仕方がないよね
真っ赤な顔をして朝食を取る二人。
「か、買い物に行こうかと思ってるんだけど」
「ど、どこに」
「ハポネに風呂を買いに。宿みたいな深い風呂が欲しいんだよね」
「わかった」
叶多はハポネに移動して商業ギルドで風呂を扱っている所を紹介してもらいそこに行った。
「色々なタイプがありますね」
「はい、お一人様用の小型から商業に使える大型までございます」
一人用だと元の世界の風呂と変わらん。でもこちらの世界の風呂場は結構広い。もっと大きいバスタブにしたら足伸ばせるよな。
ん?
「これちょっと変わってますね?それに高いし」
「はい、こちらは魔道具が仕込まれてましてここから泡が出るのです。寝転んでも滑っていかない親切設計、尚且寝転んだ態勢だと肩、背中、腰にここからジェットの泡が出て疲れた身体をほぐしてくれるのです」
ものすごく自慢気に説明をしてくれる。お値段は金貨2枚。でもこれは買いだ。洗い場が狭くなるけど、それはどうでも良い。肝心なのは湯船なのだ。
「ではこれ下さい」
「はいありがとうございます。工事の方も承っておりますが」
「いや、知り合いの業者がやってくれるから大丈夫。後で取りにくるから置いといてくれる?」
「かしこまりました」
と、一度ベリーカに戻って荷車を持ってきて持ち帰った。
そしてベリーカの商業ギルドで工事をしてくれる人を紹介してもらう。
「では10日後に職人が伺います」
となり、今日は終了。
「晩ごはん何にする?時間あるからどこかに食べに行ってもいいし、食材買ってきてもいいし」
「楽しく食べられる食事がいいかな」
楽しく食べられる食事かぁ。なら作りながら食べられる物がいいか。
ベリーカの街中をウロウロして調理道具と食材を購入、それを家に置いてアッキバへ。
「何買うの?」
「卓上コンロ売ってないかなって思って」
「卓上コンロ?」
「そう、楽しく食べられる食事って言ったろ?作りながら食べたらいいかと思って」
「ふーん」
と、生活魔道具の所に行くと卓上コンロが売ってたので購入して、今度はハポネに移動。魚介類と発泡ワイン、日本酒を購入して帰った。
「今日は飲むの?」
「飲むよ。心配ごとが無くなったからね」
「何が心配だったの?」
「それはナイショ」
「何よそれっ。言ってくれてもいいじゃないっ」
「言ったらクロノが困るぞ」
「何も困ることないわよっ」
「本当かぁ?」
「本当よっ」
「じゃ、後で教えてもいいかな」
と家に帰り、食材を一口サイズに切って串を刺していく。小鍋にオリーブオイルとニンニクを入れてそれを卓上コンロに乗せたら準備完了。唐辛子はクロノが食べられないかもしれないので無しだ。
「かんぱーい」
「何に乾杯したの?」
「クロノの優しさにかな?」
「何よそれ?急にそんな事を言われたら気持ち悪いわよ」
「そっか?でも、出会った時はこんな風に思うとか予想できなかったわ」
「だから何がよ?」
「いいから、いいから。飲もう!」
心置きなく飲めるのは良いことだ。15歳成人バンザイ。
ぐっと飲み干してシュワシュワを堪能したら串に刺した食材をぽいぽいっと温まったオリーブオイルに突っ込んでいく。
「これで出来るの?」
「そうだよ。食べたいのから食べていいよ」
クロノの為にイカ多めだ。俺はエビからいこう。
「ほふっほふっ 旨っ」
エビを食べて発泡ワインをグビビっとやる叶多。次は何しよっかなぁ。じゃがいものベーコン巻きにしょ。
「ちょっとぉー、自分だけ食べてないで取ってよ」
「食べたいものを自分で取るんだよ。慌てて取るなよ。油こぼして大変な事になるからな」
「えー、怖いじゃん」
「あーっもうっ。なら隣に来い。取って正面に渡すと危ないから」
と、クロノを隣に座らせて何本か取って皿に乗せてやる。
「ん、美味しい♪」
イカの串を食べて飲むクロノ。二人は食べて飲むピッチが早くなっていく。
「カナタっ、これなんていう料理?」
「アヒージョだっけな」
「ふーん」
「イカばっかり食ってないで他のも食えよ。ほら、ポテトベーコン」
「うん、これも美味しい♪」
グビグビ。
すぐに空くボトル。叶多は次のボトルへ。
発泡ワインは口当たりがよく、アヒージョの油も流してくれるのでガブガブといってしまう。蒸溜酒ほどじゃないけどアルコール度数はそこそこ高い。
「キャハハハハッ。なんで裸で寝てたのよっ」
クロノは笑いだした。
「焼肉の煙が臭くてさ。風呂場にも充満してたから全部洗ったら着る物がなかったんだよ」
「取りに来ればよかったのに」
「裸で寝室に行ってクロノが気付いたら襲われるかと思って怖いだろ?」
「そりゃそうだけど」
「でも、クロノが俺の為に脱いでくれるとは思わなかったわ」
「えっ?」
「裸の俺の後ろで自分のパジャマ脱いで俺の顔に掛けたろ?いきなり脱ぐから襲われるんじゃないかとドキドキしたんだからな」
「みっ、見たのっ」
「もうバッチリ!」
「カナタのスケベっ!変態っ」
「嘘だよ。後ろ向いてただろが」
「あ・・・」
「俺がうなされてたから見に来てくれたんだろ?脱衣篭の服も全部洗ってあったからパジャマ掛けてくれたんだろ」
「う、うん」
クロノはそれもあるが自分の服を抱き締めてて欲しいからとは恥ずかしくて言わなかった。
