マーキング
ようやく帰って来たトーマス。ほんの数分が何時間かに感じたよ。
「カナタ、エリナも来たいらしい。材料あるか?」
「余分に用意してあるから大丈夫だよ。遅くなりそう?」
「いや、とっとと客を追い払うって言ってたぞ。カナタに呼ばれてるから文句言うとしばかれるわよと言ってたからな」
なんてことしてくれてんだ。
叶多は電車での出来事を思い出す。
社内ではしゃいでる子供と若い母親。
「ほら、前のお兄ちゃんに叩かれるわよ」
なぜ子供を叱るのに俺を出汁に使うのだ?本当に叩いてやろうかと思ったよ。その母親を。
もう来るらしいのでカツを揚げていく。チーズイン、大葉巻き、玉ねぎ巻の変わり種も追加。全部揚げ終わった時にエリナがやってきた。
「お待たせ〜♪」
手にはワインボトルを2本持っている。
「お酒あったのに」
「ギルマスにつけとくからいいのよ。わっ美味しそう♪」
とエリナは座って自分でワインを注いでカツを食べ始めた。
「あら?チーズ入り?美味しいっ」
「大葉巻きと玉ねぎ巻きもあるよ。どれが当たるかお楽しみ」
どれどれと皆が食べ始める。お祭りの時の揚げ物を参考にさせてもらったのだ。
「大葉ばっかり当たるぅ」
シンシアは大葉ばかり当たってるらしい。チーズのが食べたいらしいけど。
多分これだよな?
自分で作ったからなんとなくわかる。端をかじるとやはりチーズだ。俺、大葉のが食べたかったんだよね。
「あっ、カナタさんのチーズだ」
「かじっちゃったけど食べる?もしかしたらチーズがこれで最後かも」
「えっ、あじゃあ」
と口をあけるのでそのままシンシアの口へ。
「ちょっと、何してんのよ」
「チーズのが最後だったんだよ」
「ふんっ」
「あーっもうっ。ハニーチーズならまだ作れるぞ」
「じゃそれで♪」
とチーズフライを作る。俺はもうチーズはいいかな。じゃがいもを素揚げにしよ。
とハニーチーズを揚げた後にじゃがいもを串切りにして揚げる。ここは17歳らしく油マシマシにしよう。
揚げたじゃがいもにバターを乗せる。トーマスは塩コショウだけでいいよな。エリナはどっちかわからんから好きな方を選んでもらうか。
と皿に盛って出す。
「これははちみつとチーズ。揚げジャガは塩コショウのとバターのがあるから好きなの食べて」
「わーすごい。カナタくん、お嫁に行けるわよ」
「行きたくありません」
「ふふふ、作るの嫌いじゃないけど、人に作ってもらうのって嬉しいわよね。カナタくんの作るもの美味しいし、お酒にも合うし」
「カナタ、ジャガイモ揚げただけでも旨いな。揚げ物にバターとか最高に旨い」
トーマスは油マシマシの方を食ってやがる。っていうか全員そっちかよ。クロノはハニーチーズと交互に食ってるけど太らないよな?
