パジャマ
「えっ?パーティー組んでくれるの?」
「冬に旅行するだろ?その後からだ。だからそれまでは商売に専念してろ」
「う、うんわかった」
「でな、パーティに二人追加する。旅行明けに4人パーティで始動だ」
「後二人は誰?」
「女神さんとシンシアだ」
「え?」
「女神さんもパーティに入れる」
「危ないじゃないかっ」
「おらん方が危ない」
「どういう意味?」
「女神さんはカナタのストッパーだ。一緒にいないとお前が暴走して壊れるかもしれん」
「意味わかんないんだけど?」
「今回は俺が女神さんの守役だったが、これからはカナタがそれをやるんだ。お前は守りながら戦え。前衛は俺がやる」
「シアちゃんも危ないじゃないか」
「シンシアは心配すんな。こいつの魔法はなかなかのもんだぞ」
「え?シアちゃん魔法使えるの?」
「解禁してもらいました」
「それにハンター活動って未成年でも出来るの?」
「シンシアは年明けに成人だ」
「は?12歳って言ってたじゃん」
「年齢も名前も偽証だ。本当の話名前はロジェスティ。魔族と人間のハーフだ」
「ちょっとちょっと、情報が多すぎて分かんないんだけど」
「まぁ、気にすんな」
「カナタさん、来年成人だと知ってたら私を選んでくれてました?」
「うん」
「なんでそこでうんって返事なのよっ」
「いや、その、そういう意味じゃなくて子供じゃなしに女の子として見たってことでね。そもそもこっちに来たばっかりの時はそれどころじゃなかっただろ?」
「答えになってないっ」
「あーあそれなら、コソッとちゃんと言えばよかった。普通12歳でも女の子として見てくれるのに」
「いや、シアちゃんの事は可愛いとは初めから思ってたよ。でも付き合うとかは本当の歳知っててもなかったかな」
「えー」
「エリナさんはこの話知ってたの?」
「エリナは情報屋だ。俺がシンシアを連れて来た時にここに引っ張った」
知らなかった・・・
「カナタくん、街の女の子の誘い全部断ってたでしょ。美人も可愛い娘もいたのに。奢るって言っても断られたってショック受けてたわよ」
来たばっかりの時から調べられてたのか。
「お前、娼館の女にただでもいいと言われたのか?」
「安宿探してたらいっぱい声かけられたんだよ」
「おー、いいじゃねぇか。エリナに信用出来る子紹介して貰え」
「あら、それなら私が相手してあげるわよ」
「ダメっ」×2
クロノとシンシアの声が揃った。
「シアちゃん、どっちの名前で呼んだらいい?」
「今みたいに呼んでくれると嬉しいです。シアって呼び捨てでもいいですよ」
ロジェよりシアちゃんの方が呼びやすいな。
「じゃ、今まで通りで」
「カナタはそういう店の女の人にそんなに声かけられたんだ?へぇ」
と、クロノはジト目で見てくる。
「よっぽどカモに見られたんじゃないか?」
「カナタくん、あの娘達は人を見る目は確かなのよ。ただでもいいって言うなんてよっぽどよ」
「黒髪とか珍しかったんじゃない?」
「違うわね。カモにタダなんて言うわけないじゃない。きっとカナタくんの強さを感じたのよ。この世界は強い男がモテるのよ。さっき、ここの奴らに凄んだ時とか私もゾクゾクしちゃったもの。この後私の部屋に来る?」
「ダメッ」×2
「あら、残念」
「カナタ、お前シンシアが魔族とのハーフと聞いてなんとも思わんのか?」
「驚いたけど、そうなんだって感じかな」
「き、嫌ったりしないんですか?」
「だって何が違うかよくわからないし」
「う、裏切ったりするとか思ったりしませんか?」
「シアちゃんが裏切る?」
「私の両親はそう言われて殺されました」
「そうだったんだね。そうだな、もしシアちゃんが裏切ったら」
「裏切ったら・・・?」
「お尻ペンペンしてやるよ」
「もうっ!子供扱いしないで下さいっ」
「というかそんな心配しないよ」
「ありがとう。カナタさん」
とりあえず、旅行が終わるまで勝手に討伐を受けるなと言われたので、ハンター業務用に空けた時間をクロノの為に使おうと思っていた。
話が終わってベリーカに戻る。
叶多の雰囲気はいつもの通りに戻っていた。
「風呂で寝るなよ」
「わかってるわよ」
クロノは湯に浸からずにシャワーだけを浴びて出ると叶多も風呂へ行った。
「カナタ大丈夫?」
「あ、刺されたとこ?大丈夫だよ」
「違うっ。ね、眠れそう?」
「あぁ、今日は血の臭いもしないし大丈夫だよ」
「わかった。じゃあ何かあったら起こしてくれていいからね」
「うん、ありがとう。じゃお休み」
そう言った後、叶多はすぐに寝てしまった。一昨日まではずっとシャワーを浴び続けたり、真っ青な顔をしてクロノの服を抱き締めて寝ていたのに今日はそれもなく寝ている。
助けを求める子供を抱き締めようとして刺されて大量の血を浴び、生首を運んだ叶多はより酷い症状が出るかもしれないと思っていたのに・・・
一度寝室へ行ったクロノは心配で寝付けず、夜中に叶多をこそっと見に行った。
スースーと寝息を立てて穏やかに眠る叶多。一昨日は自分の服を抱き締めるようにして眠り、自分が添い寝すると抱き締めてきたのに。
(なんか面白くない・・・)
クロノは穏やかに眠れている叶多に今着ているパジャマを脱いで顔にかけたのであった。
ん?
