カナタのスイッチ
「カナタ、本当に平気なの?」
「うん、大丈夫だよ。どっか遊びに行く?」
「寝なくて平気なの?」
「ん、クロノは大丈夫?」
「私は平気だけど・・・」
「アッキバに遊びに行こうか?」
「う、うん」
じゃ行こうか、と叶多は手を出した。
クロノはキュッとその手を掴む。
そして手を繋いだままアッキバに行ったのだった。
朝ご飯にパンケーキを食べ、ゲームセンターで遊び、何か面白い魔道具がないかと見て回る。
「あ、炊飯器あるじゃん。これ買って帰ろ。これ探してたんだよね」
ご飯を炊く魔道具を見つけて喜ぶ叶多。
お茶してる時も叶多はテンションが高い。とても楽しそうだ。
「クロノ、あっちも見ようっ」
そしてクロノを手を握る。
嬉しいけど、嬉しいけどなんか違う。いつもの叶多ではないのだ。いつもの叶多なら照れくさそうにしたりするが、今日は自分から手を繋ぎりにくる。それも軽く握るのではなくギュッと握るのだ。
「カナタ、ごめん。あんまり強く握られると痛いかな」
「あ、ごめん。そんなに力を入れたつもりなかったんだけど」
そういった後は手を離してしまった。
「じゃ、家に帰ってからエスタートにいくが」
炊飯器を家においてギルドへと移動する。まだ時間が早いので食堂で軽く飲んでトーマスを待つことに。
「カナタさん、お帰りなさいっ」
「ただいまシアちゃん。トーマスはまだ仕事中だよね?食堂にいるからって伝えといて」
「わかりましたっ。これどうですか?」
とスカーフを見せるシンシア
「よく似合ってて可愛いよ」
「えへへへっ」
「カナタくん、賊を討伐してきたんだって?」
「そうなんだよ。ヘマして子供に刺されちゃってね」
「え?刺されたの?」
「そうなんだよ。トーマスが一緒じゃなきゃ死んでたよ」
「えーっ、大丈夫なの?」
「上級と中級ポーション使ったからもう痛くもなんともないんだよ。ポーションって凄いね」
「あんまり無茶しないでね」
「心配してくれてありがとう」
「ケッ、怪我自慢と高級ポーションの自慢かよっ」
後から酔ったハンターからやっかみのヤジが飛んで来るが叶多は反応しない。
そのまま無視してエリナと話を続けていく。
シンシアがこっちにやってきてトーマスが少し遅くなると伝言をしに来てくれた。
「大丈夫、慌てなくていいよって言っといて」
「カナタくん、シアがそのスカーフを何回も似合う?って聞いて来るのよ」
「だって、こんなのしたことなかったしー」
「それにしても何回も見せに来ることないでしょ」
クロノ、エリナ、シンシアとキャッキャ話してる叶多に先程のやっかみを言ったハンターが絡んで来た。
「よう、新人。女ひとり占めしやがってよ。何様のつもりなんだよっ」
叶多は振り向きもせず無視する。
「おいっ、聞いてんのかよっ」
叶多の肩を引っ張る。
「ちょっとやめてよっ」
クロノがその手を払おうとするとうるせえっとその手をペシッと叩いた。
ブチっ
「ワープ」
ズドンと首まで落ちるハンター
「な、な、な、」
「キャンセ」
「ダメっ!やめてカナタっ」
「こいつ、クロノの手を叩いたんぞ」
「ちょっとはたかれただけよっ。赤くもなってないからっ」
と、手を見せるクロノ。
「本当に痛くないか?」
と、クロノの手を握って下級ポーションを掛ける。
「ポーション使うようなことじゃないからっ」
「こいつ、クロノに手を出すならさっさと殺っときゃよかった」
「な、何だよこれっ。抜けねぇ!た、助けてくれ」
「知るかよ。後10分くらいの人生をせいぜい懺悔しとけ」
「カナタ、ダメよっ!ちゃんと出してあげて」
「まぁ、ここだとエリナに迷惑かけるな。じゃ、外で殺ってくるか」
と叶多は立ち上がる。
「ダメだって。ちゃんと助けてあげてよっ」
「クロノは優しいなぁ。仕方がない。これぐらいで勘弁してやるよ」
と、顔面に思いっきりサッカーボールキックを食らわす。
ぐはっ
ハンターの歯が何本か飛び、鼻が折れて気を失う。
その後、叶多はゲートに入るとすぐにそのハンターをずるんと引っ張ってまた消える。
そして一人で戻ってきた。
「どうしたのあいつ・・・?」
「ゴミ捨て場に捨てて来た。それよりクロノ、本当に手は痛くないか?」
と、心配するように手を握って見る叶多。
一部始終を見ていた他のハンター達は顔が青ざめていた。ほんの少しクロノの手をはらっただけで叶多から出た殺気。クロノが止めなかったらあの場であいつは殺されていた。それもいきなり穴に落ちたかように首だけになり身動が取れない所を歯が飛び鼻が折れるぐらい蹴り飛ばされたのだ。
「カナタさん・・・どうしちゃったんですか?」