「クロノは太らないのか?」
「太るわけないでしょ」
「本当か?腹とか出てきてもしらんぞ。重くなったらおんぶして走ったり出来なくなるからな」
「だから太らないって言ってるでしょっ」
「そういや、カナタは女神さんが軽いとか言ってたけど、お前、見かけより力あるのか?」
「いや、見かけ通りだと思うよ。荷運びとかで来たときより力はついてるけど。クロノは本当に軽いんだよ。簡単に持ち上げられるし」
と、カナタは立ち上がってクロノを持ち上げる。
「ちょっと、食べてるのにっ」
「そんなにひょいと持ち上がるのか?」
「女の子ってみんなこんなもん?」
「いや、そんな事ないぞ。エリナ、お前ちょっと女神さん持ち上げてみてくれ」
「いいわよ」
ひょい
「あら、本当。めちゃくちゃ軽いじゃないっ」
「食べてるのにやめてよっ」
「女の子はみんなこうじゃないの?」
「そんな事あるわけないじゃない。ちょっとシンシアを抱き上げてみなさいよ」
「や、やめてっ。私は普通だからっ」
「あら、せっかくカナタくんに抱っこしてもらうチャンスを作ってあげたのに」
「あ・・・、で、で、でも女神様がそんなに軽いなら比べられたくないですっ」
女心は微妙なのだ。
「まぁ、多少太っても問題ないわよね?ある程度肉付が良い方が好きな男の方が多いのよ」
「そうなんですか?」
「触り心地がいいんだって。カナタくんもそう思うでしょ?」
ボッと赤くなるカナタ。クロノは手足も柔らかいし、太ももとかはホニョホニョなのだ。
「えっ、あっ、まあ・・・」
「今持ってわかったけどクロノって柔らかいわよね。カナタくんに揉みしだかれてるからかしら?」
「そ、そ、そんなことしてませんっ」
「あら、照れなくていいのよ。若い男女が一つ屋根の下で暮らしてるんだから」
「だからしてませんって!」
クロノも食ってないで否定しなさいっ。
エリナは少し酔ってるのかカナタをからかい続けるので叶多は発泡ワインをガブガブ飲んで違うと言い続ける。
「私と触り比べてみる?」
「さ、触りませんっ。比べるも何もクロノと何もしてないって言ってるでしょっ」
「昨日、風呂場で私を脱がせて触った癖にっ」
クロノもいつの間にか結構飲んでるようで、そんな事を言い出した。
「な、な、何言ってんだお前っ!あれは火傷したから心配して・・・」
「カナタさん、違う違うと言いながらやっぱりしてんたんだ」
あ、シンシアの目が座ってる。もしかして・・・
「シアちゃん、酒飲んだ?」
「あっ、いつの間にてめえっ!成年するまで飲むなって言ったろうがっ」
「飲んでませんー。このシュワシュワする奴を飲んだだけですー」
「馬鹿っ、それも酒だっ」
シンシアはピンクの発泡ワインをジュースと思って飲んだようだ。あれ甘口で飲みやすいからな。
「キャハハハハッ。シンシア顔真っ赤じゃないっ!カナタ、見てっ見てっ!シンシアがタコみたいっ」
「誰がタコよっ。ってか、タコって何よ」
「あんたタコも知らないの?海にいるうにゃうにゃってしたやつなのよっ。それはもう気持ち悪いのっ」
「何でそんな気持ち悪いのと私が似てんのよっ。っていうか、女神様はカナタさんに優しくされすぎっ。神様の癖に甘えっぱなしじゃないっ」
シンシアって絡み酒なんだな・・・
「当たりまえじゃないっ。カナタは私無しじゃダメなんだから」
いらんこと言うなよ。
「私無しじゃダメってなんなのよっ。女神様がカナタさん無しじゃなんにも出来ないんでしょっ」
「ふふふふっ。カナタはねぇ」
おいっ。
「カナタさんが何よ?」
「私無しじゃ眠れないの」
こいつ、言いやがった・・
「どっ、どういうことよっ」
「毎晩私の服を抱いて寝るのよっ」
あーっもうっ
「ど、どういうことよっ」
「私の着てた服を抱いて寝るの。ふふふ」
「カ、カナタさん本当ですかっ?」
「あ、いやまぁ。血の臭いがしてきてね・・・」
「あぁ、女神さんが身に付けてたのもが無いとだめだってあれか。まだダメなのか?」
「収まってたんだけどね、この前ベリーカの家畜が襲われて、皆と夜回りした時に魔物に襲われた商人がいてね。その襲われた馬車の処理をしにいったんだよ。で、殺された仲間を焼いた時の臭いでまた血の臭いがしだしてさ」
「あー、人を焼くと独特の臭いがするからな。で、女神さんの着てた服の匂いで収まるんだな?」
「近くに居てくれるのでも良いんだけどね」
「め、女神様の匂いで落ち着くってなんですかそれっ」
スンスンとエリナがクロノの匂いを嗅ぐ。
「ん?カナタくん。クロノって全く匂いなんてしないわよ?私、鼻はいい方なんだけど。これほど何も匂わない人になんて初めてよ。たしかお風呂に入らなくても汚れないんだっけ?」
「そうみたいなんだけど、毎日入らせてるけどね」
「でも、カナタくんにはわかるのよね?」
「あ、うん。かすかに甘いような匂いがして、それが血の臭いを消してくれるんだ」
どれ?
