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果報者

「彼女じゃない? ずいぶんと大切そうにおぶって連れてきたそうじゃないか?」


「あれは靴もはいてないから足がぼろぼろになって仕方がなくおぶって来たんだよっ。彼女でもなんでもねぇっ」


「そうか、そりゃ参ったな。部屋は1つしか空いておらんぞ。他の奴等に相部屋を頼もうにも皆すでに相部屋だからな」


「あいつを女の部屋に同室とかは無理なんですかね?」


「そしたら、見知らぬ女がお前と同室になるだけだ」


マジかよ・・・


「なら、私がカナタさんの同室になりましょうか?お連れの女性と私が代わりますよ」


と、言い出したのが受付の女の子だ。


「カナタさん、私はシンシアっていいます。シアとお呼び下さい」


「いや、シンシアさん。見知らぬ男と同室とか何考えてんですか?」


「ふふふっ、何か不埒な事を考えてます?」


「か、か、か、か、考えてないっ」


「おいっ、シンシア。他のハンターどもともめんだろうがっ」


「大丈夫ですよ。他の方はカナタさんのお連れさんに乗り換えられたみたいなんで」


え?


ということで下に降りて見ると、クロノは大勢の男にちやほやされていた。



「えー?どうしよっかなぁ」


「クロノ様っ、な、なんでもいうことを聞きますから僕と付き合って下さいっ。こんな傷ならいつでも治してあげますよっ」


「何抜け駆けしてんだてめぇっ。俺なんかどんな魔物でも倒してやんぜっ。あんな一緒にいたヒョロイ男よりよっぽど頼りになんぜ。フンッ」


「こんな筋肉バカより、私の魔法の方がはるかにたくさんの魔物を倒せますよ。何せファイアボールを3連射出来るのはこの街では私だけですからねっ」



「なんだこれ?」


「ね、カナタさんのお連れさんはもう大人気なんですよ。もう私なんかどうでもいいみたいですよ」


シンシアはギルドの看板受付嬢として大人気だったみたいだ。しかし、ろくに働きにも行かず、ギルドでうだうだしている男に言い寄られてもちっとも嬉しく無かったようだ。


「おい、カナタ。お前の連れはなんだ?確かに可愛いがあそこまでモテるものなのか?しかも名前がクロノって・・・」


「あいつ、女神なんだよ」


「は?」


「女神クロノ。今はなんの力もないただのクソ女だ」


「め、女神・・・?」


叶多はこの先ずっと隠しきれるものじゃないと判断し、このギルドマスターを巻き込む事にした。もしかしたら魔王を倒せるぐらい力を持った奴を知っているかもしれない。誰も知らない魔物の事もスキルが勇者と呼ばれる者にしか付いてない事まで知ってたからな。


「おい、飯を部屋に運ばせるから詳しく聞かせろ」


ちやほやされてまんざらでも無さそうなクロノを放っておいてギルドマスターの部屋でご馳走になることに。受付嬢のシンシアも一緒にだ。


「俺はトーマスという。まぁ、皆はギルマスと呼ぶがな」


「じゃあギルマスと呼びますね」


「お前はハンター登録をしたんだ。別に敬語は使わなくていいぞ。そういうところから上下関係とかわかって不利になることもあるからな」


へぇ。


「じゃ、トーマスでいいか?」


「構わん。で、女神とはどういうことだ?」


「俺はあいつに無理矢理この世界に連れて来られたんだよね」


「やっぱりか・・・」


「え?」


「あいつらも同じ事を言ってやがったんだ」


「どういうこと?」


「剣士のヒカルと賢者のダイキだ」


「もしかして勇者の・・・」


「そうだ。俺は一時あいつらとパーティーを組んでいた。あいつらに比べると全くだったがな。最終的に足手纏いだと捨てられたんだ。これでもちっとは名の知れてハンターだったんだがな」