「どうもしないよ。あいつがクロノに手を出すのが悪いんだ。これでここにいた奴はクロノに手を出さなくなるだろ?これからここに預けて討伐に行くこと増えるから、クロノに手を出したらどうなるかわかってもらえたんじゃないかな。なぁ、お前らどうなるかわかったよな?」
「は、はいっ」
ここにいたハンター達は今後、叶多とクロノに目を合わさないようになる。
シンシアはトーマスに報告しに行く。
「あー、そっちにスイッチが入ったのか」
「どういうことですか?」
「カナタは賊の子供に助けを求められてな、抱き締めようとしたところを刺された。その子供を俺が斬った時にカナタはもろにその血を浴びた。自分が刺された事も気付かないぐらいショックだったみたいだ。ポーションで治した後は討伐慣れしたやつみたいに人が変わったんだ。それでちょっと心配してたんだがな」
「カナタさんどうなっちゃうんですか?」
「おそらく凄いハンターになる。あいつの能力は凄いぞ。勇者に引けをとらんぐらいだ。いや、下手したらそれより上を行く」
「そんなに凄いんですか?」
「魔族や魔物は物理攻撃が効かない、魔法が効かないとか特性がある。特に強いやつはな。だからパーティを組んで攻撃のバラエティを増やす。が、叶多の能力は相手の特性関係なしに問答無用だ。さすが時と空間を司る女神さんが与えたスキルだな。叶多は空間を支配してると言ってもいいだろう」
「で、でも・・・」
「わかってる。そっちにスイッチがはいったならヤバいことになるかもしれんからな。仕方がねぇ、俺があいつとパーティを組んでやる」
「私にも何か手伝える事はないんですか?」
「あるぞ」
「何でもやりますっ」
「なら叶多が何をしても怯えてやるな」
「え?」
「あいつはどれだけ辛い思いをしようが討伐を続ける。女神さんの為にな。そしてその度に殺気を纏うようになるだろう。さっには他の奴らに女神さんに手を出したらどうなるかの見せしめだと言ったんだな?」
「うん」
「皆どうしてた?」
「青ざめて震えてた」
「だろうな」
「ギルマスがパーティ組んだらここはどうするんですか?」
「後任に他の奴を探す。ここのギルマスとしての仕事は誰でも出来る。心配なのはお前の事だ」
「女神様もここにいることが増えるんですよね?」
「いや、パーティーとして連れていく。女神さんはカナタのストッパーだ。賊の生首にも平然としてたから大丈夫だろ」
「私一人だけここに残るんですね・・・」
「一緒に来たいか?」
「え?」
「その代わり人を殺す事もでてくる。カナタは強烈な殺気を纏う存在になる。それにお前は親の事を思い出して心が壊れるかもしれんぞ」
「だ、大丈夫です」
「わかった。なら魔法を解禁する。冬の旅行が終わったら本格的に活動する。が・・・」
「が?」
「カナタは女神さんしか見えない。それを間近で見なきゃならん。耐えられるか?」
「もう何回も見てます」
「そうか。ならいい」
「カナタ、もうあんなことしないで」
「嫌か?」
「うん。賊とか魔物ならわかるけど」
「じゃあダメだと思ったら止めてくれ」
「わかった」
「カナタくん強いじゃない」
「貰い物のスキルだけどね」
「でもすごい迫力だったわよ。私もあんな風に自分の事で怒ってもらいたいわ」
「言い寄ってくる男多いんじゃないの?」
「ピンっと来るのはいないわね。私はカナタくんみたいな子が好きなの」
「ダメ、叶多は私のなんだから」
「ふふ、遊びでもいいわよ」
「ゆ、誘惑しないでよっ」
エリナは大人の女性。どこまでが冗談かわからんな。クロノが本気で怒ってないから冗談なんだろうけど。
そうこうしているうちにトーマスとシンシアがやってきた。
「待たせたな」
「大丈夫だよ」
「ちょっと予定が狂ってな。報奨金は入金でいいか?」
「いいよ。あとポーション補充すんだろ?その分引いとくぞ。ほらハンター証だせ」
はいと渡すとシンシアでなくトーマスが入金しにいった。
そしてポーションとハンター証を返してくれた。
「お前、Cランクに上がってたのか」
「え?いつ?」
「ハポネで上がってた。お前賊を討伐したと言ってたが、報奨金いくらもらった?」
「依頼達成で金貨30枚、懸賞金が金貨120枚だったかな」
「懸賞金がそんなに掛かってたのか。今回もかなり稼げたと思ってたが、それよりかなり多いな」
「今回はいくらだったの?」
「魔物、討伐クエスト、懸賞金ひっくるめて金貨50枚ほどだ。まぁ、大半が懸賞金だな」
「トーマスもちゃんと半分分前取ったよね?」
「ギルマスだから無しだ」
「そうなの?」
「まぁ、今までの稼ぎがあるから気にしなくていいぞ」
Aランクだっから金持ってるか。ここはありがたく貰っておこう。
そこからはたわいもない話をしながら飲んで帰ろうとすると、このまま閉店までいろと言われたので追加でワインを頼んだ。




