トーマスとトーバツ
溜まっていた洗濯をせっせとする叶多。
『下着でもポケットに入れとけ』
その言葉が頭を過るがブラジャーは大きい。が、流石にパンツを持ってるのはな・・・と洗濯機に入れた。
クロノにスカーフでも巻いといてもらうかな。それならポケットに入るし。
洗濯が終わったら秋物の服を買いに行くか。結構涼しくなってきたからな。
お昼ご飯を食べて洗濯物を畳み、エスタートの街に服を買いに行く。
「時間ないから少なめにな。ゆっくり出来る時にまた買いに来るから」
と服を選ばせている間にスカーフを何枚か購入。シンシアとリンダ、エリナへのお土産にしよう。
前よりは早く済んだが結構時間が掛かる。持てる量なので持ち帰る事に。
服を宿舎に置いて、クロノにスカーフを付ける。
「こんなの買ってたの?」
「クロノの身に付けてた物を持っておこうと思ってね。パンツでも良かったんだけどね」
「や、やめてよっ」
「だからこれにした」
「そっか。だからこんなにあるのね」
「シンシアとリンダとエリナの分もあるよ。お世話になってるお礼にと思って」
「みんなの臭い嗅ぐつもりっ?」
「違うわっ。他のは全部クロノのだ」
まずシンシアにスカーフを。
「私にですか。ありがとうございますっ」
「クロノのを買ったついでだから。もう少ししたら肌寒くなるだろ?」
「はい、大切にしますっ」
食堂のエリナにも渡す。
「ありがとうカナタくん。でもどうしていきなりスカーフなんてくれるのかしら?」
「クロノにたくさん買ったからお裾分けみたいなものだよ」
「そうなの。ありがとうね、ふふっ」
と予想以上に喜んでくれた。
カウンターに座って仕事をしながら俺達と話すエリナ。
「へぇ、それでクロノが身に付けてた物を持つの?」
「え、あ、うん」
「じゃあ、私が身に付けてたのも嗅いでみる?」
「だっ、ダメよっ」
「ふふっ、残念ながらお腹の空く匂いしかしないわよ。もう厨房の臭いが染み付いちゃってるもの。自分から揚げ物の臭いがするのよ」
それわかる。揚げ物したら髪の毛とかに臭い付くしな。
そんな話をしているとトーマスがやってきた。
「今日討伐だと言ってあったろうが」
「だからここで待ってたじゃん」
「お前、女神さん連れてくんだろ?そんな服と靴でどうすんだよっ」
と怒られてベリーカに戻り、クロノの服と靴を着替えさせた。
そして出発。
「どこに行くの?」
隣街へ抜ける街道と街道の抜け道だ。徒歩だとそこを通ると近いが、魔物や盗賊が出る。
「そこまでワープする?」
「いや、奴等はどこかで獲物を物色している。普通夜になる時間にここを通ろうとする奴は少ないというかいない。通るのは魔物討伐を受けたハンターぐらいだな」
「ハンターが賊に狙われんの?」
「ここのハンターの腕はしれてるからな。恐らく俺達は新人研修のハンターとして見られる」
「俺達を襲っても金目のものないだろ?」
「狙われるのは女神さんだ。弱そうで可愛い。尚且持たせた魔法使い用の杖。こいつはヒーラーが持つタイプの奴だ。そこそこ高値で売れる」
「何でクロノが狙われるような事をするんだよっ」
「そのうちお前が女神さんを討伐とかに連れて行きそうだからな。どうなるかしっかり体感しろ。俺が指一本触れささんから心配すんな。ただ、目の前で人が死ぬのを見ることになるかもしれんが女神さんはそういうの大丈夫か?」
「わ、わかんない」
「じゃあ、俺が合図したら目を閉じて耳を塞いででくれ。女神さんも討伐に付いて行くということがどんなのか知っておいてくれ」
トーマスは言葉で説明するより、体感させる目的でクロノを連れて来ていいと言ったのか。
しばらく歩き続けていくとクロノがチラチラと叶多を見る。パンプスじゃないから歩きやすいはずだけど楽しい道のりでもないのでもう歩くのが嫌なのだろう。
「トーマス、ちょっと休憩しない?」
「は?まだ出たばっかりだろうが?」
「クロノがもう歩きたくないみたいなんだよね」
「いつもはどうしてんだ?」
「荷車に乗せたり、キックボードに乗せたりとか。後はおんぶ」
「ちっ、ならおぶっとけ」
ということでクロノをおんぶする。
するとフンフンとご機嫌になった。
「いっつもこんなのか?」
「商売の時は荷車だからおぶって歩くのはあんまりないよ」
「まぁ、魔族領に行った時もお前抱っこして走ってたな」
ポヨンした時の事かと思い出すと背中に当たる男のロマンを意識してしまう。
まぁ、今日はスボンだしおんぶしやすいから安定しててそこまでムニョンとしないけど。
「カナタはずっとおぶってて大丈夫なのか?」
「こいつ軽いから問題ないよ」
「しかし、何だな。お前ら雰囲気変わったよな」
「何が?」
「初めはあんなにギャーギャー言い合ってたのに、今はそんなにイチャイチャしやがるとはな」
「イ、イチャイチャなんてしてないぞっ」