「そうだったんだ」


こいつは驚きだ。


「で、お前も勇者なんだろ?」


「いや、俺はクロノを逃がす為だけに呼ばれたんだ。戦闘能力は何もない。ただ、ワープ出来るだけだ」


「あのデスボアはどうやって倒した?何か物凄い鋭利なもので首を落としたんだろうが?」


「たまたまって言ったろ?ワープのゲートが閉じる時に頭だけこっちにあって身体はゲートの中に残されて首チョンパだ。狙ってやったわけじゃない。たまたまだ」


「ほう、それが狙って出来るならどんな魔物や魔族でも倒せそうだな」


「え?」


「そうだろ?問答無用でゲートが閉じるなら魔法も武器も効かない相手でも問題無しだ」


言われてみれば・・・


「じゃあ魔王も倒せるってこと?」


「理論上はな。しかし魔王は誰も倒せないぐらい強いし、魔物とは違って賢いらしいからな。そうやすやすと罠に掛かるとは思えん」


「だろうね」


「まぁ、ヒカルとダイキに任せておけばそのうち魔王を倒すだろ。あいつらの強さは人間のそれじゃなかったからな。で、女神様はどこから逃げる為にお前を連れてきたんだ?」


「それがさぁ・・・」


と、叶多は飯を食いながらクロノがやったことを話した。


「は?あいつらとの約束を反古にするためだけにお前は連れてこられたのか?」


「そう、それであいつは止めを刺すのに天界へ帰るための神器を使ってさぁ。回収する前に逃げて来たんだよね。で、その時に・・・」


「勇者を亜空間に置き去りにしただとっーーーー?」


「クロノがコケた拍子に俺をゲートから押し出したんだよっ。まだ生きてるらしいけど、多分元の世界に飛ばされたんじゃないかって」


「ど、ど、ど、ど、どうすんだよっ。あいつらが居ないと魔王を倒せんだろがっ」


「そうなんだよ。魔王から神器を取り返せたら取り敢えず一旦仕切り直しも出来るから、倒せなくても神器を取り返したいんだよね。俺も早く帰りたいし。トーマスは誰か魔王を倒せるか牽制出来るぐらい強いやつ知らない?」


「いるかっそんな奴っ!魔族の幹部ですら無理だっ」


マジかよ・・・


「じゃあ、ずっと帰れないって事かよ」


「カナタさん帰りたいんですか?」


「当たりまえだろ?いきなり登校中に拐われて来たんだぞ。期末テストの勉強しないとダメなのに。それに高校生活で夏休みが楽しめそうなのは今年で最後なんだ」


叶多は夏休みに彼女が出来るんじゃないかと密かに期待していたのだ。


「何ですか?期末テストとか夏休みとか?」


「俺のいた世界は7才から15才までは義務教育といって全員が学校で学ぶんだ。で、次は高校という学校があって、試験を受けて能力別に振り分けられる。高校に行かないって選択肢もあるけど、大半は高校に行く。その次に大学とか大学院とか色々あるんだよ。学校に行ってる間は年に5回ぐらいテストがあって成績が悪いと次の学年にあがれなかったり、卒業できなかったりする。夏休みは夏の期間の休みのことだ。1ヶ月ぐらい自由な時間が与えられるんだよ」


「な、なんですかっ、その夢のような世界はっ?」


「ん?こっちには学校は無いのか?」


「ありますけど、15歳で終わりです。魔法とかを学ぶ学校はありますけど極一部のものしか行けません」


「へぇ、こっちは行きたくなくても行かされる奴も多いけどね」


「いいなぁ。私もカナタさんの世界に行ってみたいなぁ」


「まぁ、今は時間止まってるらしいから行っても何も出来ないと思うけどね」


「え?」


「クロノは時と空間を司る神らしいからそんな事が出来るらしいぞ」


「じゃあカナタさん、元の世界に戻ったら一人だけ歳とってる事になりますね」


「いや、なんか俺の年齢がへんなんだよね。永遠の17歳とかになってるし」


「え?」


「ステータスオープンっ」


ブオン


「ほら、見てみて」


「何をですか?」


「今、ここに俺のステータス出てるだろ?」


あれ?レベルが12になってる。もしかしたらデスボアって奴を倒したからか?


「どこですか?」


ペタッと叶多の顔に顔をくっ付けるシンシア。


「ちょっ、近い近いっ」


真っ赤になる叶多。


「何にも見えませんよ?」


「え?みんな自分のステータスって見られるんじゃないの?」


「そんなの見えるわけないじゃないですかっ」



「でもハンター登録する時に俺の名前とスキルがわかったんだよね?」


「はいっ。あれは私が作りました」


「え?」


「私、研究の仕事がしたいんです」


「意味がわからないんだけど?」


「シンシアは天才ってやつでな。あのハンター証を作ったのもこいつだ。あれは優れものでな。金もあれに登録出来るからコインを持たなくて済むようになったし、身分証明としても信頼のおけるものになったんだ」


「そんなに優秀なのにどうして受付譲を?」


「こいつは平民だからな。あまりにも優秀過ぎてこの国まで連れてきてそれを隠しているんだ」


「もしかしてこの世界は貴族階級制度があるの?」


「お前の所は無いのか?」


「大昔はあったみたいだけど、今は全員平民だよ。他の国では似たような階級残ってるけど、無い国の方が多いね。まぁ、貧富の差はあるけど、能力があれば金持ちにもなれるよ」


「へぇ。いい世界だね」


「シンシア、それは羨んでも仕方がないぞ。それより永遠の17歳ってのは?」


「多分、ここにいる間は歳取らないんじゃないかな?」


「元の世界の時間が止まってるからか?」


「そうかもね」


「じゃあ、慌てて帰る事ありませんね。しばらくこの世界も楽しんでみたらどうですか?私の研究も手伝ってもらえたら嬉しいなぁ。私の知らないことを知ってるかもしれないし」


そうか、慌てて帰る必要もないのか。なるほど。


「じゃあ、ここの世界の文字とか文化とか教えてくれる?言葉は通じてるけど、文字とか違うみたいだし」


「良いですよ。じゃあやっぱり私とカナタさんが同室の方がいいですね♪」


「まぁ、シンシアがそれでいいなら構わんが・・・。女神様はカナタと離れて問題ないのか?」


「あいつは俺の事をなんとも思ってないし、別に何も言わないと思うよ」



と、いうことで俺は女の子とルームシェアをする果報者となりそうだ。



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