スンスン
おいっ、トーマス。クロノを嗅ぐな。
「本当だな。何の匂いもないな」
そしてシンシアも嗅ぎにくる。
「もうっ、みんなして嗅がないでよっ」
「本当だ微かに甘い匂いがする」
「シンシアは分かるのか?」
「うん・・・」
「カナタくん、私はどう?」
と、エリナに腕を出される。
「いや、別に俺は匂いフェチとかじゃないからっ」
「いいからっ。これは実験なのっ」
と言われて、クロノにジト目をされながらスンスンする。
「よくわかんないけど、女の人の匂い?うまく表現出来ないけど、男とは違うよね」
「興奮する?」
「しませんっ。だから匂いフェチじゃないってば」
「じゃ、シンシアの匂い嗅いでみて」
「いや、ダメですよそんなの。シアちゃんも嫌でしょうがっ」
「シア、大人しく嗅がれなさいっ」
「えっ、べ、別にいいですけど」
と嗅がされる。
「どう?カナタくん」
「あの・・・」
「く、臭かったですかっ?」
「いや、なんか赤ちゃんみたいな匂いが・・・」
「赤ちゃんじゃありませんっ!もうすぐ成人なんですからっ」
そう怒ってまた発泡ワインをグーッと飲み干すシンシア。
「飲むなっつってんだろ!それよりカナタ、俺やエリナにはわからない女神さんの匂いが、お前とシンシアには分かるってことだな?」
「みたいだね」
「お前、魔族の血が流れてんじゃないのか?」
「は?」
「シンシアには魔族の違う血が流れてんだろ。お前とシンシアにしかわからん匂いってことはその可能性があるだろうが」
「俺のいた世界に魔族なんていないけど?」
「あ、それもそうか。なら不思議だな。本当にそれ匂いか?」
そう言われてみれば嗅が無くても分かるかもしれない。でも身に付けてた物は?あれ?
「よくわかんないや」
俺には炭焼き少年のように悲しみの臭いとかわからんしな。
「シンシア、ちょっとカナタの匂いを嗅いでみろ」
え?
「ちょっとちょっと。何でだよっ」
「いいから」
シンシアは酔ってるのかガバっと後から抱きついてスンスンした。
「ちょっと、ちょっとシアちゃんっ」
「私のカナタに何すんのよっ」
「カナタさんっていい匂い」
「嗅がないでっ。離してっ」
クロノはシンシアを引き離す。
「で、どうだ?」
「男の人の匂いだけど、なんか違うよ」
それ、デルモにも言われたな。
「どれどれ?」
とエリナにも嗅がれる。
「本当ね。カナタくん」
「はい?」
「私の部屋に行こっか」
「何するつもりなのよっ」
「だって、こうなんかしたくなっちゃうじゃない?」
俺からは媚薬かなんか出ているのだろうか?
「だから触んないでっ」
「まぁ、あれだな。カナタ」
「なに?」
「お前、やりたい放題体質ってことだな」
それ、元の世界で欲しかったな・・・。今の俺には迷惑でしかない。
「で、エリナさん。実験結果は?」
「カナタくんはその気ないんでしょ?」
「そうだね」
「じゃ、宝の持ち腐れね」
おっしゃる通りでございます。
そんな話をしているなか、クロノは俺の後ろからスリスリしてマーキングしていた。