「俺焦ったんだせ。初めにパジャマ掛けて貰ったとき」
「え?」
「俺が無理矢理脱がせて剥ぎ取っていったと言っただろ?全然そんなことした記憶無いしさ、その後もいつの間にかクロノの服を抱き締めてるし。寝たあと無意識に起きてそんな事をしてるのかと思ってたんだから」
「だっ、だって私の服がある方が良く眠れんでしょっ」
真っ赤になったクロノはそう答える。
「いや、そうなんだけどさ。落ち着いてる時までそんなことされてたらクロノが嫌だろ?」
「べ、別に服を握って寝るぐらい平気よっ。私汚れないしっ」
「だったら下着握って寝るぞ」
「それはいやっ」
「下着も服と同じなんだろ?」
「そうだけどなんか嫌なのっ」
「な、だから落ち着いている時は気を使わなくていいぞ。このままクロノが身に付けてたのものが無いと寝れなくなったらどうすんだよ」
「べ、別にいいじゃないそうなっても」
「今度の旅行は大部屋なんだぞ。みんなの前でクロノの服を抱き締めてないと寝れないのバレたらどうすんだよ?」
「ば、バレてもいいじゃない」
「また変態扱いされんだろが」
「カナタが変態に思われたら他の女の子が寄って来なくなるからいいもんっ」
「クロノも変態扱いされんだからな」
「なんでよっ」
「旦那に服嗅がれて喜ぶ変態嫁だと思われるに決まってんだろが」
「よっ、喜んでなんかないっ」
図星を突かれたクロノはガタッと立ち上がった。
ガタンッ
その拍子に大きく机が揺れ、卓上コンロに乗った小鍋の油が溢れた。
「キャッ」
ヤバイっ
叶多とクロノに熱い油がこぼれてかかる。
叶多はバッとクロノを抱き上げて風呂場へ走り、そこへザーーっと水を掛けた。
「大丈夫かっ。それを脱げっ」
「えっ、ちょっちょっとカナタっ」
叶多はクロノのワンピースのスカートを上げて脱がし、赤くなった太ももに下級ポーション掛けた。
そして、太ももを撫でて問題無いか確認する。
「良かった。なんともなってない。お前危ないだろ・・・」
目の前にはびしょ濡れで下着姿になったクロノが半泣きになって立っていた。
「ご、ごめんっ」
叶多は慌てて風呂場から飛び出す。
ズキンっ
「っ痛って」
火傷は叶多の方が酷かった。スボンに掛かった油は叶多の太ももを焼き、ズボンを脱ぐと皮膚が剥がれてただれていた。下級ポーションでは無理そうなので中級を掛ける。
「痛ちちちち」
焼けただれた所にポーションを掛けると染みて痛くて声を上げてしまった。
「カナタ大丈夫・・・。キャアっ何脱いでんのよっ」
その後無事に傷がなおった二人は交代でシャワーを浴びた。
もう服は洗っても無駄だろうから、その服でこぼれた油を拭き捨てることに。
「あーあ、床に思いっきり染み込んだわ」
「もう、床なんてどうでもいいじゃない」
「ここ油で滑るからしばらく歩くなよ。コケるぞ」
お互いの下着姿をみた事は触れずにいる。
「こ、コケないわよ」
「いーや、クロノはコケる。現に油をひっくり返したじゃないか。大火傷したらどうすんだよっ。ポーションで治ったからいいようなもんの」
そう言って、叶多は濡れた下着姿のクロノの太ももを撫でてしまったことを思い出して真っ赤になっていた。
「ぜ、全部脱がすことなかったじゃない」
「どこが火傷したかわからなかったからだろ」
「すけべっ」
クロノは叶多が心配してああいうことをしたのは理解出来ているので怒りはしてないが恥ずかしくてたまらなかったのだ。濡れた下着は透けてたから。
二人は恥ずかしくてまた飲み出す。飲んで忘れよう。
お互いに記憶が飛ぶようにと願いながらガブガブと飲む。
「まだ食べてる途中だったから、残りの材料を炒めるわ」
と、叶多が塩胡椒で炒めてきてくれたのでリビングのベッドに座り、その前にテーブルを持ってきて置いた。
「下着まで油飛んでたらどうしてたのよっ」
「脱がせたに決まってんだろ」
「すけべっ」
「前にお前が風呂で寝た時にもう全部見たって言っただろうが」
「もうやめてよっ」
「俺も見られたからお互い様だ。一緒に暮らしてたらこういうこともあるんだよ」
叶多は自分にそう言い聞かせて恥ずかしさを誤魔化した。
すでに飲んで酔ってた所に追い酒をしたので眠くなってきた。
「眠いならそろそろ寝にいけ。ここは片付けておくから」
「もう動きたくない」
「だからってここで寝るな。狭いだろ」
「狭くない」
そう言って寝たクロノ。
叶多は片付けてをしているときにまた自分から血の臭いがしているような気がしてきた。
またかよ・・・
クロノがそばにいるとこんなことないのにこうやって離れると血の匂いが襲ってくる。
服も捨てちゃったしな。
何がきっかけでこうなったか考える。あ、自分の足が焦げた臭いか。
もう一度シャワーを浴びて念入りに洗うが意味がないだろうな。
風呂から出てクロノを寝室に寝かせに行こうと抱き上げるとピタッと血の臭いがしなくなる。
「ゴメンな。収まるまでもう少しこうさせてて」
と、叶多はクロノを抱き上げたままベッドに腰を掛けてそう呟いた。
叶多も腕の中でスースー眠るクロノを見ているうちに寝てしまった。
クロノが朝目覚めると叶多に抱き締められていた。
服を捨てちゃったから仕方がないよね。そう思ってそのまま叶多か起きるのを待ったのであった。