事件発生。
斥候のニックが走って森から出てきた。
「逃げろっ 群れが来るぞっ」
ドドドッと地響きがする。魔族領での事を思い出す。
バッと皆が集まり逃げるが俺たちの方に来ない。向こうで引き付けて倒すつもりだろうか?
その時にテトラが大きな声で叫ぶ。
「カナタっ 反対側に逃げろっ。コイツらは引き付けてやる」
森から10匹ぐらい出てきた。
フランク達を追うデスボアが急ブレーキをかける。
やっぱり。
デスボアはクロノに気付いたのだろう。一斉にこちらに方向転換して向かってくる。
「カナタっ!逃げてつ」
リズがデスボアの群れに向けて火の玉を打ってくれるがお構いなしにこちらに走ってくるデスボア。
「カナタぁぁぁっ」
フランクもこっちに来た。
「フランクっ そこでストップっ!」
と、叫んで大きなゲートを出す。
ドドドドドっとゲートにハマり身動が取れなくなったデスボア達。
「フランク、そこからこっちに来ちゃダメ。罠に落ちるよ」
と制止してから
「キャンセルっ」
バスン
「ぐぁぁぁぁっ」
と悲鳴を上げるデスボア達。
「もう大丈夫だから止め刺してあげて」
その場で足を失い血を吹き出した足をバタバタさせているのはさすがに可哀想だ。恐ろしい顔をしている魔物といっても動物と変わらんからな。
呆気に取られたみんなは留めを刺せと言われて正気に戻り、止めをさした。
「まだ狩る?」
「い、いや十分だ・・・」
3匹積んでは解体所、積んでは解体所に行き、最後は4匹積んで落ちて来ないようにテトラが押さえながら帰った。
解体所はざわついている。こんなにたくさんのデスボアが一度に持ち込まれたのは初めてなのだ。
解体所で荷車を洗って貰い、荷車も預かってくれるらしいのでお願いした。
「お疲れ。一日掛かると思ってたからお昼ご飯持ってきたけど半日で終わったね。これ食べる?」
「カナタ。ちょっと外に飲みに行くぞ」
とフランクに無理矢理連れていかれた。
「ありゃなんだ?」
なんかの肉の焼いたのが山盛りとビール。俺とクロノは発泡ワインにした。昼間っから酒?と思ったがもう終わりらしいのでいっか。
「ワープの応用。ああやって、入口にハマってる時にゲートが閉じると中に入ってる部分が消滅するんだよ。だからデスボアは足を失って倒れたんだ。もしかして足が無かったら値段下がるの?」
「いや下がらん。デスボアの肉は引く手あまただし、足はモモより下は捨てるトコロだからな」
その話を聞きながらデスボアの肉というのを食べてみる。
お、少し硬いけど旨みが濃いな。
クロノはいつまでも口をもちゃもちゃしているので、小さく切っておいてやる。
おい、クロノ、今噛んでるの出して俺に食わそうとするなよ。
「もしかして、賞金掛かってた賊を倒したの殺り方はあれか?」
「そう。首から下をゲートに落としてブチッて。仲間達はいきなり人が生首になるかからビビって逃走するだろ?そしたらもう勝ちパターン。ゲートは自分から5mぐらいしか先に出せないけどね」
「転移魔法はそんな使い方できないわよっ」
「魔法じゃ無いって言ってるじゃん」
「だって。あんなのズルいじゃんっ」
「俺は魔王を倒さないとダメだからね。何か武器が必要なんだよ。剣も魔法も使えないし」
「魔王を倒す?」
「うん、ここに来た時に、クロノが神器で魔王を倒したと思ったらそいつ魔王じゃなく幹部でね。その時に魔王に神器取られちゃったし、不慮の事故で勇者を元の世界に返しちゃってさ。神器を取り返すのと、魔王を倒すのを俺がやらないとダメなんだよね」
「はぁ?」
「クロノは女神なんだよ。実体化してるから今はただの女の子だけど。神器が無いと元の世界に帰してやれないんだよね」
「い、い、い、言ってる意味がわらんぞっ」
「とりあえず、こいつは女神で、俺は魔王を倒す。どゆあんだすたん?」
「行く時に女神だと言ってたのは自分の女神ではなくて、本当の女神様ってこと?」
「そうだよ。結婚してるから俺の女神でもあるけどね」
エルメスはばっとその場で臣下の礼を取る。
「知らぬこととはいえ、大変なご無礼をいたしました」
「エルメス、そういうのいいって。こいつなんにも出来ないんだから」
「でも・・・」
「別に何でもいいよ。カナタに手を出さなければ。これ、私のなんだからねっ」
「なぁ、カナタ。お前は何者なんだ?」
「こいつに勝手に召喚された異世界人ってやつ?違う世界から連れて来られたんだよ。こいつを移動させるためだけに。勇者が魔王倒してすぐに帰れる予定が今話した通り。戦闘能力もないのに戦わされるんだよ」
「そんな言い方しないでよ」
「まぁ、こいつを守ると約束したからやるけどね」
「本当に女神様なんだな?」
「そうだよ」
「信じられんがあのデスボアを倒したやり方は人のものじゃないからな。信じざるをえん」
「魔物はクロノに気付いたら一斉にこっち来たろ?こいつは魔物に狙われるんだよ。だからずっと一緒にいないとダメなんだ」
「あぁ、いきなりそっちに行ったからヤバいと思ったぜ」
「みんな助けてくれようとしてありがとうね」
「臨時とはいえパーティだから当たり前だ。防具も着けてない素人だと思ってたからな」
「防具合ったほうがいいかな?」
「当たり前だ。テトラみたいな重装備とは言わんがナタリーぐらいのは最低限着けとけ」
叶多はトーマス達とハンター稼業をする前にフランク達に色々と教えてもらうことにした。