朝になり、叶多が目を覚ますと何かが顔に掛かっている。それを取り除いてみるとクロノのパジャマだった。
あれ?俺、クロノのパジャマなんてどうしたんだ?これ、昨日クロノが着てたやつだよな。
俺、何したんだ?
叶多の頭に???が浮かぶ。酔って記憶を無くしたわけでもないしな。
コンコンっと寝室をノックしても返事がない。
「おい、クロノ。はいるぞ」
カチャ
バンっ
(な、何で上半身が下着だけなんだよっ)
慌てて寝室の扉を閉めた叶多はクロノのパジャマを見る。
ダメだ全く思い出せない。
しばらくすると着替えたクロノが真っ赤になって出てきた。
「寝室覗いたでしょ」
「ご、ごめん。声かけても返事なかったから。ま、まさか上半身が下着だけなんて思ってなかったんだよっ」
「私のパジャマはカナタが持ってるじゃない」
「こ、これ、俺なんかしたの?」
「む、無理やり脱がして持っていったのっ!」
クロノは自分の服が無くても寝られたカナタがなんとなくおもしろくなくて、パジャマを脱いで顔にかぶせたと言えるわけもなく叶多のせいにしたのであった。
叶多は全く記憶が無いが、クロノが上のパジャマを着ておらず、そのパジャマを自分が持っているということはそういうことなのだろうと思い謝った。
「ご、ゴメンな。次にこんなことしたらぶん殴っていいから」
「ら、乱暴にされたわけじゃないから別にいいけど」
その日から商売を再開し、また各地へとワープしていく。翌日も叶多が朝起きると知らないうちにクロノの脱いだ服がベッドにあり、夢遊病にでもかかったのかと思っていた。
これ、知らない間にクロノを襲ったりするとまずいよな。そう思った叶多は寝る前にクロノの服を持って寝るようになったのであった。
何やら朝から外が騒がしい。
休みにしてあったので、一度起きてから惰眠を楽しんでいたのに何だよもうっ。
外に出るとベリーカの住人達が集まって何やら深刻な顔をして話している。
「どうしたの?」
「いやな、家畜が魔物にやられたんだ」
「え?」
「足跡からしたらゴブリンだと思うんだがな」
「ギルドに討伐依頼出すの?」
「そうした方がいいんだがな、ここは広いだろ?結構な数のハンターを頼まないとダメなんだ。で、毎日来るならすぐに終わるんだが、来なければずっと依頼料を払い続けないとダメだからな。とりあえず俺達で夜回りするかということを相談してたんだよ」
「ゴブリンが出たらみんなでなんとか出来んの?」
「まあ数体を追い払うならなんとかな」
「なら俺も参加するよ。一応ハンターだしね」
「いいのか?」
「人に被害出たら嫌だしね。ただで家を使わせてもらってるし」
「家は誰も使ってないから気にすんなって言ってあるだろうが」
「まぁ、それでも借家だからね」
そういうと何やらゴニョゴニョ話す住民達。
「どうしたの?」
「カナタ、指名依頼受けてくれるか?」
「別に住民として見回りに参加するからギルドを通さなくていいよ」
「いや、報酬はあの家だ。これであれは借家じゃなく、お前の家になるだろ」
「いや、そんなに気を使ってくれなくていいよ」
「そう言うな。やると言っても遠慮するだろお前。だが報酬ならハンターの権利だからな」
「わかった。じゃあ、ありがたくその話を受けるよ」
と、いうことでギルドに行き、指名依頼を受けた。
「報酬は現物ということですので、現金換算したらいくらぐらいの物になりますか?」
「まぁ、金貨1枚ってとこだな」
「では、依頼達成の際には銀貨20枚をお支払い下さい」
「なんだよ、これも金取るのかよ?」
「はい、依頼に対する報酬の20%がギルドに入りますので」
「いいよ、いいよ、それは自分で払うから」
「そんなことしたらお前損だろが」
「なら討伐完了したら宴会開いてご馳走してよ」
「そ、それでいいのか?」
「うん、久々に皆でご飯食べたいし」
「わかった。ならそれで」
ゴブリン討伐は1匹に付き銀貨1枚が支払われる。これは国がギルドに依頼している魔物討伐の常時依頼だ。
ゴブリンが来て倒したら銀貨20枚ぐらいになるかな?
家に戻って夕方集合に備えてまた惰眠を貪る事にしたのであった。