「いーや、してるね。女神さんの食べかけをアーンしてもらうとか他人がするかよっ」
「トーマスもシアちゃんの食べかけ食ったじゃないか」
「あいつは子供だからいいんだ。俺は親代わりだからな」
確かに二人は親子みたいな感じだけど。
「それに、お前シンシアに応えてやらんのだろ?変に期待持たせたらダメなんだよ」
「シアちゃんが俺達のハンター証に結婚の登録してくれたじゃない」
「ありゃ、形式的なもんだからだろ?今は本当の夫婦になったんだろが」
「本当の夫婦?」
「男と女の関係になったんだろ?」
二人して真っ赤になる。
「なってない、なってないっ。全然なってないっ」
「は?成人した男女が一緒に暮らしてんだ。それにそれだけべったりしてんだから今更照れんなよ」
「いや、マジなんだって。クロノは今は普通の女の子だけど、神様なんだからそういう関係になったらダメなんだって」
「は?」
「俺のいた世界は時間が止まってるだろ。で、それを解除するためにはコイツが自分の世界に帰らないと出来ない。俺とクロノがもしそういう関係になったらこいつは自分の世界に帰れなくなるんだよ」
「ということは?」
「何もないってことだよ」
「マジかよ・・・お前大丈夫か?」
「何が?」
「その欲求とかあるだろ?」
「ま、まぁ」
「わかった。これが終わったら娼館に連れてってやるよ。そういうとこも行ったことないんだろ?」
「カナタ、唱館ってなに?」
「し、し、し、知らないっ」
「女神さん。娼館ってのはな、男が金払って女を抱きに行く所だ。コイツが間違って女神さんに手を出したら大変な事になんだろ?だからそういうところで」
「いやーーっ!そんなの絶対にいやっ」
「だってしょうがないだろ?17歳っていったらそういうことに一番興味ある年頃なんだぞ。女神さんが襲われるかもしれんし、他の女に誘われてフラフラとやっちまうかもしれんだろが。なまじ普通の娘とやっちまったら責任問題になるからな。やるなら金払う娼館の方がいい」
「嫌よっ!それでも嫌なのっ」
「トーマス、気持ちはありがたいけど大丈夫だから。それにさ、30歳までそういうことしなければ賢者になれるって言い伝えがあるんだよ。そしたら魔王も確実に倒せるかも」
「お前、永遠の17歳なんだろうが」
あ、そうだった。
「ということは枯れる事もないってことだ。永遠に悶々としたものが続くんだぞ。早いうちに女神さんに納得してもらえ」
「嫌だって言ってるでしょっ!」
「女神さん、男ってのはな、どうしようもない衝動に駆られる時があるんだ。特にこうやって戦いの場に身を置くようになるとそれが強くなる。本能って奴だ。あと、カナタは不思議とモテんだろ?」
「し、知らないわよそんなのっ」
「黒髪が珍しいってのもあるかもしれんがそれだけじゃねぇ。シンシアがいきなりカナタを気に入ったのがその証拠だ。あいつ色んな奴に言い寄られても全く興味を持たなかったのにカナタは見ただけで惚れちまった。お前、魅了とか使ってないだろうな?」
「それ、本当にあるの?」
「魔族の中にそういうのを使う奴がいる。敵に惚れて魔族側にいっちまうんだよ。見た目は人とほとんど変わらんからな」
「そんな魔族いるの?」
「おう、ただそいつら自体は強くねぇから普通に夫婦になって暮らしてたら気付かん」
「それなら別にいいじゃん。被害ないんでしょ?」
「魔族側に行った奴は魔族を信仰しだしたりするんだ。頭の悪いやつは他の奴を勧誘したりするからバレる。頭の良い奴は勧誘せずに人間に紛れて、全面戦争になったときに味方だと思わせといて裏切るんじゃないか?」
ゆっくりと内部からってやつか。
「俺にそんな能力無いよ。使えるのは転移スキルだけ」
「向こうの世界ではモテたのか?」
「女の子とろくに話したことすらないよ」
「それにしちゃ、気の利いたもんシンシアとかに買ってくるじゃねぇか?」
「あれはクロノに買ったついでだよ。トーマスにも酒とか持って来てんだろ?」
「そういやそうだな」
「見ず知らずの俺にみんな親切にしてくれたから商売も出来てるし、楽しく暮らせてるからね。お礼の気持ちもあるんだよ」
「全く違う世界に来て楽しめてるのか?」
「そうだね。楽しいよ。こんなふうに女の子をおんぶして歩けるとか元の世界じゃ考えられなかったしね」
あー、なるほどとトーマスは思った。すぐにワガママを言う女神を仕方がなくおんぶしてるのではなく、カナタがこうしてたいんだなと。カナタの奴ベタ惚れしてんじゃねーか。
「わかった。娼館の話はなしだ。ただどうしようもなくなったら言ってこい」
「う、うん。ありがとう」
「カナタ、女神さんをおろせ。そろそろ来るぞ。お前が前衛、前に出ろ。俺は後ろと女神さんを守る」
「魔物とか賊とかは討伐証明残さないとダメなんだよね?」
「ああ、そうだ。 魔物の討伐証明はほとんど耳だ。人は首だな」
「了解」
カナタ達は警戒態勢に入り、そのまま進んで行った。